第24話 疎外感MAX

 這う這うの体で同級生が待つ拠点まで戻ってくると、何やら話し声が聞こえて来た。


「つまり、転校生は薪を拾いに行って帰って来ないんだね?」


「うん。大丈夫だって言うから行かせたんだけど、熊の雄叫びみたいのがしてたから、たぶんもう……」


「そうか。短い付き合いだったな」


 声は委員長と栄ちゃんだろうか?

俺が熊に襲われたことを把握していたが、どうやら助けに出ることは無かったようだ。

まあ、俺としても同級生に助けに来られて、あっさり返り討ちなんてことになったら寝覚めが悪いところだから、別にそれは良いんだ。

だけど、なんかあっさり俺の死を受け入れすぎじゃね?


「まあ、情が移る前で、かえって良かったのかもな」


「委員長酷い! 転校生君は、私たちのために薪を拾いに行ったんでしょ?」


 あれはメガネ女子か。

俺の事を庇ってくれるのは彼女だけか。


「いや、玉子が食べられなくなったのは大きいぞ!」


 ノブちんは食い気かよ。


「ああ、あれだけ・・は勿体なかったな」


 だけってなんだよ! だけって。

俺は疎外感をMAXに感じていた。

これがぽっと出の異分子である転校生の扱いなのか!


 どうしようか。このまま別行動でも良いんだけど。

ラキが居れば、俺だけならなんとかなりそうなんだが。

心配なのはメガネ女子だな。彼女だけは俺を心配してくれている。

あんな魔物四腕熊がうろつくこの森で、同級生だけで生き残れるのか?


 仕方ない。メガネ女子のために戻るとするか。

もう少し交流すれば俺も彼らに受け入れてもらえるかもしれないのだ。


「おーい、三つ編み女子を寄越してくれないかー?」


 俺は距離を取りながら、拠点へと声をかけた。

内緒話をしていた委員長たちは、ビクッと身体を震わせていた。

どうせ悪口を聞かれなかったか、背筋を凍らせたってところだろう。


「転校生君、無事だったのか! 心配していた・・・・・・よ」


 委員長が真剣な顔をして大嘘を吐く。

さっきまでドライに俺の死を受け入れていたのにな。


「魔物を仕留めた。

食えるかどうか判断して欲しいから三つ編み女子を寄越してくれ。

また血の臭いで魔物を寄せ付けたくない。

こっちまで来てくれ」


「了解した。直ぐに行かせよう」


 委員長が拠点内に何か言うと、三つ編み女子とバスケ部女子がこちらへとやって来た。

バスケ部女子は三つ編み女子の護衛だろう。

まさかパシリのように、俺が女子を襲うとでも思ったのか?

先程の会話のせいで疑心暗鬼に陥ってしまう。

俺は、アイテムボックスを隠蔽するべきかと考えて、彼女たちがこっちに来る前に四腕熊よつうでぐまを取り出しておいた。


「魔物を狩ったの?」


 三つ編み女子はナイフを手にやってくると獲物に視線を向けた。


「これは熊か!」


 バスケ部女子も驚いている。

彼女はこの委員長グループの中でおそらく一番レベルが高いレベル4だ。

その彼女でも、この熊は倒せないと思ったのだろう。

いや、俺もラキが居なかったら倒せなかった。


 そういえば、ラキが倒したのにも関わらず、俺には経験値が入っていた。

その経験値は膨大で、俺は今レベル9になっていた。

どうやら眷属が倒した経験値は主のものになるらしい。

もしかすると、今度は四腕熊よつうでぐまも自力で倒せるかもしれない。


「ああ、が倒した」


 本当はラキが倒したが、ラキの存在も隠すことにした。

あれだけ疎外感MAXにされると、俺が生き残るために隠すべきだと直感したのだ。


「凄いな!」


 バスケ部女子が賞賛の目を向けて来る。

おお、バスケ部女子の好感度も上がったか?

これで俺を好意的な目で見てくれるのは2人目になるかな?


「まあ、旧キャンプ地のグレーウルフにも手伝ってもらったがな」


 俺は一応、実力の一部も隠すことにした。

それにグレーウルフのことは事実だしな。


「グレーウルフ?」


 バスケ部女子が首を傾げる。

ああ、そう言えば、グレーウルフという名は俺が勝手に付けたんだった。


「色がグレーの狼だったから、が勝手につけた。

2mぐらいある狼の魔物だよ。

こいつと戦わせた後、こいつが残ったんでが倒した。

たぶん、旧キャンプ地に行けば毛皮ぐらい手に入るんじゃないか?」


「そうか、後で回収するかどうか委員長と相談する」


「そうしてくれ。

で、三つ編み女子、こいつは魔物だが食えるのか?」


 今までは魔物を食えないものとして扱って来た。

まあ、ゴブリンは人型なので忌避感があって皆も避けてきたが、熊系ならば食えないことは無い。

ここで魔物が食材となるか鑑定出来れば、今後の展開も変わってくる。

食えそうな魔物は食って行かないと16人もの集団は維持できなくなる。

そうなると一番割を食いそうなのが、疎外感MAXの俺なのだ。


「普通に食べられるって出たよ。

でも、上半身はどこに?」


 ああ、上半身はラキがドラゴンブレスで吹き飛ばしたんだった。

どう言い訳をする? あ、簡単じゃないか。


「持ち運べないんで、腹の傷から切断して持って来た。

この先にあるはずだが、魔物が寄って来ていそうだから、回収はあまりお勧めしない」


「そうか、そうよね。

なら、ここも早めに処理をして【クリーン】をかけてしまいましょう。

転校生君、水トカゲ貸して」


「お、おう」


 そう言うと三つ編み女子は【料理神の加護】を使って四腕熊よつうでぐま――上半身が無いのでただの熊にしか見えないが――を解体しだした。

三つ編み女子もなんだか距離感が近い気がする。

3人目か?


 こうなると、益々委員長グループから抜けられなくなりそうだ。

三つ編み女子はさっと熊を解体すると、毛皮と肉と骨とその他に分けた。


「転校生君、こっちは火魔法で焼いちゃって」


「お、おう」


 俺は指示通りに内蔵を含むその他を火魔法で焼いた。

これはどうやら臭い対策のようだ。

血の臭いにより魔物を寄せ付けないための措置だろう。


「じゃあ【クリーン】」


 なんと三つ編み女子は【クリーン】が使えるようになっていた。

レベルが上がって使えるようになったのか、それとも使えることに気付いたのか。

料理がらみのスキルということなのだろう。


「肉も多いわね。

バスケちゃん、これを運ぶ人を呼んで来てくれる?」


「そうだな。護衛は転校生君で問題ないからな」


 そう言うとバスケ部女子は拠点へと戻って行った。

バスケ部女子がここを離れると、三つ編み女子は俺に振り返ってこう言った。


「さてと、邪魔者は帰したわよ?

君が隠しているのは何かしら?」


 俺は心臓がドキリと跳ね上がるのを感じていた。

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