第18話 この猪って食えるの?
猪は体長1mほどで、獣ならば成獣のサイズだろう。
だが、これが魔物の子供だと言われれば否定のしようが無いのも事実だった。
ノブちんたちは、蔦で縛った猪の足に丸太を通して、わざわざこの猪を担いで来たのだ。
安全ならば食べたいところだろう。
それに、魔物食が危ないという情報もラノベ知識から来ている。
案外街に行けば普通に魔物が食べられているのかもしれないのだ。
このような獣型の魔物であれば、ゴブリンなんかの人型魔物より、口にするハードルは遥かに低いと言えよう。
食べられるなら食べたいと全員が思っていた。
「そもそも、解体出来なければ食べられないよね」
委員長が悩ましげに言う。
丸焼きという手もあるけど、血抜きして内蔵を出して毛皮を剥いで肉にした方が、間違いなく美味しいはずだ。
そこで前回スキルを公表しなかったメンバーもスキルを開示することとなった。
マドンナみたいに、自らのスキルを誤解している者がいないとも限らないからだ。
あの時はマドンナが聖魔法系スキルと判明し、そのスキルでバレー部女子を治せてしまったため、そこで有耶無耶のうちに公表が止まってしまっていた。
「これからの皆のために、全員のスキルを把握しておこう」
委員長の提案で残りの委員長、貴坊、せっちん、三つ編み女子、腐ーちゃん、裁縫女子、バスケ部女子、バレー部女子、そして俺もスキルを公表することになった。
レベルアップすることで新たなスキルが手に入ることは委員長から公表されていたため、既にギフトスキルを公表している者も、他にスキルを持っていないか話すことになったため、そこに含まれていた。
委員長は【統率】。
人を率いるスキルらしい。
委員長らしいスキルだが、ヤンキーたちに効果がないのはなぜなのだろうか。
貴坊はご存知【予知】。
レベルアップもしていないのでそのままだそうだ。
ゴブリンでも狩ってレベルアップすれば、予知の精度が上がるのかもしれない。
せっちんは、ご存知【火魔法】かと思ったが、正式には【火神の加護】だそうだ。
【火魔法】が使えるのは当然で、他にも【火耐性】があって火傷しないそうだ。
もしかすると、俺の【たまご召喚】のようにギフトスキルには複合した能力があるのかもしれない。
これはせっちんの公表のおかげで得た新たな事実だった。
三つ編み女子は【料理神の加護】。
料理スキルらしいが、このサバイバル状態では料理らしい料理をしていないので、詳細不明だそうだ。
まあ料理が得意なんだろう。
腐ーちゃんは【腐神の加護】。
わけのわからないスキル筆頭で、本人曰く【腐蝕攻撃】が出来るそうだ。
さすが腐女子、ラノベ設定の造詣が深い。
裁縫女子は【裁縫神の加護】。
詳細不明。裁縫の機会が無いのだから当然か。
まあ裁縫が得意なんだろう。
バスケ部女子は【シュート(手)】。
手による攻撃スキルらしい。
サッカー部女子の【シュート(足)】に似ているが、バスケ部女子の方は手に持った武器でも攻撃にスキルが乗るそうだ。
レベルアップ済で、他にも【身体強化】を得ていた。
俺もそうだったが、レベル2に上がると【身体強化】が生えるのか?
怪我をした本人で、スキルを公表する立場になかったバレー部女子。
彼女は【アタック】。
たぶん攻撃スキルとのこと。
運動部女子3人のスキルは何やら化けそうな気がする。
そして俺。
レベル4だということ、本当のスキル名は【たまご召喚】であること、ギフトスキルは成長するということ、他にもスキル【身体強化】【火魔法】【生活魔法】を持っていること、そして眷属に水トカゲ、土トカゲがいて、それぞれ【水魔法】【土魔法】を使えることを公表した。
皆、驚きを隠せなかったが、毎日ゆで卵を供給していることで、委員長だけは薄々気付いていたらしい。
器(土器)、水、火、玉子が揃わなければゆで卵は出来ないからだ。
そしてバレー部女子の治療で【生活魔法】が使えることは公表していた。
少なくとも5つのスキルが使えないとおかしいのだ。
俺からゆで卵を得て配っていた委員長と、結果としてのゆで卵を手にしていた他のメンバーとでは認識に差が出ていたのだ。
「ギフトスキルが成長する、しかも複合した能力を持つスキルならば、【料理神の加護】で食材の鑑定が出来ないかな?」
腐ーちゃんが、思わぬスキルから対処法を発見した。
「どうだろう? 使ったことないから……」
半信半疑で【料理神の加護】を使う三つ編み女子。
「あ、肉が美味しく食べられるって出た!」
腐ーちゃん、ビンゴだった。
「さすが、腐ーちゃん頼りになる!」
何度も言うが腐ーちゃんというあだ名は敬意を込めてそう呼ばれている。
「では、どう捌くかだが……」
委員長が次のステップに移行しようと声を上げる。
しかし、その必要は無かった。
「食材を下ごしらえするのは料理の基本です」
三つ編み女子が全て出来てしまうと判明したのだ。
本人も気付いていなかったことなので、驚いていたが……。
「誰かナイフを」
「これをどうぞ」
俺は錆びたゴブリンナイフを三つ編み女子に提供した。
「汚い。却下」
「では【クリーン】。これでどうでしょう?」
三つ編み女子はじっとゴブリンナイフを見て指示を出す。
「誰か、砥石を河原で見つけて来て」
俺はすかさず眷属の土トカゲに砥石の提供を依頼する。
すると土魔法で砥石が生成されて出て来た。
トカゲが砥石を知っているわけではないので、おそらく俺の知識が影響して砥石が作られたのだろう。
トカゲたちは、謂わばその属性の精霊のようなものなのだ。
「これを」
俺は三つ編み女子に砥石を渡した。
三つ編み女子は砥石をじっくり眺めると「合格」と言って受け取った。
「水!」
「はは!」
俺は水トカゲに水を出させた。
三つ編み女子はその水で砥石を湿らせるとシャカシャカと研ぎだした。
その間も「水!」の声とともに水トカゲが水を出し続けた。
どうして俺の眷属が、三つ編み女子の指示に従っているかは不明だが、MPも消費しないので、まあいいかと俺はスルーした。
「転校生君、水トカゲ貸して。
今から猪を解体します」
どうやら解体には大量の水が必要らしい。
俺が水トカゲに「大丈夫か?」と目で問うと水トカゲが頷いた。
「大丈夫なようです。どうぞ使ってやってください」
「転校生君、ありがとう。
トカゲちゃん、まずは猪の腹を割きます、水で洗い流してください」
こうして三つ編み女子の猪解体が始まった。
彼女自身も腐ーちゃんに指摘されるまで、自分が解体出来るなどとは思っていなかったらしい。
猪が料理の食材だと認識したとたん、全ての工程が頭に浮かんだんだそうだ。
血抜きは心臓が動いているうちにするものらしく、今回は水で流せるだけ流すにとどめるらしい。
あれよあれよという間に猪は解体されて肉となった。
「火、フライパン、調味料!」
続けて料理をしようとした三つ編み女子だが、調味料はこの場には無かった。
火は俺の火魔法で焚火をし、プライパンは土トカゲが土魔法で作った。
「調味料があれば、最高の料理が出来たのに!」
悔しがる三つ編み女子が作ったのは、素材の味が生かされただけの焼き肉だった。
それが血を失ったバレー部女子にはどれだけ有難かったか。
もちろんゆで卵しか口にしていなかった全員も、その味に涙したのだった。
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