第2話 同級生という他人
「ふん!」
緑色の小人は、リーゼントのヤンキー1が金属バットの一撃で倒した。
「なんだあっけねーな」
この男は野球部なのだろうか?
俺たちがいたのは朝のHR時間の教室。
なぜ朝の教室で彼は金属バットなど持っていたのだろう?
とりあえず同級生たちに遠巻きで合流しておく。
俺は自己紹介もまだでクラスにとっては全くの他人だったからだ。
同級生からは誰こいつ?という奇異の目が突き刺さる。
当たり前だ。今日会ったばかりの転校生だからな。
完成されたコミュニティーに異物が入ったようなものなのだろう。
「ええと、31人?」
眼鏡をかけた、いかにも学級委員長というタイプの男子が、どうやら人数を確認したらしい。
「そうか、先生を入れて……。いや、居ないのか」
委員長は周囲を見まわして先生がいないことを確認した。
どうやら先生はクラス転移に巻き込まれなかったようだ。
つまり、この転移にはなんらかの人為的な選択が働いている?
「おう、先生はいないみたいだぞ」
「じゃあ、なんで1人多いんだよ」
それは俺という転校生を忘れているからだ。
「転校生だよ。ほら、そこのブレザー」
「「「「「ああ!」」」」」
みんなで納得するんじゃない。
黒の学ランの中で俺だけブルー系のブレザーだけどさ。
「えーと、
委員長は俺の名前が思い出せないと首を傾げている。
当たり前だ。俺はまだ自己紹介もしていないんだからな。
「あん? 転校生でいいだろ」
「……」
俺が自己紹介するかと声を出そうとすると、いかにもヤンキーという感じの短ランボンタンと呼ばれる改造制服、インナーに赤いTシャツを着た男が遮って来た。
俺が転校して来た田舎は、絶滅危惧種の珍走団が未だに走っているようなところだった。
なので公立中学の生徒の約半分はヤンキーなのだ。
ヤンキー2の圧力に委員長は押し黙り、俺も自己紹介をする気力が萎えた。
めんどくさい予感がする。
「転校生君も、こっちに来なよ」
それでも委員長は気を使って俺を呼んでくれた。
俺だけ遠くに転移して来ていたので距離があったのだ。
それには何か理由があるのだろうか?
あの時、一歩外に出たからか?
俺は居心地の悪い集団に近づいて行った。
「これって異世界転移、所謂クラス召喚というやつなんだな」
オタク系の男子が囁く。
「ノブちん、それって何のこと?」
委員長が食いつく。
ノブちんと呼ばれた小太りの男子は、自説を披露する。
「今流行りのラノベの設定によくあるパターンなんだな。
クラス全員が異世界に転移させられて冒険するんだな」
「なんだそりゃ! ふざけやがって!」
ヤンキー3が叫ぶ。
こいつは金髪で短ランストレートの改造学生服を着ている。
Tシャツの拘りは特に無いようだ。
「まあまあ、情報は多い方が良いから聞こうよ」
委員長がヤンキー3を宥めてノブちんに先を促す。
「みんな勇者として召喚されるのが定番なんだな。
異世界転移するとチートスキルが貰えるんだな」
するとノブちんがいきなり叫びを上げた。
「ステータス、オープン!」
ノブちんの叫びとともに、ノブちんの目の前に薄い半透明の板のようなものが現れ、文字と数字が表示された。
名前:ノブちん
人種:ヒューマン
職業:なし
レベル:1
HP:10
MP:6
スキル:なし
ギフトスキル:脂肪の盾
「ぶはっ! なんだよ、脂肪の盾ってw」
「おいおい、どこが勇者だよ! 職業なしじゃねーか」
ノブちんのギフトスキルはヤンキー2にバカにされてしまった。
どうやら「オープン」を付けると全員に見られてしまうのはお約束らしい。
俺も少しはラノベを読んだことがあるので、そこら辺の知識はあった。
ここは信用出来ない連中、特にヤンキーたちには自分のスキルを知られないようにするべきだろう。
俺はこっそり「ステータス」とだけ唱えた。
すると俺の目の前だけにステータスが表示された。
隣のやつを見る限り、俺がステータスを出していることは気付かれていないようだ。
名前:転校生
人種:ヒューマン
職業:なし
レベル:1
HP:19
MP:20
スキル:なし
ギフトスキル:た*まご?召喚
「はぁ?」
俺は声が出そうになって思わず口を押えた。
名前が転校生って何だよ。
しかもギフトスキル:た*まご?召喚って……。
しかも文字化けしてる?
これは皆に知られないようにしないと……。
「おい、転校生、お前のスキル見せろや!」
ああ、短ランボンタン赤Tのヤンキー2に絡まれてしまった。
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※登場する人物・団体・田舎・地方には特定のモデルはありません。
作者が勝手に作った架空の田舎なため誇張された表現があります。
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