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 気づいたら勝手に足が動き出してた。スニーカーのソールが急な変化にびっくりして、ワンテンポ遅れて変形するのを足の裏に感じた。

「スイッ!?」

 サクの珍しく大きい声を置き去りにして、あたしは目標をセンターに入れて猛ダッシュした。

「ドロボー!!」

あたしがたった今与えた名前には、当然なんの反応も示さずに、ドロボーはまっすぐ逃げていく。あたしの半分くらいの身長で、ギターを抱えているのにすごい速い。

町には人がまばらで逃げるドロボーと追う私を珍しそうに見るばかりで、一緒に捕まえようとしてくれる人はいない。

と、ドロボーは急に直角に曲がって細い路地に飛び込んでいった。

「やば!」

 路地の汚さに一瞬気後れしたけど、すぐにあたしは隙間に体を捻じ込ませた。排気口やら窓枠やらに体をゴリゴリ擦られながら進んでいるうちにドロボーは路地を抜けて見えなくなった。ヤダヤダヤダ。無意識に呟きながらようやく路地を抜けると、いきなり丸くひらけた地面の氷の白さが目に刺さった。周囲を家の外壁に囲まれた空き地の真ん中には、さっきまで猛スピードで通り過ぎてきた他の家とほとんど変わらない木造の家が建っていた。

あたしはホッと息をついた。逃げ場はあそこしかない。ドロボーの家だと思うとちょっとビビるけど、ここで逃げるわけにはいかない。ゆっくりと正面玄関に近づく。よく見ると煙突からけむりがもくもく上がっている。ドロボーのくせにやけに開けっ広げじゃん。玄関横の小窓から中を覗いてみると、いろんな紙束とか難しそうな本とよくわからない電子機器がごちゃ混ぜになっていた。本当にドロボー?もっと敵を探ろうと、首を伸ばしかけたその時、誰かに肩を叩かれた。

「ひっ」

抵抗する自分の首を無理矢理後ろに向けると、目の前には唇に人差し指を当てたサクの顔があった。

「サクぅ」

 ちょっとだけ顔を出した涙をグッと引っ込める。

「急に走ってビビらせんなよ、大丈夫?」

「あたしは大丈夫だけど、ギターが……この中には絶対いる」

「どうする?直接いくか?」

「えっ。でもなんかすごく怪しいし、この星の保安隊とかに連絡した方がいいかも」

「いいの?そんなことしてる間にあんたのギターバラバラにされて改造されちゃうかもしんないぜ」

「はっ?ふざけんなし!」

「でかい声出すなバカ!バレたらどうすんだよ!」

「あんたもでかい声出してんでしょバカ!つかバカって言うな!だいたい変なこと言い出したあんたが悪いんでしょ!」

「元はと言えばこんなとこにまでギター持ってくるスイが悪いんだろ!アホ!」

「うっさ「あの……うちに何か用かな?」

あたしとサクは掴み合いになりかけの姿勢のまま固まった。同時に玄関をみると無精髭を生やしたメガネの男が扉から半分体を出して申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。

「ドロボーー!」

 あたしたち二人の声に男は一瞬目を丸くした後、「またかぁ」と小さなため息をついた。

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