髪を染める

@hogehage

髪を染める

 100点を取ると先生が褒めてくれる。

 私は、そういう理由で勉強を頑張れる子供だった。

 だから、高校二年の最後の方になって、いざ進路の話をされると困ってしまったのだ。

 その学力なら医療系の大学に進むのがいいと言われて唯々諾々と従った私は、三年生になると、そういう秀才じみた学生が集まるクラスに属することになった。

 そのクラスの男女比率は七三分け9に黒髪おさげ1くらいで、看護系に進む子の多かった隣のクラスとの落差がひどかったのを覚えている。

 七三分けたちは、私たちよりは隣のクラスのきらびやかな女子たちにご執心で、たびたび意味もなく様子を見に行っては、そこにどんな楽園が広がっていたかについて談義していた。

 だから、私が初めて髪を染めたのも、その楽園にあこがれたからということになる。

 髪を染めると言っても、先生に気づかれたら褒めてもらうどころではなくなってしまう。

 おっかなびっくり一番黒に近い色を選んだところまではそれほど悪くなかった。

 けれど、どんな色であろうと染めた髪を放っておくと、色落ちしてキラキラ光ってしまうという常識に近い情報を持たなかったせいで、ひどい目にあった。

 やがて色落ちした私の髪は、陽光に当たると茶色に輝くようになってしまい、席替えで窓際の席になった時には、先生に気づかれてしまった。

 職員室に呼ばれた時は、生きた心地がしなかった。

 内申点に響くだろうし、進路や人生の心配までしたものだ。

 気の迷いでそういうことをしてしまう生徒は多いことと、そういう生徒への一度や二度の目こぼしはするものだと先生から聞かされて、その場に崩れ落ちそうになるほど安心したのは今でも鮮明に覚えている。

 私の人生で髪を染めたのは、今のところ、あの一度きりだ。

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