青鉛鉱はガーベラと歌う
藤和
博物館
久しぶりにこの星に来た。
今回も仕事で訪れたのだけれども、フリーの時間に僕が必ず足を運ぶ場所がある。それは、ミネオールと呼ばれるうつくしい人形を展示している博物館だ。
ミネオールというのは、この星で子供の情操教育用にほぼ全てと言っていい家庭で購入される鉱物を食べる生きた人形、クレイドールが、最期を迎えるその瞬間に突然変異を起こして鉱物の自覚を持ち、もう幾何か寿命を延ばした人形だ。
この奇跡と言っても差し支えの無い突然変異は、どのように起こるのか。それは今だ解明されていない。
僕は今までに何人かの、生きているミネオールと交流があったけれども、本人達も、なぜ自分がミネオールになったのかはわからないようだった。
ただ、クレイドールとしての最期を迎えるその時に、ふっと、自分はなにかしらの鉱物になったのだという自覚を持ち、その鉱物に相応しいものへと姿を変え、新しい命を得るのだという。
しかし、そのミネオールも人間ほどは長生きできない。この博物館には、命が尽きたミネオールがたくさん展示されている。全て、元のオーナーが大切な自分の人形を後々まで残したいと願って、もしくは、ミネオールの研究の役に立つならと、こういった施設に寄贈しているらしい。
この博物館に置かれているミネオールの中には、僕と交友のあったものもいる。かつての思い出に浸りながら、僕は何時間も飽きずにこの博物館の中を巡るのだ。
僕が初めて出会った硫黄のミネオールの抜け殻に、久しぶり。と声を掛けてから少し視線をずらす。すると、以前来た時にはそこにいなかった、青い髪に深い空色の瞳のミネオールが目に入った。
新しくここに寄贈されたのか、それとも展示の配置換えか。それはわからないけれども、僕はこのミネオールを初めて見た。
青いミネオールの前に置かれたキャプションを見ると、真っ先に目に入ったのは、歌が上手かった。という一文だ。
この星の人形、クレイドールとミネオールは、神様を祀る菜の花の祭りの時に歌と踊りを捧げている。そういった風習があるのだから、きっとこのミネオールは、他の人形たちから歌の教えを請われていたのかもしれない。
けれども、この青い人形の歌の記録は残っていない。いや、もしかしたら、この人形のオーナーの元には録音が残っているかもしれないけれども、少なくともその音声データはここでは公開されていない。
青い人形をじっと見つめる。このミネオールの一生は、どんなものだったのだろう。少なくとも、幸せな一生であったことは確実だ。なぜなら、この博物館に収められているミネオールだけでなく、ミネオールになることができなかったクレイドールでさえも、全ての人形は幸せな一生を送っているからだ。
今目の前にいる青い人形の幸福な一生はどんなものだったのだろう。それを思って、僕は青い人形の前に置かれているキャプションに目をやった。
この人形は、青鉛鉱のミネオールらしい。青鉛鉱になる前と、なった後の物語を、僕は知りたい。
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