一目惚れをした美少女にその場で告白したら「結婚してくれるなら」と返された件
孔明丞相
第一章「結婚」
第1話「プロローグ」
「今日は何時頃に帰って来れそう?」
「そうだね......。あまり遅くならないように頑張るつもりだけど涼音ちゃんが起きているうちには帰れなさそうかな」
「......そう」
慎司はその変な間を少し訝しんだものの、深くは追求することなく、目前に置かれたコーヒーを啜る。そういえば涼音がここへ始めて来た時も心を落ち着けるためにコーヒーを啜っていたような気がする。
その時の涼音は何をしていたのだろうか。初めてくる家が珍しいのかキョロキョロと辺りを見渡していたような気がする。あの頃がふと蘇ってきて、慎司はくすり、と思わず笑みを溢してしまう。
それに気がついた涼音が何事かと慎司の顔を覗き込んでくる。その時にちょうど慎司がコーヒーをテーブルの上に置いたからよかったものの、もしも持っていたままならば残っていたコーヒーが涼音の身体にかかっていたかもしれない。
「危ないよ?」
「まぁそこまで熱くはないでしょうし、もし掛かればシャワーを浴びるから大丈夫よ」
「ん......問題はそう言うことじゃないんだけど。まぁいいや、それで僕の顔を覗き込んでいったいどうしたの?」
「旦那様は何を見て笑っていたのかな、と思って」
「ん......過去の記憶かな」
「えー何それ」
「涼音ちゃんと出会った時のことを思い出していたんだよ」
素直にそういうと、涼音は「あぁ、あの頃ね」と遠い目をしながら呟いた。実際にはつい一週間前の出来事なのだが、すっかり遠い過去の記憶となっているらしい。慎司にしてみてもその感じが少なからずあるのは事実なので、落胆するようなことは全くなかったのだが、あの時はよくもまぁ男気を出せたなぁ、と少しだけ誇らしく思う。
「旦那様はほとんど成り行きじゃない」
「そ、そうかな」
「そうよ。最初、私が助けを求める視線を送ったのに、なかなか助けてくれなかったし」
「あの時は僕に助けを求めているとは思ってなくて......」
「でもその後は初めてにしてはよく頑張っていたと思うわ」
「涼音ちゃんも初めてだったろうに」
「......わ、私はモテモテだったんだから普通にあるわよっ」
慌てて、顔を朱色に染めながら否定する涼音。慎司は「あ、初めてだったんだ」と逆に確信した。その仕草が可愛らしくて慎司は再びくすり、と笑ってしまった。
「も〜、何なのよ〜」
涼音は慎司の頬をむにっと抓り、うりうりと動かした。
「やへて〜」
「もしかして旦那様ったら、あの日の全てを思い出しているの?」
慎司の頬を動かしていた手が止まり、確信を得た、といった表情の元に涼音が頓珍漢なことを呟いた。あの日の全てと言うのは言葉通りで、涼音と出会ってからどんな経緯があって今こうして朝を涼音と迎えているのかまでを振り返っているのか、と言うことだろう。
そこには当然、思い出したくない、できれば永遠に闇に葬り去ってしまいたいこともあるので不正解ではあるのだが、それすらも教えずににこにこと笑みを浮かべるだけに留める。
「......言ってくれないならあの日の旦那様の言葉を今ここで私が再現してあげるわ。具体的には私が助けての視線を送ったときの旦那様の挙動不審な動作から」
「ちょ、ちょっと待って?!ちょっとした悪戯心で言わなかっただけで、本当は思い出してもないよ!」
「じゃあ何で笑ってたのよ〜」
「それは......涼音ちゃんが帰りは遅くなるって言った時に寂しそうにしてたから」
「べ、別にそんなんじゃないわよ!!」
「本当かなぁ?」
「......ただ、もう少しだけ早く帰ってきてくれないかな、と思っただけ」
慎司はいじらしい涼音をそっと抱きしめた。
彼女の温もりが慎司の身体にも伝わってくる。これで今日のお仕事も頑張ろうと言う気持ちになった。具体的には身体が壊れたとしても涼音が起きている間に戻れるようにしようと思うぐらいには。
「頑張って、早く帰ってくるね」
「約束よ」
「うん」
慎司と涼音が出会ったのは一週間前である。
一緒に暮らすことになったのも一週間前である。
そして、結婚したのもその件の一週間前である。
慎司は出会ったその時に勇気を出して涼音に告白した。それが実り、慎司と涼音は夫婦になったのだ。
この物語は交際0日で結婚した新郎である18歳の葦原慎司とその嫁である16歳の涼音との夫婦の様子を描いたいちゃいちゃラブコメディーである。
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