虚無
キザなRye
全編
個性という個性が根こそぎ削り取られた人間みたいである。
周りの人がこれ以上にないほど笑っていても、卒業式で皆がワンワン泣いていても、体育祭で一位になっても表情一つ変えない。
またコレコレをどう思うか、と聞かれても特に意見なしの一点張りだ。
感情の起伏も意見も持たないので崇の人間性は誰一人として知らないし、興味をも示さない。
実は崇の感情の起伏や意見がないのには家庭環境が影響していた。
崇は三人兄弟の真ん中で兄とは比べられお前は出来ていないというようなことを言われ、末っ子は勉強が出来ないがよくある末っ子には手をかける系の親なので構ってくれない。
さらには家事の手伝いなどは兄や弟はやってくれないのですべてを自分でやらざるを得ない不公平にも関わらず、兄や弟がやっていないことが分かっても軽く貴方たちもやってよね、くらいのことしか言われてきていないので自分の価値観は低いのだなと感じることとなった。
これが長い間続くようになっていた崇はあくまでも自分への言い聞かせとして自分はここの家の子ではないんだ、とか奴隷なのだ、とかそう思って家族に奉仕していた。
また他の兄弟よりも頻繁に雷が落ち、自分の意見を聞かれ答えるとその意見を真っ向から否定されてしまう。
こんな日々が続いていったので崇は感情という感情を捨てて意見は周りに合わせることによって余計な迷惑を避けようとしたのである。
先生やクラスメイトも崇の“思い”は何も知らず、“空っぽ”な子としての認識が根付いてしまったのだ。
崇は周りからどう思われていようと問題なかった。
ただ自分が理不尽な対応を取られないように出来れば何でも良かった。
ある日、2年4組に転入生が来た。
茶半里の土地は初めてみたいな人なので学校でもとにかく早く友達が作りたいという気持ちが大きかった。
たまたま席が崇の隣になったので積極的に崇に話しかけた。
多分崇が中学校に入ってからこんなに話しかけられることはなかったくらい話しかけた。
崇自身、人と話すことは嫌いではなかったが極力人と話すとボロが出るかもしれないと思い話しかけるのを控えてきた。
それだけにこんなに話しかけられると崇も反応に困る。
ある種では初対面から悪印象を与えてしまうのではないか、ある種では自分自身が変われるチャンスだ、とこの子と話すことによるメリット・デメリットを頭の中で思い浮かべて今後の方針を決めかねていた。
崇が家でのことがなかったら何の迷いもなく話すことを選んだだろうが、今の彼には“どれだけ自分に余計な被害が来ないようにするか”が最優先事項のためこの決断は大きかった。
次の日も次の日も席が隣の子は崇に話しかけた。
崇が何も話さないにも関わらず、である。
他にも色々な個性を持った子がクラスにはいる。
それでも崇に話しかけていた。
周りにいる人は“崇に話しかけても無駄だよ”と説得して“話したいことがあるなら僕たちに”と崇からどうにか離そうとした。
これは虐めとかそういうことではなくて無意味なことを避けさせてあげようという優しさから来ているものであった。
それでもなお諦めずに崇に対して話をしていた。
“孤独”をどうにか避けさせてあげようという優しさがあったのだと思う。
一方崇は毎日のように、うるさいくらいに話しかけてくる新たなクラスメイトをどうにかしなくては、と思っていた。
話すことは
何かきっかけでもあれば話すのだろうに。
ある日の国語の授業で突然隣の人と意見交換をしなくてはならなくなった。
崇はどうにかして喋らないように、と思っていたのに授業の構成上喋らなくてはならないというのは少し苦痛だったと思う。
それでも授業は真面目で周りは気付いていないかもしれないがそこそこ頭も良い。
自分の都合で授業を放棄するなんてことは崇に出来るはずもなくてやむ終えず話した。
すると隣の子はこれまでにないくらいキラキラと輝いた笑顔を見せた。
大人っぽいというよりも子供っぽい可愛い笑顔である。
話してくれた崇の言葉をウンウンと頷いてにこやかに聞いていたので崇も相当話しやすかったのだと思う。
授業が終わってからも崇は少しずつ隣の子とのみ話すようになっていた。
それを見ていた他の人も一人、また一人と崇のところへ話しかけにいくようになり、崇は最初は嫌な顔をしたが唯一話す子の熱烈な押しによって話すようになった。
気付いた頃には崇はクラスでは他の人と同じような一人の人間になっていた。
これもあの転校生のお陰である。
一方、家族での崇は未だに変わっていないのだとか。
今後の関係改善に期待、というところだろうか。
まだまだ伸び代だらけである。
今、崇とその子の関係性がどうなったのか、茶半里中学校に行ったら多分分かるだろう。
虚無 キザなRye @yosukew1616
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