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 その瞬間は、突然、不意に訪れて。

 自分は、何もできず。見つめるだけだった。


「大丈夫。変なことはしてない」


 見つめただけ。目も合ってない。


「自分は」


 彼女にとって、何者でもなかった。

 それが、いたいほど。わかった。

 わかったから。

 もういい。

 夢と幻想のなかに消えてしまおうと。

 なんとなく、思った。


「もう、いいか」


 充分、がんばった。

 がんばったから。

 夢も。現実も。どうでもいい。

 両方とも、いらない。

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