1-5 魔銃の紛失に動揺する若い銃士

 パズルドはアッシュの手から魔銃が消失する瞬間を目にしたが、体に吸収されるとは思いもしないから、落としたのだろうと判断した。


「おいおい、持てないなら最初から言えよ」


 不平をこぼしながらパズルドは地面を探すが、すぐには見つけられない。魔銃は黒鉄色をしているから闇に隠れて、少し離れた位置にでも転がったのだろうと思いこむ。


「グラト副隊長。捕虜の一人が魔銃を落としてしまい……。何かの拍子に蹴り飛ばされでもしたのか、見当たりません」


「そうか……。不測の事態に備える。適性の確認は一時中断だ。捕虜は両手を見える位置に上げて動くな。キーシュ、カムハン、お前達はパズルドを手伝って魔銃を探せ」


 適性試験を指揮するグラトが部下に指示を与えていると、それを輪の外から見ていた大公が、皮下脂肪の詰まった頬の上で眉をひそめ、隣の十二番隊長に不平をこぼす。


「おい、ヴィドグレス卿。時間は有限だぞ。これ以上は、臭いに耐えられん」


「……かしこまりました。グラト。適性者からでいい。進めろ」


「分かりました。適性のあった者は俺についてこい。以後はカムハン、お前に任せる」


「自分が……ですか」


 十一番隊のカムハンはパズルドと近い年頃の若い銃士だ。短い金髪の下にある瞳を大きく開いてから十二番隊副隊長のバーンが立つ方へ顔を向ける。自分より階級が上の者がいるのにも拘わらず、適性試験を任されたことに戸惑ったのだ。

 動揺を見てとったグラトは、部下の肩を叩いて視線を呼び戻し、不安色の瞳を覗きこむ。このときばかりは冷徹な眼差しに常より熱があった。


「カムハン。お前に任せた。俺の信頼に応えてみせろ」


「はっ! 了解いたしました。カムハン、魔銃適性試験の指揮を引き継ぎます」


 こうして大公と十二番隊長は、グラト以下数名の魔銃使いとともに、魔銃適正のある六名の捕虜を連れて、森の外に構えた陣幕へと去っていった。アッシュがその様子を横目に確認していると、オズロが熊のような巨体を小さくしながら近づいてくる。


「おい、アッシュ、無事か?」


「ああ。血は止まったと思ったんだがな……」


 傷口を見せる素振りでアッシュはオズロに顔を寄せ、声を落とす。


「周りから敵が減った。今は全部で三十くらいだ」


 二人は抵抗の相談を試みるが、パズルドが間に割って入るようにして遮る。


「私語はやめろ。両手を上げて、下がっていろ」


「ちっ……。若造が」


 オズロは苛立った素振りを見せるが、冷静だった。経験の少ない銃士を挑発してミスを誘おうとしたのだ。パズルドは自分の責任で魔銃を紛失した後ろめたさがあるし、仲間に予定の変更を強いてしまったから、焦りを隠せない。


「いいか、妙な素振りはするなよ! 大人しくしていろ!」


 すぐに魔銃を探すために離れていったが、パズルドは意識を足元に集中しすぎるあまり、周りが見えておらず、松明を持って立つ同僚に一度ぶつかった。


(……スキだらけだ。あいつを捕まえて人質にすれば……)


 アッシュが目線で問いかけるとオズロは首を振り、グラト達が立ち去った方に視線を向ける。


(さっきの奴等がもう少し離れるまで待つのか……)


 ならばと、アッシュは捕虜の輪から一歩出て心底申し訳なさそうな声をパズルドに投げる。


「すみません……。私にも探させてください」


「私語はやめろと言っただろ! 両手を上げて大人しくしていろ!」


「あ……。すみません」


 アッシュが殊勝な態度を演出してから十分程が経過した。魔銃を探していた三人の銃士達はいったん集結し、見つからないことを報告しあい、捜索範囲の変更を相談した。その際、カムハンが冗談で「森に火をつけて明るくするか」と口にする。パズルドは半ば本気にしかけ、少し離れた位置にいたバーンに視線を向けてしまう。十二番隊副隊長のバーン・ゴズルは広場に残る銃士の中では最上位の指揮権を持っており、また、彼の魔銃は火炎を扱う特殊能力を有する。そういった事情があるからパズルドはバーンに首を回したのだ。だが、事前の会話を聞いていないバーンは、視線から別の意図を汲みとる。

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