24.二度目の夏

 東京からバスで約二時間。今年の夏もここ山梨県山中湖へ合宿に来た。東京に近いといっても山梨の風はそこまでじめっとはしていなくて、その分少し冷たく感じる。でも日中の暑さといったら東京となんら変わりはない。むしろ遮蔽物がこれといってないからどこにいても太陽がガンガン当たる。早くも干からびそうだ。

 バスは午前十時に宿舎へ到着した。各部屋に荷物を移動させた後はすぐに着替えてコートに集合。昼飯までの二時間は走り込みだ。

 去年はなにも聞かされずにいきなり走り込みをさせられたもんだから、すげぇ驚いたし疲れたのを覚えている。初めての合宿で少々浮かれ気味なところもあったからな。でも今年は違う。今年は最初から全力で臨むつもりだ。別に去年が全力じゃなかったわけではないけど、今年は胸の奥がグワーって熱くなるくらいに燃えている。なによりも強くなるため。もう一度原点に立ち戻って基礎から徹底的に鍛え直す。そしてハルのペアとして、アイツと肩を並べられるくらい強い選手になってみせる。

 集合してからすぐには走らず、二十分くらいかけて入念にアップをしていく。ストレッチにジョギング、ステッピング。バスで凝り固まった筋肉を徐々にほぐしていく。そして――

 ピッ!

 監督の笛の合図でステップ走から始まった。それが終わるとインターバル走、中距離走と続く。全て終わる頃には気持ち悪さで吐きそうになるわ、足もパンパンになって動けなくなるわでもう死にそうになる。途中のインターバル走が終わった時点で、特に初体験の1年はその場に突っ伏して動けなくなる者やトイレに駆け込む者が続出した。でも監督の怒号が聞こえたら恐怖心の方が勝って自然と体が動いてしまうんだから酷なものだ。

 要はここは地獄なのだ。誰しもが一度は死ぬ思いをするところ。無論俺もだ。でも俺はその度に生き返ってみせる。それが無理なら死んでも食らいついてやる。強くなるために。

 午前の練習が終わった頃には全員が洗礼を受けて憔悴しきっていた。合宿が始まってまだ二時間しか経っていない姿には到底見えない。それでも昼飯のおいしそうな匂いが漂ってくると不思議とみんな元気になる。

「うわぁ、めっちゃいい匂いする。昼飯なんだろう?」

「この匂い、よく嗅いだことあるぞ」

 じゅるっとよだれを飲み込みながら、ハルと太一が食堂に向かう道で昼飯の予想をああでもないこうでもないと言い合っている。

「牛丼だ!」

「うまそぉ!」

 牛丼、牛丼、と二人で歌い始める。いつの間にかそこには土門も加わっていた。

 ご飯の入ったでっかい炊飯器と肉の入ったでっかい鍋に、先輩も後輩も混ざって長蛇の列ができる。どんなに疲れていても自分のことは自分でやるというのが吹野崎の掟だ。決して後輩によそわせたりはしない。それは先輩たちの姿勢から学んだことだし、俺たちも後輩に示していきたいと思えることだ。

「それにしても先輩方はやっぱり体力ありますよね。特に瞬先輩」

 前に並んでいた土門が振り返って俺に言ってきた。

「そうか?」

「だってあれだけステップ走とインターバル走をこなした後なのに、次の瞬間にはけろっと中距離走もこなしていましたし」

 土門の後ろではハルと太一の牛丼コールがまだ続いている。

「俺なんかあの時はもうヘトヘトで」

「一年間のアドバンテージがあるからな。でも俺だってきつくなかったわけじゃ――」

 って、土門は順番が来るとせっせとご飯を山のように盛り始めて俺の話なんか聞いちゃいない。あーあ、そんなに大盛りにしたら肉が……ほらこぼれた。しょうがないヤツだな。

 全員席に着いたことを確認して号令をかける。

『いただきます!』

 と同時にハルと太一と、それに加えて土門が一斉にご飯にがっつく。また早食い競争でもしているのか。そんなに慌てて食べなくてもご飯はなくならないっていうのに。ハルと太一はホントなんでも競争したがるんだから。今年はそこに土門も加わっているけど。コイツらホントにアホだ。

 三人とも溢れんばかりのてんこ盛りからスタートしたのにみるみる山が減っていく。終いには三人一斉に食べ終わっておかわりへと急ぐ。

『おかわり! 大盛りで!』

 三人の声が食堂中に響き渡った。



 午後の練習が始まる前、監督がOB・OGの先輩方を連れてきてくれた。その中には懐かしい先輩の姿もあった。

「キャプテンの桜庭です。OB・OGの先輩方、短い間ですがよろしくお願いします!」

 あいさつが済むとすぐに練習が始まった。午後の練習は午前と違ってたくさんボールを打つことができる。使えるコートの数も六面と普段の二倍もあるから満足するまで打てる。それにいつもとは違う練習相手もいる。

「不動先輩! 長野先輩! お久しぶりです」

「桜庭、元気に――」

「おーう、桜庭! 元気してたかこのヤロウ!」

 長野先輩に勢いよく肩を組まれた。でもこの人普通に力強いから首絞められているみたいで痛い。

「長野しぇんぱい……くるしぃでしゅ……」

「ん? なんか言ったか?」

「やめろ長野。桜庭が苦しがっているだろう」

 俺の顔見てやっと納得したようだ。

「おぉ、すまんすまん。ついな」

 軽いヘッドロックから解放されて慌てて肺に空気を入れる。

「キャプテンになったんだな」

 相変わらず不動先輩は背筋がシャキッとしていてかっこいいな。

「はい!」

「コイツ、どことなくお前に似ていたからな。俺は前からキャプテンになるんじゃないかって思ってたぜ」

 長野先輩は自信げに胸を張っている。

「長野、こんなところで強がっても仕方ないぞ」

「つ、強がってなんかねぇよ。大体な――」

 長野先輩がベラベラしゃべっているのを不動先輩は「分かった分かった」とまるで聞いちゃいない。その二人の光景に思わず笑ってしまった。

「あっ、桜庭! お前今笑ったな」

「しゅいましぇんしゅいましぇん」

 謝ったけど遅かった。

「まぁ詳しい話は後でゆっくり話そう。俺も早くボール打ちたくてウズウズしてるんだ」

 そう言う不動先輩はテニスを始めたばかりの少年のようなキラキラした目をしながら、ラケットを持つ手を揺らしている。俺も憧れだった先輩と久しぶりに打てることに自然と胸が高鳴っている。

「はい! お願いします!」

 OB・OGの先輩方には俺たちの練習に混ざってもらって、ストロークやボレーなどの基礎練習の相手をそれはもうみっちりしてもらった。ここはこうじゃない、ああじゃない、こういう時はこうするといい、みたいに教え方が丁寧で分かりやすくて、みんなも先輩たちの教えに応えるように引き締まった雰囲気を醸し出していて普段よりも練習の質が高かった。先輩たちも指導に熱が入ってくると声も大きくなったりして、時には監督よりも怒号を発していた。

 俺も不動先輩や長野先輩に相手をしてもらった。特に不動先輩と対峙すると相変わらず鬼気迫るプレッシャーをビシビシ受けて恐怖さえ感じたけど、負けるもんかと必死に食らいついた。俺が打っても打っても不動先輩は全然ミスをしないから怖いくらいに全部返されたけど、俺も自分からはミスをしないように粘り続けた。でも最後には結局先輩に押されて決められちゃうんだけどね。やっぱり不動先輩は俺の中で最強の人だ。そんな人が練習相手になってくれるだけでもなんて幸運なんだって思わなくては。

 それでも練習が終わった時には、「上手くなったな」って声をかけてくれたから本当に嬉しかった。ただその言葉に浮かれてはいけないと思って俺は二ヤけた顔をすぐに引き締めた……けどまたすぐに顔が緩んでしまっているのは自分でも分かった。

 一日目の練習はほぼっていうか完全に基礎練だけ――もちろん最後には地獄のラインタッチもやり、最後のラインをタッチした瞬間に1年は全員がその場に倒れた――で終わった。去年もそうだったけど、合宿では基礎練のメニューが八割以上を占めるから当たり前っちゃ当たり前だ。でも先輩たちが練習相手になってくれたからいつもより濃い練習ができたし、俺自身もこの合宿で基礎から鍛え直すっていうのが目標だからバッチコイって感じだ。

「腹減ったなぁ。飯だ飯!」

 服の上からお腹をさすっている長野先輩を先頭にOBの先輩たちが食堂に入場する。その先輩たちも吹野崎の慣例に倣ってご飯の列に並ぶもんだからなんだかおかしい。でもその分距離がずっと近くに感じられる。

 先輩たちはバラバラに現役生たちの間に座り、会話を楽しみながら一緒に夕飯を食べた。全員揃って『いただきます』をするとまたハル、太一、土門の三人が我先にと早食い競争を始めた。それを見て、「お前らいい食べっぷりだな。よーし、俺も」と長野先輩も参戦。向かいの不動先輩は呆れた顔で俺に笑いかけた。俺も苦笑いで返した。

 風呂は先輩たちに先に入ってもらい、次に俺たち2年が入った。午前中からきついトレーニングをこなし、午後はひたすらボールを打ちまくった体にはこの時間こそが至福のひと時だ。それでも大浴場は騒がしい。プハー、と俺が気持ちよく湯船に入っていると洗い場の方ではハルと太一がシャワーで水かけ合戦をおっ始めた。流れ弾ならぬ流れ水が顔にかかって冷たい。不動先輩、こういう時はどうしたらいいんですかね、と思っていたら隣で一緒に浸かっていた南が激怒してその場は収まった。さすが副キャプテン! というより南って怒ると怖いんだな。その場の気まずさから逃げるように俺は顔の下半分まで湯船に浸かった。

 風呂から出て自室でゴロゴロしていると、部屋着に着替えた不動先輩と長野先輩が入ってきた。

「おーう、邪魔するぞー」

『お疲れ様です!』

 座りながらスマホをいじっていた太一も、寝っ転がりながらテニス雑誌を読んでいたハルも、今日の練習の反省をノートに書いていた南も、みんな勢いよく飛び上がってあいさつをする。

「いいからいいから。俺たちはもう吹野崎生じゃないんだし」

 そう言われてもお世話になった先輩に変わりはない。なんなら今日だって練習相手をして下さってお世話になったんだからあいさつするのは当然だ。

「うわぁ、懐かしいな合宿所の部屋」

 長野先輩は部屋の入り口から一番奥の窓まで歩きながら、部屋の隅々まで見渡して感慨に耽っている。

「懐かしいって、先輩たちも今同じような部屋に泊まってるじゃないですか」

「そうだけど部屋への思い入れが違うだろう。なぁ不動? ここでいろんな話したよな。お前の恋バナ・・・とか」

 えっ? 不動先輩の恋バナ? それは気になる! そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいで、ハル、太一、南の三人も一斉に不動先輩の方を振り向いた。

「そんな大した話はしてないだろう」

 不動先輩はその場に座った。

「そうなんだよなぁ。コイツの話ったら全然おもしろくねぇんだもん」

 不動先輩と向かい合うように長野先輩も座った。円形状になるように俺たちも二人の間に座った。

「なんか露骨にそう言われると腹立つな」

「じゃあまだサクラコちゃんと続いてんのか?」

 不動先輩は頷いた。

「ヤッたのか?」

「それはどっちでもいいだろ」

「なんだよ、まだヤッてねぇのかよ。このウブ助」

「う、うるさい!」

 こんなに追い込まれている不動先輩は初めて見たかもしれない。しかもその相手が長野先輩だなんて。

「コイツ、高1からつき合ってる彼女がいるんだけどさ、まだキスまでしかしてないんだぜぇ。高校生の時はそれでも周りから『かわいい、かわいい』って言われてたけどよぉ、もう大学生だぜ。向こうも待ってるっつーの」

 じゅ、純情だーー。不動先輩は恋愛にも真面目な人なんだな。

 やれやれというように長野先輩は呆れた表情を見せる。

「そういうお前はどうなんだよ。どうせ毎日遊びほうけているんだろう」

「ピンポーン。昨日はアンナちゃんが帰りたくないっていうから大変だったぜぇ」

 こっちは経験豊富だーー。今度は不動先輩がやれやれというポーズを見せる。この二人、こんなに性格が対照的なのになんでこんなに仲がいいんだろう。

「大学はいいところだぞぉ。かわいい子がいっぱいいるからな」

 長野先輩が両隣のハルと太一の肩に腕を回してがっちりホールドする。でも案外二人とも乗り気で『ホントですか!』なんて言って、『かわいい子! かわいい子!』と三人で肩を組んだまま左右に揺れて踊っている。あーあ、太一はともかくハルに関しては石川が見たら泣くぞ。この三人、さっきの早食い競争で変な絆ができたんじゃないのか?

「お前たちはそこら辺どうなんだよ? あぁ、瀬尾は彼女いたよな?」

「はい。ラブラブです」

 ラブラブって。ハルからそんな言葉聞くとなんか変な感じするな。ムズムズするっていうか。まぁ幸せなら俺も嬉しいけど。

「このこのー。先輩の前でのろけやがって。他の三人はどうなんだ?」

 いいえ。

 いいえ。

 いいえ。

「なんだよお前ら! もったいねぇぞ! もっと高校生活を楽しめって!」

「そう言われても……」

 三人で困ったように顔を見合わせた。

「俺たちだって欲しいですよ。その……彼女」

「だったらもっとガツガツ行かなきゃ。こういうのは自分から行かないと。――そうだ桜庭。光野はどうなんだよ? かわいいし、キャプテン同士気が合うんじゃないか?」

 光野か。そういえば去年来てくれた宇城さんたちにも同じこと言われたような……。先輩たちってホントにこういう話好きだよな。

「アイツはダメっすよ。性格に難がありすぎますから」

 太一が代わりに答えた。定期テストの一件があってから太一は光野のことが大っ嫌いだからな。といってももう一年も前の話だけど。でも俺は光野のことそんな風には思っていない。けどそう言うと太一が猛反発してきそうだからやめておいた。

「そうなのかぁ。かわいいと思ったんだけどな」

 なぜか長野先輩ががっかりしている。

「それはそうと、お前ちゃんと練習はしてるのか?」

 不動先輩が長野先輩に尋ねる。

「あったり前だろ。ちゃんとしてるぜ。お前みたいに部活ではやってないけど強いサークルで毎日な」

「そうか。ならよしとしよう。――桜庭、お前たちの方はどうだった? 俺たちが引退してからの一年間は」

 一年か。もうそんなに経ったんだな。早いものだ。

「聞きたいですか? もういろんなことがあったんできっと長くなりますよ?」

「あぁ。聞かせてくれ」

「分かりました」

 それから俺たちはこの一年間にあったことを余すことなく二人に伝えた。新チームが始まった初日に金子先輩から全国を目標にすると言われたこと。それで練習がきつくなったこと。定例戦に出て初めて試合をしたこと。ハルが私学大会をサボって福岡に行ったこと。それで返ってきてから監督に怒られてしばらく練習させてもらえなかったこと。クリスマスにみんなでイルミネーションを見に行ったこと。お正月に初詣に行ったこと。学年が上がり新入生が入ってきたこと。ハルがケガをして代わりに俺が都大会団体戦のレギュラーに選ばれたこと。レギュラーの座を巡り山之辺と対立したこと。金子先輩と組んで都大会のダブルスに出場したこと。去年と同じ六回戦で負けてしまったこと。金子先輩が涙を流した理由を聞いて俺たちも全国を目指すと決めたこと。

 二人はなにも言わずに、時には笑って時には真剣に聞いてくれた。それが嬉しくて話している俺たちも楽しくてしょうがなかった。最後まで話し終えると少し間を取ってから不動先輩が口を開いた。

「俺と金子の想いを受け継いでくれて嬉しいよ」

 想い。それは全国を目指すということ。不動先輩から金子先輩へ、そして今俺たちへと脈々と受け継がれている想い。

「それがとても困難で途方もない道だということは分かっている。本気で挑んでも達成できるかどうか分からないことも承知している。けれどお前たちが目指すというのなら俺たちは協力を惜しまない。だってそれは俺たちの願いでもあるから」

「先輩……」

 二人の目が力強く俺たちを見据える。背筋がシャキッとする思いだ。こんなに心強い味方が近くにいるなんて百人力だ。

「さっ、もう今日はこの辺で休もう。お前たちの目標が聞けただけで十分だ。その目標を達成すべく明日は今日以上に厳しくするからな。覚悟しておけよ」

『はい!』

 合宿一日目の夜、先輩たちとの談笑はそこで終わった。



 合宿二日目。

 もちろん午前中は走り込みだ。朝食を食べてからあまり時間が経っていなかったせいもあり、吐きそうで気持ち悪かった。でも先輩として、キャプテンとして、弱い姿は見せられない。

 ただ昨日と違う点は不動先輩と長野先輩も走り込みに参加していることだ。普通先輩たちは外から見て苦しそうに走る現役生たちに追い打ちをかけるように発破をかけるもんだけど、不動先輩は誰よりも走り込みをやる気満々だった。長野先輩は不動先輩に引きずられてやむを得ずって感じだったけど。

 不動先輩は大学のテニス部で、長野先輩は強豪のサークルで毎日体を鍛えているだけあってスピードも相当速い。俺も二人に着いていくのがやっとだった。

「おらおら! そんなもんかお前ら! もっと走れんだろ!」

 先頭を走りながら後ろの後輩たちに奮起を促していく長野先輩。主に怒号を飛ばしているのは長野先輩で、不動先輩は黙々と走り込みを――背中で語る感じで――こなしている。

 走り込みが終わった時には大半の現役生が倒れているのに対し――俺はなんとか立ち尽くしている状態――二人はピンピンしていて、「不動、お前ももっと声出せよ」「すまん」と涼し気に言い合っているほど元気だった。もし二人が走り込みに参加しないで外から見ているだけだったら更に怒号が飛んでいたに違いない。そう考えるだけで身震いした。

 お昼を挟んだ後――昼飯は相変わらず早食い競争があった――午後はいつも通り基礎練をみっちりとやり、残った時間で先輩たち相手に軽くゲームをした。俺はもちろんハルと組んだ。相手は不動・長野ペア。相手に不足なんて毛頭ない。

「全国行くっていうなら、俺たちくらい倒せないとな」

 長野先輩が分かりやすく挑発してくる。でもそんなことに物怖じしないのがハルだ。

「倒してみせますよ。覚悟してくださいね」

「言うじゃねぇか。上等だ。試してやる」

 ハルに噛みつかれた長野先輩はちょっと嬉しそうに見えた。

 試合の方は後半の途中まで先輩たちに食らいついていけたんだけど、最後は体力の差なのか地力の差なのか逃げきられてしまった。先輩たちは「中々やるじゃねぇか」って褒めてくれたけど、汗だくの俺たちとは反対に最後までクールな顔でプレーしていた姿を見るとまだまだ余裕なんだなって思ってしまった。改めて先輩たちとの差を大きく感じた。後半まで食らいついていけても最後に離されては全て水の泡だ。長野先輩が言ったように先輩たちと互角かそれ以上に戦えないと全国なんて遠い夢物語で終わってしまう。

「まっ、お前たちはこれからだ」

 試合後、ネット上で握手を交わした後にそう言われて肩を叩かれた。

「がんばれよ。また相手してやるから」

『はい! ありがとうございました!』

 精いっぱいの返事をした。

 先輩たちはその日の練習が終わると同時に合宿所を去っていった。

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