絶対防衛兵器の起動

暗黒星雲

第1話 太陽系の危機

 太陽系外縁部。エーッジワース・カイパーベルトと呼ばれる宙域。


 海王星軌道よりも遠方に位置し、多数の小惑星や微細な天体が存在する。そこに位置する天体の組成は、大部分をメタンやアンモニア、水などの揮発性物質の凝縮物、即ち〝氷〟を主成分としている。


 そこは冥王星をはじめ、エリス、アルビオンなどの準惑星や小惑星が公転している。その宙域に大規模な戦闘艦隊が接近しつつあった。


『先遣艦隊は現在目標付近に到達。デバイスの存在を確認した』

『現在、デバイスは二つに分離している。形状は短剣と匣』

『何故そのような改造を施したのか』

『不明です』

『そもそも、デバイスの形状を変更するなど不可能ではないか』

『いや、それは原則論だ。デバイスが願いを叶える器であるなら、願いを叶えるための形状変化は有ると考えてよい』

『なるほど……ところで、派遣したエージェントはどうだ。入手できそうか?』

『現地人との癒着が強い為、入手は困難な模様』

『そうか……重力子集積隊形へと移行せよ』

『まだ入手できないと決定したわけではありませんが』

『いや、結果は明白だ。先手を打って、デバイスによる反撃を封ずる』

『デバイスによる反撃……まさか信じておられるのですか?』

『当たり前だ。古い記録しか残っていないが、我らの先達が覇を失った原因は、デバイスの反撃なのだ』

『なるほど。AAAトリプルエーへ移行せよ。繰り返す。全艦、AAAトリプルエーへ移行せよ』


 戦艦に搭載されている巨大な重力子反応炉。数百隻分のそれを相互に干渉させ、特定の空間に巨大な重力子の塊を生成する。そしてそれを恒星へと放ち、恒星をブラックホール化する禁じられた攻撃。


『先遣艦隊へ退避命令を発せよ。AAA発射は24時間後だ』

『了解しました。退避命令を発します』



 ——その頃、月軌道付近。


「追い付かれました! もうダメかも?」

「ノエル、あきらめちゃダメ」

「でも、追っかけてきてる奴、あのカブトガニみたいなの、凄く速い!」


 朱色の全翼機、〝トモエ〟は所属不明機に追跡されていた。トモエを追っているのは青く平たい節足動物のような小型機——ノエルはそれをカブトガニと呼んでいた——が数機。トモエは現状、AIコントロールで操縦席は空席となっている。後部席に搭乗し、ハルカのモニターを行っていたのがノエル・ギルガルドだった。美冬の妹分である。


「あーん。美冬姉さまと交代した途端、どうしてこうなっちゃうの? もう、信じられない」

「もう少し我慢して。今、オルレアンを援護に向かわせました」

「分かりました、マリー姉さま。キャ!」


 機体がオレンジ色の閃光に包まれる。


「アンノウンのビーム攻撃が命中しました。シールドが稼働中ですが、あと数発の着弾で効果を失います」


 AIのミスズが報告して来た。


 再びトモエに数本のビームが襲い掛かる。しかし、今度の攻撃は人型機動兵器トリプルDオルレアンの盾が弾いていた。


「ノエル。お待たせ」

「美冬姉さま」

「月の裏側へ逃げるわよ」

「はい」


 全翼機トモエとオルレアンは、月へ向かって降下していく。しかし、青いカブトガニは追撃の手を緩めない。数発のビームが機体を掠めていく。


「こんな場所で戦いに巻き込まれるなんて思いませんでした」

「私もよ、ノエル」

「これって多分……」

「ハルカさんの雇い主だわ。相当、ヤバイ連中だったって事ね」

「もう、どうしたらいいの?」

「とりあえず逃げるしかないわ」

「はい。美冬姉さま」


 トモエとオルレアンはさらに高度を下げ、月面スレスレの低高度を蛇行しつつ回避行動を取る。アンノウンのカブトガニも追ってくる……と思いきや、急上昇していった。


「あれ? 逃げてく?」

「そうね。何があったのかしら」


 二人は青く光る五つの光点を呆然と眺めていた。

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