アセクとゲイとホイクシと
カリオス
第1話
「ただいま」
築40年、2階建。駅から徒歩15分。
少し広めの2DK。恋人とのルームシェアだ。
鍵を開けて軋むドアを開けると、部屋から柚木(ゆずき)が出てきた。
「おかえり匠(たくみ)、飯あるけどあっためるか?酒とつまみはもう用意してある」
「いや、飯は帰りがけに食ってきた」
「もしかしてまた、後輩ちゃんの愚痴を聞いてやってたの?ほどほどにしないと勘違いされるぞ」
料理は早く帰った方が作る。ただのルームシェア友だちだった時からの契約。水道光熱費食費は折半。お菓子は自腹だ。
「一応、チューターだし飯がてら相談に乗るくらいは仕事の内だと割り切ってるよ。ただの同僚でそれ以上はないだろう」
「お前は、そうだろうが…あぁ、まあいいさ」
話しながら、服を着替えて、リビングの椅子に座る。金曜の夜は、リビングで一杯呑み交わす。それが俺と柚木の契約。柚木に言わせれば約束だ。
柚木が用意した酒は日本酒だった。俺が日本酒好きだから日本酒が多いが、ワインや焼酎、カクテルなど日によって色んなものが用意される。俺は、初めの一杯だけは柚木のグラスに入れてやる。
「「お疲れ様、乾杯」」
「そういえば、後輩ちゃん今日はどんな愚痴だったんだ?」
雑談などをしていたら柚木がニコニコと楽しそうに聞いてきた。
愚痴を聞かされた愚痴を聞きたがる人間の気はしれないが、聞きたいのなら話すことは問題ない。
「昨日、急遽クリスマス会の司会を押し付けられたんだとさ」
俺がいうと柚木は一瞬ポカンとした顔をして
「クリスマス会って来週だよな?」
そう、今日が16日。来週の土曜日が24日クリスマスイブだ。
「そう、来週の水曜日にやる。本当は担当がいるし帰りがけに担当の先生に聞いたら主任が経験も大事だからやらせてあげてってねじ込んだらしい」
担当の先生も無茶だと思って自分がやると伝えたが押し切られてしまったみたいだった。
「いや、それは流石におかしいだろ…」
そう、おかしい。おかしい事はみんなが分かっているのに止められない。実際に不可能な量の仕事だったりすれば分かりやすいが、決して無理ではない無茶を押し付けるのが主任の上手い所だ。
「そんな事は重々分かってるよ。ただ、本人も断れずに押しつけられちまったからな。例え圧があったとしてもやりますって言ってしまったらやるしかない…。幸い、担当の先生は話が分かる人だから協力して一緒にやれるのが救いだな」
「あんまり、無理するなよ。俺としては後輩ちゃんは可哀想だが、お前が睨まれるようになる方が嫌だぞ」
たしかに、主任のいじめはさくら先生に集中しているが、俺が睨まれるのは今更だな。
俺は、モッツァレラチーズを紫蘇とハムで巻いたつまみを手に取りつつ
「今更、あの主任が俺とやり合う気はないだろう。というか、さくら先生へのいじめも半分くらいは俺への当て付けだろうしな」
そういう意味ではさくら先生に申し訳ない気持ちがないでもない。が、おそらくさくら先生の性質ではどちらにしろ目をつけられていたようにも思う。
「だから面倒見てやってるのか?」
柚木が一気にグラスを空けて聞いてきた。さほど強くない癖に。
「あんまり関係はないな。さっき言った通り、あくまで教育係として仕事の範囲内だよ」
そう、所詮は仕事。出来るだけ楽に出来るならそれに越した事はないと思っている。
自分で酒を注ぎながら柚木が言う。
「それならいいけど…。俺としては匠が他の人と2人で食事とかは嫌なんだよ…」
少し視線を逸らしながら柚木は言う。おそらく、その言葉が契約に抵触しかねない範囲の言葉だと言う自覚がある負い目からだろう。
「悪いとは思うが、そこは了承済みのはずだろう」
柚木は、答えずにグラスに口をつけている。普段よりペースがはやいのは怒っているからか。
「柚木が嫌だという感情は理解はする。特に変える気はないけどな。まぁ、俺からさくら先生を誘う事はないって事は約束する」
元々、俺から誘ったことなんて皆無だが。柚木もそれは分かっているのだろう。
「匠が誘われるって事が嫌なんだよ…。あぁ、もういい。匠がそういう奴だって分かってはいるから」
またグラスを空けて柚木が言った。弱い癖に無理をする。俺は立って冷蔵庫から麦茶をコップに入れて柚木に前に置いておく。
「あぁ、ありがとう。匠がわざわざ入れてくれるなんて珍しいな」
柚木が笑っていう。少し目つきが危うい。
「お前、いつもよりペースがはやい。もう顔が真っ赤だぞ」
俺は、酒の味は好きだが酔うという感覚はあまり好きではない。元々、弱い方ではないので酔うまで飲もうと思ったら飲み放題でもないと金がかかるというのもあるが。
逆に柚木は酔う事が好きらしい。一緒に飲むとぐにゃぐにゃに酔って寝落ちするのが常だった。
「いいだろ、自分家なんだし。匠もいるしな」
そう言いながら麦茶を飲む姿に少し昔の柚木を思い出す。
アセクとゲイとホイクシと カリオス @zinnruisaishuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アセクとゲイとホイクシとの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます