カードゲームで描く親友の物語
とろ
第1話
「アンティールールだ。このカードはもらっていくぞ」
「待ってよ。どうして君がこんな。こんなバカげたことをするのさ!」
「うるさい!」
新田亮は僕の首に掛けてあるカードを掴み、強引に奪い去った。その時の僕は茫然と立ち尽くしていた。
このカードバトルが始まる直前に、学校の問題児の不良たちに囲まれ、校庭の裏に連れてこられた。彼らの目的は僕、倉田真守と新田亮をアンティールールで戦わせることだった。アンティールールの賭けの対象となったのは、僕の首に掛けてあったカードだ。
3年前、僕の父、倉田宗助がバーチャルストラテジーの全国大会で優勝し、その優勝景品として得たカードを父は誕生日プレゼントとして僕に譲ってくれた。そのカードは「光石の煌めき」このカードは自分の場のモンスター全てのパワーを全て+1000し、2回攻撃を付与するカード。tcg経験者ならこのカードがどれくらい強いかは察しはつくだろう。ただ、このカード1枚を奪うだけのために、亮くんがこんな人道外れた行為をするのだろうか。
「おいお前ら。そいつに口封じとしておしおきをしておけ」
「おうよ、任せとけ。おまけとして、こいつのデッキ奪おうぜ」
不良たちは次々に僕に殴りかかってきた。抵抗する前に殴られボコられ、そのまま地面に這いつくばった。中学生になって、帰宅部だった僕は体が丈夫ではなく、喧嘩には自信がない。そして、不良たちは僕が手にとっていたデッキを無理やり手から放そうとするが、僕は必死にデッキを手放さないよう握る。
「しぶといやつだな、おい」
「いたっ・・・」
僕は腹部を蹴られ、全身に力が入らなくなり、視界がぼやけた。
「やったぜ!こいつのデッキ結構レアカードばっかじゃん!こいつは金になるぞ!売って、売った金で遊ぼうぜ!」
「待って・・・」
僕は何もできず、意識を失った。新田亮、亮くんは僕の親友だった。小学校の時はカードゲームバーチャルストラテジーがきっかけで仲良くなり、放課後はいつもカードゲームをして遊んでいた。中学に入ってから、学校は同じだったが、クラスは違ったため、1年生の間はあまり遊ぶ機会がなかったが、2年生になってから、ようやくクラスが一緒になり、また昔みたいな関係に戻れると思っていた。だが、亮くんは変わってしまった。噂では他のクラスメイトに対してもアンティールールをし、負けたら相手の大切にしてるものを奪い去った後、後は不良を使って口封じでおしおきをしていた。あの優しかった亮君がそんなことをするわけないと信じていたけど、この一件で僕は人間不信に陥ってしまったのだ。
「ただいま」
「おかえりなさい、って真守あんた体中傷だらけじゃない?!一体どうしたの」
母親は心配そうに僕をなだめた。
「知らない。ちょっと転んだだけだよ」
「あんたねえ、明らかに誰かにやられた傷でしょう?一体だれなの?」
僕は返事をせず、そのまま自分の部屋に戻り、ベットに蹲った。
「もう、何もかもどうでもいいや」と言葉にはするが、同時に涙が流れた。「分からないよ、なんで僕がこんな目に遭わないといけないの、ねえどうして」「うわー」と泣き叫び、同時に昔の想い出が頭をよぎった。
「おい、まもる。お前なんでまた泣いてるんだよ、泣き虫な奴だな。まさかまたあいつらにいじめられたのか?」
「そんなんじゃないよ。ただ、」
「ただ?」と誤魔化そうとしたが、人の感情に敏感な亮くんに隠し通せる自信がなかった僕はさっきの言い分を訂正して事実を述べる。
「うん、あいつら。僕の顔を見るたび、嫌がらせをしてくるんだ、僕何も悪いことしていないのに」
「そういう奴らにははっきり言わないと駄目だぞ」といわれても、亮君にはそれが出来るかもしれないけど、僕には無理だよ、と自分の頭の中で思いつつも、だからと言って、何もしなければ、現状が変わらないことも僕には分かっている。
「亮君、僕を助けて」
「やっと、その言葉を聞けたな。お前は昔から弱いくせに強がりすぎるんだよ。ただ、」
「ただ?」僕が聞き返すと、鼻を人差し指でこすって強い口調で言った。
「お前のそういうところ、俺は好きだけどな」
好きというワードを聞いて、若干顔が赤くなり、恥ずかしいと思うが、でも僕は素直に嬉しかった。
「おい、お前ら!真守にちょっかいかけてるのはお前らのことか!」
強い声色で威勢を張った先で構えていたのは、当時の僕たちより3つくらい年上の柄が悪い男たちだった。
「なんだてめぇ、俺たちに何か用か?くだらないことだったら、ちと、痛い目にあってもらうぜ」
「こいつら屑だな」そう亮君が言うと、彼はその男たちに向かって走り出し、囲んで中央の男の懐に入り、胸に蹴りを入れた。
「ちょっと亮君!そんないきなり!」
「うるせい、こいつらが真守いじめてたやつらだろ。こんなやつら俺一人で全滅させてやるぜ」
20分の乱闘が続き、亮君は1人で何人もの相手をし、決着がついたころには、最終的に立っていたのは、なんと亮君だった。10人相手にすごすぎる。ただ、さすがの亮君も10人相手に無傷では済まず、顔中殴られた後でいっぱいだった。
「さすが、亮君だね」
「どうだ、お前をいじめてくるやつら。全員懲らしめてやったぞ」
地面に横たわっている亮君の手を取り持ち上げる。亮君はかなりのダメージを追っていたが、「こんなの準備運動にもならねえ」と言って強がっている彼が眩しく見えた。そうだ。あの時の亮君は不器用ながらもすごく優しくて、僕にとってはヒーローだった。
ふと思った。もしかしたら何かしらの事情があって、こんなことをしているのではないかと。
「一体亮君の身に何があったのだろう?」僕にはそれを知る必要がある、いや知らなければならない。そして、本来の彼に戻ってほしい。「友達、いや亮君は僕の親友だ。必ず何か理由があるはずだ」そう呟き、気持ちを切り替えたと、僕はそのままダイニングへ向かう。
食卓にはすでにシチューが家族分準備してあり、席には母と父が座っていたが、まだ二人ともシチューに口をつけていない。
「あら、降りてきたの。さっさと食べなさい」といい母はスプーンを手に取る。母の隣に座る父は僕を見て「ひどいありさまだったな」と言うが、その後に「いい顔になったな」と付け足す。そんな父に「そうかな、、、」と適当に返事を返し、スプーンでシチューのルーをいそう。
「そういえば、お前、父さんのあのカード首に掛けてないな。あのカード部屋に置いてきたのか?」
「そのことだけど、、、」
僕は少し躊躇しながらも父の問いかけに答える。
「あのカード、実は奪われたんだ。それも親友だと思っていた人に、でも分からないんだ、なんでアンティールールなんて馬鹿げたことをしたのか」
父は「ふーむ」と考え込み、腕を組む。そして何か思うところがあるのか口を開いた。
「関係あるかは分からないが、光石の煌めきのカードはバーチャルストラテジーに置いて強いカードだ。ただ、それ以上にあれは希少価値が高くて、1枚で100万近くの値段はするんだ。お金のために友達、つまりお前を裏切ったかは分からないが、あのカードを欲する意味はカードの強さより、お金に関係あるかもしれんな」
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