5:状況整理 ―彼女に何が起こったか?―

 これで一通り、紹介が済んだことになる。そしてベルノはその場を仕切りながら言った。


「では早速だけど、まずはルストさん。あなたに何があったのか聞かせてください」


 それはとても重要なことだった。それがなければここから先何も始まらないのだから。

 少しばかり沈黙していたルストだったが、覚悟を決めたかのように語り始めた。


「みなさん、私の世界のことはどれだけご存知ですか?」


 その問いに中村が答える。


「原作者の美風くんは当然として、僕とベルノさんと澁澤さんとモチヲさんとたんげつさんはあらまし、根来さんとゴリラさんはある程度と言うところだね」

「わかりました、それを前提にお話させていただきます」


 ルストは努めて平静を装いながら語り始めた。


「私はフェンデリオルと言う国の中で傭兵をしていました。それはご存知だと思います」


 皆がうなずく、ルストは言葉を続けた。


「傭兵としての任務で国の西方辺境へと仲間たちと向かいました、そこで紆余曲折あって辺境のワルアイユ領の人たちを戦火から救うために西方国境地帯へと脱出させました」


 そこにモチヲが言う。


「ワルアイユを襲った乗っ取り謀略ね?」

「はい、国の外からの侵略だけでなく、国の同胞からも領地乗っ取りを企てるものが居て、挟み撃ちに遭いました。最悪の状態を回避するために、私はある秘策を講じて西方国境地帯の岩砂漠へと仲間や領民たちと逃れました。背後から追ってくるフェンデリオル正規軍の討伐部隊を糾合して味方につけることを狙っての行動です」


 皇帝ペンギンの根来が問う。


「辺境の市民たちと傭兵の君らが正規軍を糾合する? どうやって?」


 もっともな質問だった。それに補足説明したのは澁澤だった。


「ルストさんの暮らしておられたフェンデリオルの軍隊では市民義勇兵の存在が大きいんです。正規軍とそれを補助する市民義勇兵、さらに戦闘兵力を補うための傭兵、この3つが連携して国を守っているんです」


 ルストがうなずく。


「そうです。そして通常では指揮権を有するのは正規軍の将校や上士官たちです」


 根来が納得して言う。


「なるほど、正規軍の幹部が非正規の戦闘要員を教導すると言うわけか」

「はい、ですがその状況によらず正規軍でない戦闘要員でも指揮権を得る方法が私の国にはあるんです」

 

 そこに中村が言う。


「〝前線指揮権承認証〟だね」

「はい。正規軍の中央幕僚本部から発行されるそれを手に入れることができれば、末端の職業傭兵でも然るべき等級さえあれば指揮権を発動することが可能なんです」


 スーツ姿のたんげつが頷きながら言った。


「それがあなたの秘策なのね?」

「はい、それしか最悪の事態を打開する方法が無かったんです」


 そこでペンギンの根来が疑問を口にした。


「でもどうやってその承認証を取り寄せるつもりだったんだい? 辺境と中央都市ではかなりの距離があるよね?」


 最もな疑問たった。少女ゴリラが言う。


「やっぱり、ここはファンタジーらしくお空を飛んで?」


 一見、突飛もない意見だが、ルストは頷いて答えた。


「はい。飛行能力を生み出す装備を所有している人に中央都市の軍本部に向かってもらいました」


 するとそこでそれまで沈黙を守っていた美風が口を開いた。


「そこから先は僕が説明した方がいいだろう」


 根来が言う。


「そうか。君が作者だったね」


 美風は頷き返すと言葉を続ける。


「ルストの仲間に〝忍び笑いのプロア〟と言う傭兵がいてね、彼は〝アキレスの羽〟と言うブーツ型のマジックアイテムのようなものを持っている。重力を制御し空を飛んだり常識ではありえないアクロバティックな動きを可能にする。そのアキレスの羽の力を使って、フェンデリオルと言う国の西の端から東の端まで夜を徹して飛んでもらった」


 そこまで話して美風はルストに問う。


「それで間違いないよね?」


 その問いかけにルストは頷く。


「はい。間違いありません。距離にして約80シルドです」

「シルド?」


 たんげつがあげた疑問の声に美風が答える。


「長さの単位だ。1シルドは1里、1里は約4kmだから80シルドは約320kmぐらいだね」


 中村が言う。


「大体、東京〜名古屋間くらいか」


 根来が言葉を続ける。


「一昼夜でそれだけの距離を踏破するには小型飛行機くらいの速度がないと駄目だね。それでそのアキレスの羽ってアイテムで飛んで移動したんでしょ? そのプロアって人」

「はい」


 ルストはそう答えたが、そこで言葉を詰まらせてしまった。

 ベルノがルストの心情を思い図りながら優しく声をかける。


「一体何が起きたんですか?」


 言葉を出そうと思っても出てこない。だが伝えなければ話は進まない。

 ルストは両手で顔を覆うと意を決して、絞り出すような声でようやくに答えた。


「プロアが――帰ってこなかったんです!」

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