3:風雲急と道化師の男

 それから気を失っているルストをゴリラの彼女が軽々と抱きかかえて運んで行く。

 向かった先はラウンジと連結している。別空間だ。簡易的なベッドのあるレストルームとして構成されている。

 その簡易ベッドにルストを横たえると女性陣が集まってくる。

 レストルームを覗き込むようにしつつべルノが声をかけてきた。


「それではよろしくお願いいたします」

「はい、お任せください」


 シュミーズドレスの澁澤が答えた。さすがにルストが女性である以上、手当をするのは女性の方が良いのは自明の理だった。シュミーズドレスの澁澤が言う。


「まずは怪我の具合を観ませんと」


 そこにスーツ姿の麗人の彼女が言った。


「メンタル面で手酷いダメージを追ってなければ良いんですけどね」


 少女ゴリラの彼女が言う。


「そうですね。今は順序を追って始めましょう」

 

 その言葉に女性陣はお互いに頷きながらルストの状態を確かめ始めたのだった。


 それからしばらくして、レストルームから澁澤を除いた女性陣が戻ってきた。

 ウエスタンガールが言う。


「命に別状はなさそうです。矢傷がありましたが深手ではありません。今、澁澤さんが看病しています。まだ気を失ってるままなので」

「そうか」


 ベルノはうなずいた。


「とりあえず回復するのを待つしかないな」


 少女ゴリラが言う。


「そうですね」


 そしてベルノは告げた。


「中村さん」

「はい?」


 中村と名を呼ばれたのはアイコン頭の彼だった。


「美風君と連絡を取れませんか?」


 中村はベルノが何を言わんとしてるのかすぐにわかった。


「わかりました。私のつながりで連絡してみます」

「お願いします。こちらの方は私の方で対応しますので」

「はい」


 そしてその場を締めるように皇帝ペンギンの根来が言った。


「とりあえず今日はこれで一旦お開きにしよう。後はルストさんの回復と、作者である美風君が来るのを待つしかないからね」


 スーツ姿の麗人が言う。


「そうですね」


 ベルノが告げる。


「では今日はこれで解散ということで。何かあればお知らせします」


 その言葉に皆が頷いた。とりあえず、シュミーズドレスの澁澤のサポートとして少女ゴリラの彼女が残ることになった。それ以外は一旦自分のテリトリーへと帰って行ったのだ。

 

 次に事態が動くのは翌日のことである。



 †     †     †



「はぁ、はぁ――」


 一人の男が息を切らしながら大急ぎで走ってきた。

 駆けつけた場所はベルノの主催するラウンジ空間だった。

 部屋に入るなり彼は呼び掛けた。


「ベルノさん!」


 すでに事前に連絡を受けていたベルノは他の人々と一緒に待機していた。


「来たか。美風さん」

「はい!」


 ベルノに呼び出されてやって来たのは、派手なタキシード姿に銀色に光る金属マスクを顔にはめた、道化師風の男だった。

 怪人のようにド派手に決めているが、今はおどける余裕すらない。


「ルストがこちらに現れたとお聞きしました。それで容態は?」


 明らかに焦っている風の美風をベルノは窘めた。


「まぁ、落ち着いて。すでにある程度回復して別室で休んでいる。呼んでくるからここに座って待っていてください」

「はい」


 美風がテーブルの席に着こうとすると、既に何人かの常連たちがやってきていた。顔ぶれは前日と同じだ。

 異形頭の中村、

 皇帝ペンギンの根来、

 ウエスタンガールに、

 スーツ姿の麗人、

 

 これ以外のシュミーズドレスの澁澤はルストの休んでいる別室に居た。

 残る少女ゴリラが皿に載せられたコーヒーカップ持ってきてくれた。それを美風のところに置く。


「どうぞ」

「あ、どうも」


 コーヒーを受け取りながら美風は待った。余計な言葉が出てこないのは気持ちに余裕がない証拠だった。

 そして程なくしてルストは現れたのだ。


 ルストの物語を読んだことのある人ならば誰もが知っているあの黒い傭兵装束姿だ。

 ルストを支えるようにして連れてきた澁澤はルストを丸テーブルの席へと座らせた。

 その時のルストの姿に美風は語りかける。


「ルスト、本当に君なのか?」


 その言葉は言外に彼女がこの空間に実在しているということが信じられないかのようだった。

 だが、ルストは答えない。まだ自分の置かれた状況を理解しきれていないかのようだった。

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