1:突入
さてさて! 次は!
逢坂 蒼さまの『なぜか俺のヒザに毎朝ラスボスが(日替わりで)乗るんだが?』から
『アンヘリカ・アルヴォデュモンド嬢』のご登場です
ですが彼女の場合、接触するのはルストではございません。
とあるダンジョンの中でであった以外な人物とは?
そして彼女とその人物の共通点とは?
12000字を4話に分けて公開します!
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『現在時刻確認』
念話装置越しに音声が聞こえてくる。
俺が所持していた軍用の携帯用クロノグラフは午前8時を指していた。それを俺は伝える。
「マルハチマルマル」
『マルハチマルマル確認!』
行動開始時刻を前線設営本部と突入部隊との間で同期をとる。
前線本部から指示が飛ぶ。
『これより特別指定古代遺跡案件、突入調査開始を指示する』
俺は自らの姓名を名乗りながら答えた。
「突入部隊隊長バルバロン・カルクロッサ大尉、指示を確認。これより遺跡案件に突入を敢行する」
『設営本部確認。突入部隊の任務成功を祈る』
「突入部隊より返信。設営本部に感謝する」
お決まりの通りの会話の後でいかにも軍人らしいワイズダックな言葉が帰ってきた。
『とっておきの酒場を用意してある。無事に生還してきたら一杯やろうぜ!』
「あぁ、そっちのおごりでな!」
『ばかやろう! 割り勘だよ!』
そんなふざけた会話を交えながら俺を隊長とする二人だけの突入部隊はその遺跡へと文字通り〝突入〟して行った。
その遺跡はあまりに古く起源がわからないと言う曰く付きの代物だった。西部都市ミッターホルム近郊の小高い山の中腹にそれはあった。
大都市の比較的近郊ということもあり、その遺跡は以前から学術調査が頻繁に行われており、遺跡の構造とその内部状態は詳細な把握がすでに完了していた。
通常のフラックコートの軍服ではなく、汚れや泥が想定される鉄色のズボンとジャケットからなる、軍規定の公式野外戦闘着を身にまとっていた。
足に履くのは編み上げのロングブーツ。襟元には白いスカーフ。防刃繊維を編み込んだベストを身につけ、頭にはピケ帽をかぶっている。
左腰には武器である牙剣を下げ、背中に装備品の入った背嚢を背負っている。その他にもいくつかの装備品を装着して俺たちは任務に臨んでいた。
しかし、第1階層を進んでいた時に部下が声を発した。
「隊長」
「どうした」
「前線設営本部との連絡が切れました。念話装置が行使できません」
「やはりな。事前に確認した資料の通りだ」
「それでは」
「ああ、この遺跡はまだ生きている」
「念話の遮断ですか」
「大規模な古代遺跡ではよくあるのだそうだ」
俺は突入部隊の唯一の部下と言葉を交わしていた。
突入部隊と言っても俺の部下の二人しかいない。敵がいるわけではない。遺跡の内部を確認し、すでに安全性の確認できているルートを通じて遺跡の最深部に到達し、遺跡の心臓部に停止コードを打ち込むだけのシンプルな作業だ。
長年に渡る学力調査の結果の蓄積もあり、5層構造のその遺跡の内部構造は詳細に既に把握されていた。
遺跡の内部は、要所要所にガラスの塊のような発光体が埋め込んである。それが適度な明るさをもたらしているので取り立てて照明を用意する必要ない。それでも一応、簡易照明くらいは用意してあるのだが。
「今回の目的を覚えているか?」
「はい。遺跡の心臓部に到達して不安定状態かを確認し、不安定であれば停止コードを打ち込んで暴走を阻止することです」
「そうだ。今回の任務はボイラー職人が破裂寸前のボイラーを止めようとするのと何ら変わらない」
俺の言い回しに部下が苦笑した。
「いいんですか隊長? そんな軽口叩いて」
「かまわん。中央都市の軍本部に行って人事部で伺いを立ててくるほうがどれだけ面倒かわからん」
「違いないですね。っと、最初の下降口です」
「了解。垂直の石段を使ったはしご形式だ。転落しないように気をつけろよ」
「了解」
まずは第1階層から第2階層へと降りる。
第1階層は単なる洞窟のように作られているが、第2階層から下は石造りとはいえ精巧な地下通路として作られている。
遥か古代の驚くような技術の高さが偲ばれる。
そこから先は俺たち2人は無言のままで先へと進んでいった。
第2階層では周囲の壁や床が自然石のままではなく、綺麗に加工された石版のプレートとなっていた。これはすなわちこの遺跡が人工的なものであり、しかも極めて精度の高い加工技術に支えられて生み出されたものであるということだ。
空間内はそれほど明るくはないが、全く視界がきかないというわけではない。第1階層と同じように光を放つガラス製のブロックが照明用の発光体として様々な場所に埋め込まれているのだ。
俺は部下に命じた。
「位置確認。次の下降口を確認」
「了解」
第1階層はもとより、全階層を事前にマップを諳んじて居た。だが要所要所に警戒用のトラップが仕込まれているので、それを把握する意味でももう一度地図資料に目を通す。
防水加工したマップを取り出し広げる。
部下に地図データを確認させようとしていたその時だ。
――ヒュッ――
何かが空を切る音がする。そうだこれは、
俺は咄嗟に飛び出した。部下の体にしがみつくとそのまま強引に突き飛ばす。部下の頭上を一本の矢が通り過ぎていった。
俺はとっさに叫ぶ。
「敵襲!」
体が瞬間的に迎撃態勢をとる。左腰に下げていた愛用の片手用の牙剣を右手で引き抜き左肩の方へと交差するように構える。
視界の片隅で部下の様子を探れば、すでに立ち上がり体勢を整えなおしている。部下とは少し位置が離れている。
「地図をよこせ」
「はい!」
部下は地図を適切に折りたたんで投げてよこす。俺はそれを左手で受け取りながら部下に命じた。
「お前は戻れ。前線設営本部に帰投し連絡を取るんだ!」
「了解! しかし隊長は?」
「俺は謎の侵入者を追う。もしこれが大国であるトルネデアスなら看過できん! 遺跡の内部情報を持ち出されたらとんでもないことになる!」
俺の判断の言葉に部下は今が危機的状況にあることを理解した。
「了解です。大至急地上と連絡を取ります!」
「頼むぞ」
「はい!」
そう言葉を交わすと部下は地上へと急ぎ戻って行った。
後に残されたのは俺一人。こうなると武器の選択を変えなければならない。
牙剣を左腰に戻し、腰の裏に手を回す。そこに収納しておいたのは愛用の折りたたみ式の単弓だった。
グリップの上下にヒンジがあり、弓の上部と下部を前方へと畳む構造になっている。弓を広げ、腰に巻いたベルトポーチの一つから弓の弦を取り出し装着する。
今までにも様々な戦場で何度も繰り返しやったことだ。視認せずに勘だけですぐに組み立てられる。そもそも俺には剣よりも弓の方が合ってる。
「距離はそれほど離れていないな」
敵の矢は明らかにこちらを一撃で殺そうとしていた。明らかな敵意があることの証拠でもある。
選択は二つある。敵が接近してくるのを待つか、こちらから積極的に近づいていき攻め落とすか。
この遺跡の中では向こうが何を意図しているのかただ待っているだけではわからない。俺は即座にこちらから攻めることに決めた。
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