(1)―由美という少女―
さて二人目はフェル様の作品
【日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~】より
主人公の『竜之宮由美』様です
2つの世界を自由に行き来する能力を持つと言う彼女とルストの交流は何をもたらすのでしょうか?
15000字と長くなったため複数に分割しての掲載となります
ではどうぞ
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「竜之宮由美です」
彼女は自らの名前をそう名乗った。
ここは正規軍の市街地警ら部隊の詰所だった。
街の名はブレンデッド、この国に名だたる傭兵の街のひとつだ。 由美と名乗った少女は所在なさげに椅子の上に腰掛けていた。
そんな彼女を困惑の表情で見守っていたのはフェンデリオルの正規軍兵、普段の鉄色のフラックコートの上に市街地警ら部隊の隊員であることを示す赤色のハーフマントを肩からかけていた。
戦闘行動よりも市街治安の維持に努めることを示すために頭頂部に赤い房のついたツバ付きの黒いヘルメットをかぶっている。
フェンデリオルの主要な市街地ではよくにかける存在だった。
「これはまいったな」
「かろうじて言葉が通じるのはいいとして〝どこから来たのか〟判断がつかん」
「密入国者である可能性は否定できんが所持品などから考えて長距離の旅などに対応できる状態だとは到底思えん」
「そうなると」
「彼女の主張している〝別世界からやってきた〟と言う言説を信じるしかあるまい」
詰所の中には四人ほどの警ら部隊員が雁首を揃えて頭を抱えていた。道端で途方に暮れて佇んでいた異国人の少女を保護したのはいいがどのような処置を施したらいいのか判断がつかなくなってしまったのだ。
「髪の色や名前の感じから言って、東の最果ての国のエントラタ人に見えなくもないが」
「エントラタは服装が違う。彼らは基本的に前あわせの衣を好み、ボタン式の服装は好まない」
果てのない議論を続ける彼らの中の一人が判断を下した。
「犯罪を犯したわけではないからこれ以上拘束するわけにもいくまい。だが、だからといってまるっきり自由にするわけにもいかん」
「では?」
「誰かに身柄を預けよう。特別手当を支給して」
そうなると適任者は一人しかいない。
「では誰に?」
「決まってるだろう? ルストだ」
「ああ!」
全員が納得したかのような声を上げた。
「それはいい。彼女なら柔軟に対応してくれるでしょうし」
「なにより歳が近いから受け入れやすいかもしれん」
「では早速、傭兵ギルドに依頼を出しましょう」
「頼む」
彼らとしては良い発想だと思ったに違いないが、それは実際には単なる押し付けでしかなかった。
そして彼女が呼び出される。
傭兵として一定以上の実績を証明する2級傭兵の資格を持つ17歳の少女だ。
別件で短期の遠征任務に行って帰って来たばかりだ。突然の呼び出しをくらい戸惑っていたが、傭兵ギルドの詰所で引き合わされた少女と出会って、一体何が起きているかを即座に理解した。
ルストは言う。
「つまりこういうことですね? 彼女をしばらく預かれと?」
その疑問に答えたのは正規軍の警ら部隊隊員たちだった。
「申し訳ありませんがお願いしたいのです」
「まさか、軍でそのまま身柄を拘束し続けるわけにも参りませんので」
「彼女の正式な処遇が決まるまで預かっていただきたいのです」
「無論その間の経費はもちろん手当も支給いたしますので」
その説明を聞かされて微かに思案したルストだったが、問題の少女を眺めて即断する。
「わかりました。お引き受けします。寝泊まりは私のところでよろしいですね?」
「はい。原則としてこのブレンデッドの街の中に留まってください。街から出る時は軍の許可を得るように願います」
「了解です」
そう答えてルストは改めて彼女を見つめた。
顔立ちや髪の色から言ってこのフェンデリオルの人間でないことはよくわかる。とは言え安易に外国人と決めるのは早計だ。
いわゆるハーフの人に多い赤っぽい髪。顔立ちは東方系のエントラタ人に近い気がする。しかし服装はどちらかといえば私たちフェンデリオルの物に近い。
襟なしのセーターにズボン姿。履いているのは船乗りのデッキシューズに見えなくもない。利発で意志の強そうな瞳が印象的だった。
だがさすがに途方に暮れているのか心なしか元気がない。
「私の名前はエルスト・ターナー、ルストと呼んで。あなたお名前は?」
椅子に腰掛けている彼女にその隣に座りながらルストは問いかける。歳のころが似ている人間が現れたので彼女なりに安堵するものがあったのだろう。
「由美と言います」
その声を聞いてルストは右手を差し出した。
「よろしくね」
「はい」
由美も右手を差し出してくる。握手を交わして初めて彼女の顔に笑顔が浮かんだのだった。
傭兵ギルドの建物を外に出れば太陽は頂きから少し傾き始めていた。時間の頃は2時か3時というところか。
まずは彼女を人目につかないようにしなければいけない。ルストはそう思った。
「由美さん。とりあえず私の家に行きましょう」
「あ、はい」
「その格好じゃ目立つものね」
明らかにこの国の風俗に見合わない服装の由美は明らかに浮いていた。
「そうですか?」
「ええ、この国は複雑な歴史があって髪の色や瞳の色が多彩なんだけど、それでもやっぱり他の国から来た人ってどうしてもわかっちゃうのよ」
「へぇ」
「まずは街並みに溶け込まないとね」
「はい」
そうしてルストに招かれるままに由美はついていく。向かう先はルストの住む一部屋だけの一軒家だ。
街の脇路地へと入って行くとその先にルストの家はある。由美は招かれるままにその家へと入っていく。
「どうぞ」
「失礼します」
ルストが声をかけた後に挨拶をしながら入ってくる。ルストはそこに由美がしっかりとしたしつけを親からされていると感じた。
そう、彼女には家族がいるのだ。
「座って」
「はい」
ルストは由美に椅子を勧めるとクローゼットへと向かい自分の衣装を漁り始めた。そしてそのまま由美に問いかけた。
「それにしてもあなた、なんでこの町に来たの?」
その問いかけに答えにくそうにしている。
「えっと、それは」
「心配しなくていいわよ。ヘタに口外したりしないから」
「はい」
そんな言葉のやり取りをしながら彼女に見合いそうなワンピースを引っ張り出す。人目を引かないように少し地味めに濃いめのクリーム色で丈は長めだった。
由美が重い口を開く。
「私は特別な力を持ってるんです」
「力?」
「はい」
ルストはワンピースとサンダルを取り出しながら彼女の言葉に耳を傾けた。
「魔法ってわかりますか?」
「ええ、わかるわよ。はるか太古には色々な国に存在したって言うわ。ほとんどは今では失われているらしいけど、この国にも少し形は違うけど〝精術〟って言う形で一部が残っているのよ。それで?」
ルストの問いかけに由美は答える。
「私はその魔法が使えるんです。その力を使って二つの異なる世界を自由に移動してました。ところがいつもやっていた空間移動で行き場を間違えてしまって」
ルストはクローゼットの扉を閉めながら言う。
「気が付いたらこの世界に来ていたと?」
「はい」
「元の世界には戻れないの?」
そう問いかけると由美は落ち込んだ表情で顔を左右に振った。
「時空移動に必要な空間の裂け目が見当たらないんです」
「つまり、時空間の移動に必要な〝出入り口〟が見当たらないというわけね?」
「はい」
そうつぶやいて由美は俯いてしまう。
「もしこのまま元の世界に戻る手段が見つからなかったら――」
由美は言葉を詰まらせた。ルストは察する。彼女が表情を曇らせる理由はそれだったのだ。
だがそこでルストは脳裏に閃くものがあった。
「もしかすると帰れない理由、見当がついたかもしれない」
「えっ?」
突然の言葉を口にしたルストに由美は明らかに驚いていた。
「考えられるのはあなたの移動に使うその空間の裂け目、あなたが普段安定して使っているものとは違う特別な条件が揃わないと開かない要素があるんじゃないかしら?」
その言葉に由美のすがるような言葉が返ってくる。
「例えば?」
「例えばそうね〝時間〟とかね」
「時間――」
「うん」
ルストは自らの知識の一部を明かした。
「私はさっきも言った精術を使うことができるんだけど、そのために専門教育も受けてるの。そこで教えてもらったことの中のひとつに〝術式の安定〟と言うのがあるのよ」
「術式の安定?」
「うん。精術を行使する際に様々な要因で結果が安定しない場合があるの。地理的条件、物理的条件、天体の満ち欠け、そして〝時刻〟」
ルストの説明を由美は真剣に聞いていた。
「こちらの世界の精術では空間操作にまつわる精術は風精と地精と火精が複合した〝時精系〟と言うのに属するのだけど、時精と言うだけあって月日や日時によって非常に左右されやすいの」
ルストの語る言葉は非常に専門的だったが由美の耳には不思議とスムーズに入ってきていた。
「当然難易度も極めて高い。だから普通は厳密な計算を何度も重ねて、時精系の術が最も効率が良く作用するタイミングを確定させてから実行するの。そこから考えればあなたの術が最も効率よくこちらの世界とつながる〝タイミング〟があったんじゃないのかしら?」
「もしかしてそれが私がこちらに迷い込んでしまった時間だと?」
「その可能性が一番高いと思うわ」
そしてルストはその解決策の核心を口にした。
「由美は自分がこちらに飛ばされてきた時間を覚えてる?」
「はい! えっと確か――」
由美は背中に背負うように小さなバッグを持っていた。その中から金属の板のようなものを取り出す。光精系の水晶板のように光り輝いて文字や図形を映し出している。
そこにうつされている文字を眺めて由美は言った。
「午前11時20分!」
「それだわ! その時間きっかりにあなたの出現した場所に居ればもう一度〝扉〟は開くはずよ!」
「はい!」
一つの解決手段が見つかったことで由美の表情は明るさを増していた。
「もっともまだ単なる推論でしかないから確実とは言えないけどね」
しかしそれでも推論だったとしても由美にはとても心強かった。
「やってみる価値はあると思います。ダメだったら扉が開く条件を探してみるだけです」
ルストは確信を抱いていた。この子は意思が強いと。
「そうね。私も手伝うわ」
「ありがとうございます!」
するとルストが柔和に微笑みながら由美に問いかけた。
「でも、明日のその時間までまだまだ時間があるわよね? 由美はお腹空かない?」
そう問いかけた時由美のお腹が鳴る。今回の事件でお昼もまだだったのだから当然だった。
「はい。空きました」
「それじゃ着替えを用意したから着替えて出かけましょう!」
「あっ? はい!」
そしてルストに促されるままに服を着替えていく。一度下着姿になりルストが用意した日常外出用のワンピースドレスを着る。袖は七分袖で袖先が広がったベルスリーブで、襟は喉元まで立ち上がっている。鎖骨のラインから上は薄手のスキンコンシャスな仕立てになっていた。
背中の側からボタンで留めるつくりになっている。それを着せてあげると背中のボタンを留めてあげる。裾がかなり長めの物だったが、彼女は私より身長が大きかったので、ちょうど膝下辺りの丈になる。
それにサンダルを履かせてあげて出来上がりだ。
「うん! いいんじゃないかしら」
そして彼女の手を引いて姿見の鏡の前に立たせてあげる。
「どう?」
「うわぁ、素敵」
「気に入ってくれたみたいね」
「ありがとうございます」
彼女は髪の色が黒ではないので服装さえ変えてしまえばこちらの世界に馴染んでしまう雰囲気があった。
「じゃあ行きましょう!」
「はい!」
そして彼女の手を引いて街へと繰り出した。
行くとするならそうだあそこだ。
天使の小羽根亭だ。
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