想いが舞う夜に
南方 華
前編
ようやく今日の仕事を終え、我が
城、といっても
車内に
ナビモニターのローディング、そして猛烈な勢いで吹き出し始める空気を浴びながら、
ようやく、解放された。
さあ、ここからは私の時間だ。
*
朝のように
ネオンは
そんな中、今日の私はラジオに耳を
普段はカーオーディオで好みの音楽を鳴らすというのが私のセオリーだが、今日は違う。
なぜならば、今夜は特別な日だからだ。少なくとも、私以外にとっては。
12月24日。
歴史に名を刻む聖人が生まれた前夜であるその日は、誰もが知っている「聖夜」だ。
子供達が
まあ、最後の内容に関しては、私には一切縁がないのだけれど。
とはいえ、それはたまたまというやつだ。
今、こうして乗り回している車もそうだ。
就職した当初は電車通勤だったのだが、存外に体力を
貯めた軍資金を手に
出会ってしまった、としか言いようがなかった。
車体カラーも形も好みで、内装は前の所有者が張り替えたのか、明らかに特別な仕様となっていた。
気が付くと金額の入った領収書片手に、満足げな表情を浮かべる私がそこに居た。
決して安くはない、というより人生で最も高い買い物を即決してしまうくらいの、いわゆる
だが、現在彼氏の一人も居ないというのは、本当に奇跡的なことに、いい男に出会えなかったというだけ。
男共もキレイ系でちょっとだけ男
ただ、それの結果としてこうなっているだけなのだ。
……と、若干の
ラジオのDJがアップテンポに盛り立てるため、
中学三年生のクラス担任なんてやっていると、この時期はその業務量にとにかく
補習だ、内申だ、受験だ、と冬休みなんてあってなきが
残業は、一段と激しさを増す。
そんなわけで、普段なら疲れ果て、即座に家(実家)に帰り、明日への英気を養うところなのだが、今日の私はやはり一味違う。
せっかく独り身なのだし、この日にしか出来ない大技をやってのけようと思ったのだ。
それはすなわち、聖夜の一人カラオケ。
こんな日におひとり様最強のコンテンツを楽しむという、まさに神に対する
だが、もはやそれが正常ではないことを私は知っていても止めることが出来ない。
ちょうど、お目当てのクリスマスソングが流れてきた。
車内でそれを
*
「大好きな
私の第二の城は、先程より少しだけ広い。
しかも、信じられないほどガラガラだったので、一番広い部屋へと案内された。
店員の悲しそうな
そんな痛ましい
そのまま立て続けに五曲を熱唱すると、ふう、と一息つき、
ヒトカラは自分の好きなタイミングで歌えるし、誰かの目を気にすることもない。
別に自分が社交的な人間でないことはない……と思っているし、人と一緒ならそれに合わせた行動は
そんなことを思い
彼女は、少し変わった雰囲気を持つ子だった。
きっかけは昨年の春のこと。屋上で、その歌を口ずさむ彼女に
「あれは本当に、凄い声だったなあ」
抑え気味にしていても、とにかく
しかも、耳だけでなく、心にまで。
今にして思えば、これまた
「……」
その後、
クラスでもやや浮いていた彼女は、今ではよく話す友達も出来、うまく
「もう一度あの歌、聞きたいなあ……」
そう
夕飯も食べずノンストップでここまで来ているのだから当然だ。
手元のパネルを操作しながら、明太マヨポテトと焼きそば大盛りを注文する。
普段は親元にいる関係で、このようなジャンクなフードはお召しにならない
そして、ただぼんやりと待つのもあれなので、再び歌いに戻る。
と。
コンコンコン、とドアがノックされる。
ぴったり歌い終わりのグッドタイミング。出来る店員さんのようだ。
「失礼します」
そう、言いながら店員が室内に入ってくる。
お目当てのものはお盆にたっぷりと盛り付けられ、美味しそうな匂いで部屋の中を満たしていく。
が、それよりも、私の目は店員の、その良く見知った顔に
「せ……、んせい?」
彼女もその場で
そう、彼女は先程まで回想していた「歌の上手な生徒」本人だったからだ。
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