第208話
ひより:もう少しでそっち向かうよー。
暁斗:ん、了解。
駅前の時計塔にて、俺と梨蘭はひよりを待っていた。
今日は土曜日。ひより、そして一乗寺と約束をしていた日だ。
「もうすぐ来るってさ」
「はーい」
季節は既に秋。涼しくなった風が肌を撫で、暑さはなりを潜めていた。
隣にいる梨蘭は、少し肌寒いのか今日はタートルネックに、長袖のカーディガンを羽織っている。
下はロングのスカートで、ハイヒールを履いている。
佇まいはどこからどう見てもできるOL風だ。
じっと見ていたのがバレたのか、頬を染めた梨蘭が前髪を整えた。
「な、何よ。そんなに見つめて」
「……いや、なんでもない」
「む。何よー」
ツンツンツンツンツンツンツンツン。
いやつつきすぎだ。やめなさい。
頬をつついてくる梨蘭の手を払い除けるが、梨蘭も楽しくなったのか「えいえい」とまだ続けてきた。
まあ、楽しいならそのままでいいや。
梨蘭に好きにさせて待つことしばし。
駅の方から、見慣れたピンク髪が見えた。
「あっ。おーい、サナたん、リラたーん!」
元気に手を大きく振るひより。
で、その隣にいる男が、一乗寺朝彦か。
写真で見るより爽やかな好青年で、背も俺と同じか少し低いくらい。
中肉中背だが、色白で不健康そうに見える。
「おーい!」
「へぶっ!?」
が、ひよりが思い切り振った手が顔面にぶち当たった。
「「あ」」
「およ? あらら、アサたんごめんねー?」
「い、いえ。大丈夫でふ……」
とても大丈夫そうには見えないぞ。顔面赤くなってるし。
しゃーない。こっちから行くか。
とりあえず2人の元に向かうと、ひよりがこっちに気付いた。
「あ、サナたん。リラたん。お待たせー」
「いや、俺らもさっき来たところだ」
俺らより、一乗寺の方が大丈夫か?
かなり強く顔面に当たったみたいだけど。
一乗寺は涙目になっていたが、俺らを見て急いで取り繕った。
「一乗寺朝彦です。初めまして。……という感じはしませんね。僕はもう何度も写真で拝見してますから」
「結婚体験のやつか」
「はい。あなたが真田暁斗さん。そしてそちらが、久遠寺梨蘭さんですよね」
「ああ。改めて、真田暁斗だ」
「久遠寺梨蘭です。初めまして」
一乗寺と軽く挨拶を交わし、さっそく喫茶店に入った。
俺と一乗寺はコーヒー。
梨蘭はアイスミルクティーとモンブラン。
ひよりはストレートティーとショートケーキを頼んだ。
のだが。
「一乗寺。お前どんだけ砂糖入れんの?」
「僕、甘党なんですよ」
甘党って言いつつ角砂糖2桁入れてる人初めて見た。
こいつ早死しそう。
コーヒーや紅茶で一息付く。
ようやく、一乗寺が口を開いた。
「本日は僕の我儘に付き合っていただき、ありがとうございます。お2人のことはどう呼べば……」
「暁斗でいいぞ」
「じゃあ、私は梨蘭で」
もし末永く関わっていくなら、将来を考えると下の名前で呼んだ方がいいだろうし。
「それでは、僕のことは朝彦でお願いします」
「わかった。……ところで朝彦、なんでずっと敬語なんだ? 同い歳だろ。タメ語でいいよ」
「はは。すみません、これが性分なもので」
「そうなんだよー。アサたん、ひよりにもずっと敬語なんだー」
へぇ……疲れそう。俺は無理だな。まともな敬語すらダルいし。
朝彦はひよりに「すみません」と謝る。
謝る姿も嫌味なく、爽やかな好青年。滅びないかな、イケメン。
「暁斗さん、梨蘭さん。ひよりさんからお話は聞いていると思いますが、専属モデルについてです」
「ああ。俺らは問題ない。ジュウモンジグループ総帥の許可も貰った」
「ありがとうございます。正式な契約はまた後日行いますが、お仕事としてはクリスマスやお正月を見据えて行っていきます」
ということは、2ヶ月の猶予があるのか。
最近は運動不足で肉も付いてきたし、本格的に絞り始めようかな。
そんなことを考えていると、朝彦は照れたように頬を掻いた。
「実は今日、皆さんと遊べたらなと思ってお呼びしたんです。仕事の話はそのついでと言いますか」
「アサたんって、赤い糸が見えるまで病弱だったんだってー。で、糸が見えるようになって元気になったみたいだよ」
ああ、なるほど。だから肌は白いし、髪も少し長いのか。
ミステリアス風イケメンの裏に、そんな事情があったとは。
「いいぞ。この辺は俺らが詳しいから、案内してやるよ。疲れたら言うんだぞ?」
「ほ、本当ですか!? えへへ……暁斗さん、優しいんですね」
やめろ、イケメンフェイスで人懐っこい顔をするな。ちょっとときめいちゃっただろ。
「あら、よくわかってるじゃない。暁斗は優しいのよ」
「うんうん。サナたんは優しいんだよー」
「はい。ひよりさんにお聞きしていましたが、とてもお優しい方ですねっ」
そこからなぜか、俺の優しいエピソード大会で盛り上がり始めた。
やめてっ、俺のライフはもうゼロよ……!
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