第199話

「うおおおおおおおおん! よがっだぁ! よがっだあぎどおおおおお!!」

「暑苦しい」



 翌日、日曜日。

 梨蘭が全員に連絡すると、全員揃って家に来た。

 のはいいのだが、龍也が号泣して話にならない。

 マジで離れて、泣きすぎだから。

 あ、ちょ、鼻水付けんな!?


 龍也の頭を掴んで引き剥がすと、今度は脚に寧夏が引っ付いてきた。



「おいコラ寧夏、離せって」

「ひぐっ、えぐっ……! よがっだ、よがっだあぁ……!」



 て、お前もかい。

 2人を無理やり引き剥がすも、何度も抱き着いてこようとする。ええいっ、しつこい!


 そんな様子を、璃音は苦笑いして見ていた。



「まあまあ、暁斗君。2人とも学校でも酷い有様だったのよ。授業に集中できなくて」

「とか言っテ、リオンさんも練習に集中できてなかったじゃないカ」

「ちょ、リーザさん!」



 顔を赤くして怒る璃音。

 そうだったのか。やっぱり心配掛けてたんだなぁ。



「センパイ……全く、どれだけみんなに心配かけるんですか。ぷんぷんです、もう!」

「そうだよお兄。私……私っ……うえぇん……!」

「もう、琴乃泣きすぎ……ふぇ……ふえぇん……」



 そういう琴乃と乃亜も大号泣だ。

 これだけ心配掛けてたのか、俺……。



「本当……みんな、ごめんな。そして俺のために、ありがとう」

「私からも改めてお礼を言わせて。ありがとう、みんな」



 梨蘭と並んで頭を下げる。

 頭を下げずにはいられない。

 みんなの思い出と、梨蘭との思い出。

 これがなかったら思い出せなかったと思う。



「いや、俺のぜいだ……俺のぜいなんだがら、頭を上げでぐれぇ……!」

「ばかりゅーやを止められながっだウヂのぜいでもあるがらぁ……! ごべんよぉ……!」

「うえぇーーーん! おにぃ、よがっだあぁ!」

「ふぇーん! ぜんばいっ、ぜんばあぁいっ!」

「みんな、落ち着いて……うぅ……」

「いかんナ、もらい泣きしてしまウ……」



 いや、あの、マジで落ち着けみんな?



   ◆



 なんとかみんなを宥めることができ、リビングに移動した。


 梨蘭、寧夏、璃音、琴乃はキッチンで料理を作っている。

 今日は俺の快復祝いってことで、家でパーティーをすることに。


 一応、昨日病院に行って検査してもらって、特に脳に異常は見当たらなかった。


 何が切っ掛けでとか聞かれた時は、羞恥で死ぬかと思ったけど……。



「リラー、菜箸どこー?」

「右の引き出しよ」

「じゃ、私ポテサラ作りまーす」

「なら、私はお肉に下味付けるわね」



 料理慣れしてる女の子が協力して料理してるのを見ると、そそられるものがあるなぁ。

 眼福です、ありがとうございます。



「姐さんと琴乃の手料理……楽しみですねっ、センパイ!」

「そうだな。……て、お前は作らないの?」

「私、食べる専門なんで☆」

「あぁ、そういやバレンタインの時にコークス貰ったな」

「やだなぁ、あれはトリュフチョコレートですよっ」



 トリュフチョコレートをあんなゴリゴリガリガリに作れるの、ある意味で才能の塊だよ。


 当時のことを思い返していると、「それにしてモ」とリーザさんが口を開いた。



「一体何が切っ掛けで記憶が戻ったのダ? 思いの外早く戻ったみたいだガ……やはり濃緋色の糸が関係してたのカ?」

「関係してるかはわかりませんが……あ、いや、なんでもありません」

「おヤ? おやおヤ? おいおいその反応、何かあったとしか思えんゾ?」



 ニヤニヤすんな、腹立つ。



「センパイ、やっぱりエッチなことしたんですか? エッチなことしたんですか!?」

「2回言うな! あとしとらんわ!」

「えー、怪しー」



 乃亜とリーザさんが白い目で睨んできた。

 なんだその目は。



「はぁ……マジでしてないよ。本当に」

「は? それはそれで不純ですね」

「むしろ盛り上がって一晩中『ピーーー』するのが定石でハ? エロ同人みたいニ」

「俺にどうしろと」



 あと変なネットスラング使わないでください、リーザさん。使い方間違ってるし。


 2人が俺を見ながらこそこそと話していると、龍也が「まあまあ」と2人を宥めた。



「暁斗をからかうのはそれくらいにしてやろうぜ。な?」



 龍也の言葉に、俺らは目をパチクリさせた。

 は? え、龍也? 一体何を……?

 乃亜も同じことを思ったのか、首を傾げた。



「リューヤ先輩、どうしたんです? いつもならからかうこっち側では?」

「乃亜に賛同するのも癪だが、その通りだろ。どうしたんだ、龍也?」

「あー、いや……俺のせいで大変な目にあったんだし、これからは自重しようと思ってな」



 龍也は頬を掻いてそっぽを向く。

 こいつ、ずっと気にしてくれてたんだな。


 でも……。



「なんかリューヤ先輩っぽくないです。さては偽物だなー!」

「ちょっ、安楽寺脇腹つつくのやめろって」



 妙な空気を取り繕うように、乃亜が龍也にちょっかいかける。


 そんな龍也を見て、ほんの少しだけ心に穴が空いた……そんな気がした。

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