第195話

 翌日。

 次にやって来たのは、璃音とリーザさんだった。



「こんにちは、暁斗君。元気そうね」

「まあな。記憶が飛んだこと以外は、概ね良好だ」



 たまに頭の片隅に何かが引っかかる感じはするけど、それも直ぐに消えちゃうし。


 と、リーザさんが俺の頬を摘んできた。



「なにふんれふか」

「ふム、ちょっと太ったカ? まあ運動できていないのダ、仕方あるまイ」

「やかましい」



 ちょっと気にしてんだから現実を突き付けるな。


 2人は初めて来たからか、執拗に辺りをキョロキョロしている。

 ここに始めてくる奴はみんな同じリアクションだから、もう慣れた。


 2人をリビングに通し、いつも通り座って話を聞くことに。



「さて、早速だけど聞かせてもらっていいか? 2人が呼ばれたってことは、それなりの理由があるんだろ?」

「そうね。どこから説明すればいいかしら……」

「リオンさん。ここは私に任せテ」



 リーザさんが軽く咳払いをし、隣に座る竜宮院の手を握った。



「落ち着いて聞いて欲しイ。まズ、私とリオンは赤い糸で結ばれていル」

「お……おぉ、そうだったのか。おめでとう」



 そういや、赤い糸が見えた日の授業で言ってたな。同性愛者の人達は、それぞれ同性の運命の人が現れるって。


 なるほど、2人がそれだったのか。



「うム。そして少年からは、精子提供を受けることになっていル」

「へぇ」



 …………………………………………ん?



「は?」

「ちょっとリーザさん。話が飛びすぎよ」

「そうカ? 難しいナ……」

「もう……暁斗君、私から説明させて」

「お、おう?」



 今何か、不穏な言葉が聞こえたような。

 とにかく竜宮院からの話を聞こう。



「まず、竜宮院家はかなり古い家でね。卒業後は跡継ぎを産みなさいって言われてたの」

「また古風な」

「そうね。でも私は女性が好き。そしてリーザさんと赤い糸で繋がってる。跡継ぎはできないの」



 まあ、同性だしな。そこは仕方のない、越えられない壁というか。



「で、あなたから精子提供を受けることになったわけ」

「飛躍ッッッ!」



 そこでなんで、『で』って言葉が入るんだよ! もっと間に何かあるだろ!



「あら? 違ったかしら?」

「いヤ、合っていると思うゾ」

「でしょ?」



 そこ! 2人だけで完結させない!



「梨蘭は知ってるのか? このこと」

「知ってるも何も、当事者だからね。まあ色々端折ってるけど……」

「そこ端折らず説明して欲しい」



 というか、そこが1番大事なところだろう……。



「えっと、璃音の家は古風な考えを持ってるから、璃音が同性を愛し、運命の相手も同性だと知られたら、勘当される危険があったの」

「……何となく想像できるな」

「そこで璃音のご両親から提示された選択肢が、絶縁と精子提供よ」

「ごめん何言ってるのかまったく理解できない」



 なんでそれで絶縁と精子提供の選択肢が出てくるのん?



「まあまあ、聞きなさい。もし絶縁を選択したら、璃音は学校を辞めることになっていた。でも精子提供を受けるなら、2人はみんなに祝われて幸せな未来を歩める……ということになったのよ」

「でもそれが俺ってどういうこと?」

「精子バンクで見知らぬ人のは嫌だってことになってね。そこでアンタに白羽の矢が立ったの」



 いや、うん……うん、なるほどわからん。

 もう過ぎたこととは言え、何がどうしてそうなったのやら。



「まあ今すぐって訳じゃなくて、私と暁斗が大学卒業してからだから、だいぶ先だけど」

「そ、そうか」



 よかった……いや、よかったのか?



「どう? 何か思い出せた?」

「全く。思い出せないというか、思い出したくないというか……」

「まっ。あなた、この子達を認知しないつもり?」

「酷いぞ少年。私達は本気なのニ」

「おいコラそこ、腹を摩るな腹を」



 大学卒業後だから、まだ全然だろうが。



「ということで、この半年であった私達とのイベントはそれくらいね」

「今更だガ、少年はどんな人生を歩めばこんなことになるのダ?」

「それ、俺が1番聞きたいッスよ」



 これも『運命の赤い糸』効果か?

 恐ろしいな、赤い糸……。



   ◆



「もう何が何やら!」



 竜宮院達が帰って、リビングで俺と梨蘭の2人きり。


 この数日、色んな人から色んなことを聞かされたけど、本当に訳が分からない。どうなってるのこれ。誰か教えてプリーズ!



「もうないか……? もうないよな……?」

「そうねぇ……ひよりのことはもう聞いたでしょ?」

「ああ。入院中にな」



 いきなり「告白したこと忘れちゃったの!?」って言われたから。



「この家に住むきっかけもこの間話したわよね」

「ああ、諏訪部さんの件だろ」

「そうよ。となると、あとは1人だけね」

「まだいるのか……誰だ?」

「むしろメインと言ってもいいわ」



 えぇ……そんな奴がまだいたの? 誰だよそれ。

 げんなりしていると、梨蘭はぐいっと大きな胸をこれでもかと張って、ドヤ顔を見せた。



「私の話が残ってるじゃないっ。明日から休みだし、一日中私達のことを話してあげるわね!」

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