第191話
梨蘭に案内されて、家の中を一通り巡った。
余りの広さに、慣れるまでは迷うかもなぁ。間取りとか覚えないと。
今はリビングに戻ってきて、この先どうするかを梨蘭と話し合っていた。
「そろそろ体を動かしたいです」
「ダメです」
ぶぶー、と胸の前でばってんを作る梨蘭。
まあそうだよなぁ。さすがにダメか。
「何考えてんのよ。アンタ、頭打ってんのよ? 激しい運動なんて絶対ダメ。ダメ絶対」
「そんな言わなくても。自重トレなら……」
「は?」
「あ、はい。ごめんなさい」
キレないでよ、怖いから。
まあ、梨蘭の心配もわかるけど……逆の立場だったらそうなるし。
でもさすがに何もしないのはなぁ。
「学校の方は、まだ行かなくていいんだよな?」
「ええ。三千院先生も校長先生も、今は休むことに専念しなさいって言ってたわ」
運動もダメ。学校もダメ。
となるとやることといったらラノベや漫画を読むくらいだ。
でもそれだけしてても、記憶が戻るとは思えない。
何か能動的に動かなきゃ。
つってもなぁ……。
「なら、日替わりで色んな人と関わったら? これだけ広い家なんだし、学校帰りに誰か連れてくるわよ」
「そうだなぁ……うん、それがいいかな。てかそれ以外手立てがない」
「わかったわ。じゃ、今日は休んでて。身の回りは私がお世話するから」
「ありがとう」
梨蘭の手伝いもなければ、今の俺は何もできない……虚しい。
これは、1日も早くどうにかしないとな。
「というわけで、今日は寧夏と倉敷を連れて来たわ」
「へいアッキー。おひさー」
「おう、寧夏。いらっしゃい」
寧夏と龍也か。
確かに、最初は親友の2人の方が接しやすくていいな。ナイス人選。
「うひゃー! アッキーの家、噂には聞いてたけどでっけー!」
「ん? 来たことなかったか?」
「うん。来る前にアッキーが記憶喪失になっちゃったからねぃ。あ、これお菓子だよん」
「お、サンキュー」
相変わらず、寧夏はテンションたけーな。
それとは逆に……。
「おい龍也、どした? 元気ないけど」
「い、いやぁ、その……俺、ここに来てよかったのかなって」
は? 何言ってんだ?
気まずそうに顔を俯かせる龍也。眠れてないのか、目の下にはクマができている。
「俺のせいで暁斗が大変なことになったのにさ。それなのに……」
あー……なるほど、それで顔を合わせづらいってことか。
すると寧夏が泣きそうな顔で龍也の前に立ち、庇うように腕を開いた。
「あ、アッキー、りゅーやを許してやって。ホント、ずっと反省してるの。もうずっと寝てないの。寝てもすぐ起きちゃって、苦しそうで……」
「ネイ、やめろ」
「りゅーや……!」
「俺、許されないことをしたんだ。だからネイ、やめてくれ……」
ふむ……まあ、色々と思うことはあるが……。
「大丈夫だぞ、龍也。別に俺はなんとも思ってないし」
「暁斗……でも、俺……」
「それにもし怪我だけして記憶を無くさなくても、お前は同じように苦しんだろ? で、俺はきっと同じようにお前に言うんだ」
龍也に向けて拳を突き出し、ニッと歯を見せて笑い。
「気にすんな。楽しかったろ?」
「ッ! ……あぁ、楽しかった……!」
今にも泣きそうな龍也が、拳をぶつけてきた。
◆
「ごめんねアッキー、寝室借りちゃって」
「気にすんな。ゲストルームなら腐るほどあるからな」
安心したのか、龍也はそのまま玄関で爆睡してしまった。
空いてるゲストルームに龍也を寝かせ、俺らはリビングへと戻ってきた。
ソファーに座ると、寧夏はにひっと笑みを浮かべた。
「にしても、さすがアッキー。記憶を無くしても変わらないイケメンっぷり。リラは幸せですなぁ」
「ええ、幸せよ」
「恥ずかしいこと堂々と言うな」
あと胸張らないで。目のやり場に困るから。
「ホント……ありがとね、アッキー」
「だから気にすんなって。どうせ俺も悪ノリしてたんだろ」
容易に想像できる。だって俺だもん。
「それでもだよ。りゅーや、本当に辛そうだったから。まともに眠れてなかったし……」
「……ん? なんで寧夏が龍也の睡眠事情知ってるんだ?」
「あ、そっか。えっとね、ウチとりゅーや、赤い糸で繋がってます」
「……へ?」
「そんで同棲してます」
「はい?」
え、ちょ、待って待って。色々待って。話が飛躍しすぎてついていけないんだけど。
「暁斗、今日はそのことも含めて2人を呼んだの。倉敷は寝ちゃったけど……この半年の間の暁斗の活躍を聞かせたくて。寧夏お願いできる?」
「もっちろん! ウチらの関係することなら、任せてよ!」
「よ、よろしくお願いします……?」
思わず敬語で畏まってしまった。
俺、半年のうちに何をしたのん……?
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