第179話

   ◆



 ようやく昼休みになった。

 昼休みは自分のクラスで弁当を食うことになっていて、俺と梨蘭はもちろん、龍也、寧夏、璃音も集まっていた。


 因みにひよりは黒瀬谷と緑川と。

 諏訪部さんは別のグループで集まって飯を食っている。



「むふー」

「梨蘭ちゃん、ご機嫌ね」

「そりゃそうよっ。なんて言っても今日は、体育祭の競技で初めてゴールしたんだもの。歴史に名を刻んだと言っても過言じゃないわ!」



 過言であります。


 まあ嬉しそうだから、俺から何か言うつもりはないんだけど。

 梨蘭の作ってくれた弁当をありがたく食べていると、寧夏がニヤニヤとこっちを見てきた。



「聞いたよアッキー。リラにご褒美あげるんだって?」

「……誰から聞いた」

「誰って、リラが意気揚々と話してたし」



 何やってんだこいつ。

 テンション上がるのはわかるけど。



「おいコラ梨蘭」

「…………(ぷい)」

「こっち見ろや」

「い、いいじゃない。すっごく嬉しかったんだもん」



 嬉しいのはわかるが、もっと落ち着いてくれ。

 前から思ってたけど、梨蘭って興奮したりテンパったりすると、こっちが予想もしないことをしでかすんだよな。


 でもご褒美のことを言うとは思わなかった。



「で、どんなご褒美あげるつもりなの、アッキー?」

「教えない」

「ま、卑猥ッ」

「変な妄想すんな」

「あぅ」



 寧夏のひたいをビシビシつつく。

 誰がそんな真似するか。というか卑猥なご褒美ってなんだ。



「でも暁斗君。梨蘭ちゃんは満更でもないみたいよ」

「え?」



 璃音に言われ、梨蘭を見る。

 と、顔を真っ赤にして悶えている梨蘭がいた。



「ひ、ひ、ひわ……!? え、ひ、わ……だ、ダメよ暁斗っ。そんなこと……ででで、でも暁斗が求めるなら私……あうぅ~……っ!」



 満更でもないというか、完全に変な妄想をして思考がどろどろになってるだけじゃん!

 相変わらず妄想逞しいっすね梨蘭さん!

 あと、教室でそんなこと言わないでくれません!?



「久遠寺さん、幸せそうねぇ~」

「うんうん。かわい~」

「やっぱりいがみ合ってるより、仲良い方が幸せよね」

「あー、俺も運命の人に会いたくなってきた」

「夏に会いに行ったけど、あいつら見てると一緒にいたくなるよな」

「明日休みだし、私も会いに行こうかなぁ」



 ぐ……ほらぁ、みんなこっち見てほんわかしてんじゃん……!

 これ、めっちゃ恥ずかしいんだけど……!



「ほら、梨蘭ちゃん。早く食べないとお昼の時間なくなっちゃうわよ」

「えへ、えへへ……はっ!? あ、危ない、トリップするところだったわ」

「よだれ垂れてるわよ」

「え、うそ!?」



 いや、マジ。

 このトリップ癖、どうにかならないもんかね。



「ま、それは物かもしれないし、物じゃないかもしれない。それだけは言っておく」

「へいへい暁斗。それ言ってないのと同じじゃねーか」

「今言ったらサプライズになんないだろ」



 ま、体育祭が終わってからだな。

 何をプレゼントにするかは決めてるし、喜んでくれると嬉しいんだが。



   ◆



 昼休みが終わり、再びグラウンドに戻っていた。


 校舎に掲げられている赤組、白組、青組の得点表は、それぞれ310点、280点、300点と、どれも僅差だ。

 どうやら、近年稀に見るほどの大接戦らしい。

 午後の競技は応援合戦、1年限定借り物競争、2年限定男女別棒引き、3年限定男女別華のステージ、騎馬戦、チーム別対抗リレーが残っている。


 華のステージは、ステージの上に一定の時間内に何人乗れるかを競う競技だ。

 さすがに男女一緒はまずいということで、別競技として換算されるらしい。


 午後の部最初の競技。応援合戦を見ていると、隣にいる龍也が体育祭のしおりを見ながらニヤニヤしていた。

 何こいつ気持ち悪い。



「いやぁ、華のステージ……女子がキャッキャ言いながら抱き着き合うって、最高だよな」

「また龍也があほみたいなこと言い出した……」

「いやいや、合法的に女子が抱き着き合ってるのを見れるんだぞ。最高だろ」

「寧夏に聞かれたら怒られるぞ」

「ネイはこっち側だから問題ない」



 そうだった、こいつらそういう奴らだった。



「暁斗、よーく考えろ」

「何が」

「3年って言ったらほぼ18歳……いろんなことが合法になるが、まだまだ未成熟さが残ってる未完成なお年頃だぞ。な?」

「発想がおっさんくせぇ」

「俺まだ16歳なんだが」



 発想に若いも年寄りも関係ないとは思うが、いい笑顔で何言ってやがるんだこいつは。

 あと、何が『な?』なのか全くわからないの、俺だけですか?



「俺、次借り物競争だから行くわ」

「おー。暁斗なら何かやらかしてくれるって信じてるぞ」

「そんなヘマはしねーよ」

「俺はお前を信じてる」

「こんな嬉しくない信頼は初めてだ」



 たかが体育祭の一競技だ。

 そんなやらかすようなこと、起きるはずない。


 ……ないよな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る