第177話

 そういや障害物競走って、梨蘭も出るって言ってたな。ちゃんと応援しないと。


 応援席の前に行くと、丁度障害物競走に出場する人達が入場してきた。


 赤い糸を辿って梨蘭の姿を探す。

 んー……お、いた。やっぱりプロンドヘアーは目立つな。

 梨蘭も赤い糸を辿って俺を見つけたのか、恥ずかしそうに小さくピースをした。


 頑張れ梨蘭、応援してるぞ。



「コラ、真田君! 君は今青組だろう! 青組の応援をしろ!」



 げっ。薬師寺先輩、そんな大声出さないでくださいよ……!



「あー、薬師寺先輩もファイトっすー」

「ついでのように応援するなー!」



 そんな大声出さないでくださいよ。



「うー! 暁斗は私を応援してくれてるんです! 薬師寺先輩でも許しませんよ!」

「今はチーム戦で、真田君は青チーム! なので青チームを応援するのは当然だろう!」



 ギャーギャーわーわー。

 あの、うん、そんな大人数の前で取り合いみたいなことやめて。マジで恥ずかしいから。


 そんな様子を見ていた龍也が、ニヤニヤとこっちを見てきた。



「暁斗、あの鬼かいちょーに気に入られたな」

「気に入られるようなことしてないんだけど」

「あの人は真面目な生徒を好む。が、真面目すぎるのもダメだ。抜くところは適度に抜いて、面白くないとな」

「心当たりがなさすぎる……」



 俺のどこに気に入られる要素があるのか。



「それを言うなら、普段から面白いお前とか気に入られそうだけど」

「俺はダメだ。不真面目すぎる」

「自覚あんのか」

「おう。俺のことは誰より俺が知ってるぜ」

「文面だけ見るとかっけーのに理由がクソすぎる」



 龍也から障害物競走に目を向ける。

 女子の障害物として設置されてるのは、四段の跳び箱、3つのハードル、平均台、最後に網くぐり。


 因みに男子は七段の跳び箱になり、ハードルは5つに増えるらしい。

 知ってるやついないから、特に応援することはないけど。



「まずは1年からか……お? 暁斗、久遠寺だぞ」

「だな」



 6人並んでる中で、1番外側にいる梨蘭。

 緊張してるのか、表情が硬いな。



「位置について、よーい……」



 パンッ!


 体育祭実行委員の合図で、6人が走り出す。

 最初の障害物は跳び箱だ。四段だから、小学生でも飛び越えられる大きさだな。


 1人、また1人と跳び、そして梨蘭は。



「う、ん。あれ? えっと、右足、左足……ん?」



 ……あいつ、踏み切る足がわからなくなって止まったぞ。

 あ、引き返した。

 十分距離を取り、助走再開。

 ゆったりした助走で、いざ踏切板を使ってジャンプ!


 ぽふっ。


 ……乗ったぞ、四段の跳び箱の上に。

 なんか可愛い。


 けど、梨蘭は諦めずに跳び箱を降りて走り出した。

 次の障害物は3つのハードル。どれも低くしてあるし、これなら……。


 ガッシャーンッ!!


 ……コケた。盛大に。


 それでも諦めない梨蘭は、次に平均台に向かう。

 頑張れ、頑張れ梨蘭っ。


 うわ、めっちゃバランス感覚悪い。あそこからコケたら痛いぞ……!

 うわわっ、見てられん……!


 お……おおっ! 渡りきった!


 たった1つクリアしただけなのに、割れんばかりの喝采が響いた。

 梨蘭もそれで自信を取り戻したのか、むんっと気合いを入れて次に向かう。


 網くぐり。これはくぐるだけで問題ないんだが……高校生離れした発育のせいでまあ引っかかる引っかかる。


 って、このままじゃ梨蘭が晒し者に……!


 と、その時。突風により突然巻き起こった砂埃。

 それが目に入ったのか、至る所から呻き声のようなものが上がった。


 更に。



「コラ男子、見んな!」

「あの子は真田君の運命の人なんだから!」

「あんたらが見ていいレベルの子じゃないのよ!」



 1年、2年、3年の女子が梨蘭を邪な視線から守ろうと盾になった。


 その隙に、梨蘭は網をくぐり終えてそのままゴールへ。

 他の人よりだいぶ遅れてゴールしたけど、楽しそうだ。



「愛されてるなぁ」

「梨蘭の美貌なら当然だろう」

「いや、多分お前とセットだからこれだけ愛されてると思うぞ。それにさっきの突風、絶対偶然じゃないだろ」



 ……そうかもか。

 梨蘭は笑顔でこっちを振り向くと、満面の笑みでピースした。

 俺もそれに、笑顔でピースを返す。

 よくやった。頑張ったな、梨蘭。



「にしても暁斗。お前の百面相面白かったぞ。あとで写真見せてやる」

「撮ってんじゃねぇ」



 因みに、その後の薬師寺先輩は本当に高校生かと思うほど凄まじい身体能力を見せて、ぶっちぎりでゴールした。



「おい、私の扱い雑じゃないか!?」



 気のせいです。

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