第176話
「何勝手なことしてんだよ……」
「だって人数が足りないっていってたからよ。暁斗なら問題ないって思ったわけよ」
「俺の気持ち的な問題なんだが」
「頼むよアキえも~ん」
「引っ付くな、うっとうしい!」
あとまた変に目立つから!
龍也を押しのけ、そっと嘆息する。
まあ、決まっちまったもんはしょうがない。今更出ないって言ったら、薬師寺先輩が後から怖いし。
「わーった、わーったから」
「さっすが暁斗! さ、行こぜ!」
相変わらず押しが強いな、こいつは。
龍也に背を押されて集合場所に向かう。
その途中、徒競走を終えた寧夏とひよりを見かけた。
「おーい! サナたーん!」
「いえーい。ウチら揃って一位だぜぃ」
「おう。お疲れ、2人とも」
2人は満面の笑みで人差し指を立てた。
別チームとは言え、同じクラスの奴が一位を取ると俺も嬉しくなる。
「にゅふふー。このままひより達が勝っちゃうかもねー。アキたん、敗れたり!」
「ウチら強いからねぃ。りゅーやも覚悟しなよ」
む。そう言われると、こっちとしてもやる気を出さないわけにはいかない。
「言ってろ。俺らが勝つ」
「へいへい! 真田暁斗極大納言様がやる気を見せたんだ、俺らが勝つぜ!」
その頭の悪い役職みたいなのやめて。
2人と別れて集合場所に向かう。
周りはもちろん運動部ばかり。
特に、2年3年の柔道部とかウェイトリフティング部とかマジでかい。つかいかつい。
俺も鍛えてる方だけど、こんなガチガチの人と比べると自分が細いって認識させられるなぁ。
順番としては、後ろの方が重量級と高身長。中心に行くほど軽い人が集まっている。
俺は青組の中でも軽い方で、一番前にさせられた。
「暁斗ー!」
「ん? あっ、梨蘭?」
赤組応援席の最前列で、梨蘭が俺に向けて大きく手を振っていた。
その隣には寧夏、ひより、璃音がいる。
「アッキー、りゅーや、ふぁいとー」
「サナたんがんばれー!」
「クラスメイトのよしみとして応援するわ」
あいつら、別チームなのに……。
でも可愛い女の子に応援されたらやる気が出てくるって、我ながら単純な性格してるなぁ。
綱を持って準備をする。
体育祭実行委員が中心に立ち、スターターピストルを掲げた。
「よーい……」
パアンッ!!
スタートと同時に綱を引く。
相手の白チームにもがたいがいい奴がいるから、引いたり引かれたりとかなり接戦だ。
が、少しずつ、少しずつ引かれている。
これっ、まずい……!
「暁斗、勝ったらから揚げよー!」
マジで!?
「よっしゃ! 青組、力を合わせて行くぞおおおぉぉぉ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあおお!!!!」」」」
「せーの!!」
俺の掛け声で、青組全員が声を合わせて綱を引っ張る。
応援席にいる青組のチームメイト達も声を合わせ、青空に声援が響き渡る。
そして。
パンパンパンッ!!
「勝者、青組!!」
青組対白組は、青組の勝利で終わった。
「やるな真田!」
「お前の声のおかげで、力を合わせやすかったぜ!」
「次もよろしくな、真田!」
「あ……うす」
全く知らない先輩に声を掛けられた。
多分、あのウェディング広告のせいだよなぁ。
こんなに俺のことをみんなに知られてるとは思ってなかったけど。
その後チームを入れ替え、白と赤は赤が勝ち、赤と青は青が勝利した。
綱引きは青が2勝。赤が1勝1敗。白が2敗という結果に終わった。
疲れたけど、こういう風にみんなと力を合わせて勝つのも、悪くないな。
「へいへい暁斗、みーんなお前さんのこと持ち上げてるぜ!」
「俺は声出して、力を合わせるよう仕向けただけだ。俺1人の力じゃないさ」
「ひゅー、かっけー!」
べしっ。
「からかうな。殴るぞ」
「殴ってから言うなし!?」
未だ興奮が冷めないのか、テンションが異様に高い龍也と一緒に席に戻る。
と、薬師寺先輩が腕を組んで待っていた。
「やるな、真田君。天晴だ」
「あざす」
「えー、かいちょー。俺も頑張ったんすよ?」
「うむ。今日ばかりは貴様も褒めてやろう。よくやった」
「うぇーい! かいちょーに褒められたー!」
普段どんだけ怒られてんだ、お前は。
「さて、そろそろ私の出る競技の番だな」
「薬師寺先輩。何に出るんですか?」
「障害物競争だ。応援よろしく頼むぞ」
障害物競争……あ、梨蘭も出るやつじゃん。応援しなきゃ。
「かいちょー、障害物競争に出るんすね」
「ああ。チームメイトなんだ。貴様も応援しろよ?」
「わかってるっすよ。でも……」
じーっと薬師寺先輩を見る龍也。
おい、お前まさか……。
「? なんだ?」
「いや。障害物に引っかからなそうな体だなと思──」
「ふんっ!」
「ほげ!?」
鳩尾に拳がクリーンヒット。
龍也、今のはお前が悪い。
「全く、これだからデリカシーのない男は」
「は、はは……じゃあ薬師寺先輩。ファイトです」
「うむ。行ってくる」
薬師寺先輩はサムズアップし、集合場所へと向かっていった。
「ふ……美女からのパンチは我々の業界ではご褒美です」
「お前、ある意味タフだよな」
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