第162話

【宣伝】

 書籍版は、『なぜ梨蘭が暁斗を好きになったのか』等のエピソードが加筆されています。

 まだ手に入れていない方は、是非に!


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   ◆



「はぁ……いい湯だった」



 入念に体は洗ったし、湯船に浸かって疲れも取れた。

 あんなに広々として足を伸ばせる湯船、銭湯以外にあるんだな。


 ……別に他意があって入念に洗ったわけじゃないぞ。ホントダヨ?


 俺は誰に言い訳してるんだ。


 ハーフパンツにTシャツを着て、保湿液と乳液を使う。

 別に今回だけじゃなく、こらは俺のルーティンだ。将来シワシワでシミだらけの顔になりたくたいし。


 かっこいい大人の男になるには、今からの積み重ねが大事だからな。


 入念に肌を保湿していると、不意に洗面所の扉が開いた。



「暁斗、出た?」

「ああ、出たぞ。でもノックくらいしような。俺が全裸だったらどうするんだよ」

「あっ。ご、ごめんなさい」



 梨蘭のことだから、家でもノックくらいすると思ったんだけど。意外とズボラなところもあるんだな。



「へぇ……暁斗も化粧水とかやるのね」

「ま。習慣だ」

「すごいわ。男子高校生で化粧水するって、あまり聞かないから」

「特に男子高校生は、こういうのに疎いからな。俺は昔からやってるし、それに……」

「それに?」

「……これから梨蘭と一緒に生きるって考えたら、生半可な容姿じゃいけないからな」



 今でこそ絶世の美少女だ。

 でも、これからまだ成長して、絶世の美女になるのは目に見えている。


 そんな梨蘭の隣を歩くのは、他の誰でもない。俺だ。


 だから今から頑張る。隣に立っても恥ずかしくないくらいに。



「そ、そう。私のために……」

「何照れてんだよ。これくらいはもう慣れろって」

「な、慣れるはずないでしょっ。どんだけアンタを想って来たと……ッ!」



 ギュンッ! またも一気に顔を赤くした梨蘭は、逃げるようにして洗面所を出ていった。


 何しに来たの、あいつ?



「…………(ひょこ)」



 あ、戻ってきた。



「どうした?」

「いえ、その……1人で寝室にいると、ちょっと落ち着かなくて」

「よしすぐ行こう今すぐ行こう」

「ち、違うからっ。別に寂しいとか欲しがってるとか、そういうのじゃないから!!」



 はいはい。わかりやすいなぁ、梨蘭は。

 保湿を終わらせ、最後に歯磨きをしてから梨蘭と一緒に寝室に向かう。



「…………」

「…………」



 が、入ってから一気に緊張感が増した。


 目の前のキングサイズのベッドで、これから梨蘭と寝る。

 いや、別にやらしい意味ではない。言葉の通り、ただ寝るだけだ。






 だけど、緊張するものは緊張するんだよなぁ!






 どんなに冷静を装っても、緊張するんだよ!

 だって俺純潔よ!? 童貞よ!? チェリーよ!?

 そんな俺が梨蘭みたいな美少女と同衾ってどうなのかなぁ!? どうなのかなぁ!?



「じゃ、じゃあ……寝ましょうか」

「そ……そう、だな」



 先に梨蘭がベッドに横になり、顔の下半分まで覆うように掛け布団に潜り込んだ。



「そ、それじゃあ、お邪魔します」

「は、はい」



 ゆっくり布団に潜り込み、枕に体を預ける。



「うわっ、沈む……!」

「そ、そうね。こんなにふかふかなベッド、初めてよ」

「よくスポーツ選手がコマーシャルやってるマットレスがあるけど、あれに近いかも。腰と首と肩がめっちゃ楽」



 運動してると、体の節々が痛くなる時があるからなぁ。

 これは楽に寝られるし、いいかも。



「ねえ、暁斗」

「ん? どうし……た……?」



 横を見ると、すぐ近くに梨蘭の顔があった。

 そして改めて実感する。


 今俺は、梨蘭と同じ布団で横になっている、と。


 そんな当たり前のことを考えていると、梨蘭の手がそっと俺に伸びてきた。

 俺も、おっかなびっくりにその手に触れる。

 どちらともなくゆっくり絡め合い、互いに見つめ合う。



「もう寝る時間なのに、暁斗がすぐそこにいる……」

「ま、前にもあったろ。ほら、海の時」

「そうね。でもあの時は暁斗気絶してたし」



 あ、確かに。

 梨蘭が風呂場に入ってきて、それでのぼせたんだっけ。


 ……また恥ずかしいこと思い出してしまった。



「でも、今は違うわ。お互いにちゃんと意識があって、こうやって話せてる。幸せよ、私」

「……そうだな」



 あの時はそんなこと思う暇もなかった。

 でも今は、こうして幸せを感じている。

 この時間がすごく心地いい。



「暁斗、落ち着いた?」

「え?」

「さっきまで緊張してたみたいだから」



 あ……そういえば、もう落ち着いてる。

 心音も正常だし、どちらかと言えば眠気まで来てる。



「言った通りでしょ? 私達、肉体的相性以外にも精神的相性も抜群だって。一緒にいて、すごく心地いいもの」

「……ああ。わかる」



 語彙力のないオタクみたいになってるけど、そうとしか言いようがない。


 好きな人と一緒にいると精神的に安定して、眠くなるって噂は聞いたことあるけど、本当なんだな。



「まだ……え、え、えちぃ、ことはダメだけど。それもゆっくり、ね?」

「……そう、だな」



 あぁ、もうダメ。眠い。今にも落ちる。



「ふふ。……おやすみ、暁斗」

「ああ……おやすみ、梨蘭……」



 …………。



「……愛してる……すやぁ」

「んなっ!?」



 すぴぃ……。

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