第148話

 席に着くと、梨蘭は既にお菓子に手を伸ばしていた。



「んっ、ん〜〜〜〜っ! おいしぃ〜!」

「お口に合ったみたいでよかったです。全部手作りなんですよ、これ」

「えっ!? クッキーもマカロンもティラミスも!?」

「はいっ。あとこちらのプリンも力作でして!」

「すごいっ、すごいわ委員長!」



 太陽のように満面の笑みで諏訪部さんの手を握る梨蘭。


 そういや梨蘭、甘いものとか大好物だったな。

 そんな梨蘭からしたら、お菓子を作れる諏訪部さんは神のような存在なんだろうな。


 俺も甘いものは好きだ。太るから、余り好んでは食べないけど。


 それでも諏訪部さんの作ってくれたお菓子は、市販のものと比べても美味いと思う。じゃんじゃん手が進む。



「ほっ、真田くんも気に入ってくれたみたいで、よかったです」

「ああ。まるでパティシエだな」

「えへへ。下手の横好きですが」



 それは謙遜がすぎるぞ。こんなに美味いのに。


 俺がお菓子を食べ、梨蘭と諏訪部さんがお菓子談議に花を咲かせている。


 もしかしたら、本当に俺らを招待したかっただけなのかも。辺に勘繰っちゃったな。



「いいなぁ。私もお菓子作りしたいけど、ものを置くスペースが無いのよね。そもそも、余り料理自体しないし」



 梨蘭がそんなことをボヤいた。

 そのボヤきを聞き逃さなかった諏訪部さん。待ってましたとばかりに、パンッと手を叩いた。



「それでしたら、お2人でお菓子作りもお料理も子作りもできる、新居へ引っ越したらよろしいのでは?」

「あーそうねぇ。それなら………………ん?」



 梨蘭の言葉が止まった。

 ついでに俺の手も止まった。


 えっと……なんて言った、今?

 お菓子作りもお料理も……あと、何? 子づく……え?


 ポカーンとする俺と梨蘭。

 だけど、諏訪部さんは興奮した様子で止まらない。



「お2人とも、ご結婚されるんですよね!? 結婚会社のモデルになっているのを拝見した時は驚きましたが、お2人なら納得です! そんなお2人に助けていただいたのです、どのようにしてお礼をしたらよいのか考えたのですが、やはり新婚ご夫婦には新居のプレゼントが1番かと思いまして! そこでなら一日中ラブラブできますし、子作りも──」


「「ちょっと待って!?!?!!?!」」



 諏訪部さんがまくし立ててきたおかげで(せいで?)、冷静になれた。

 えっと、色々と確認したいことがあるんだけど。



「結婚会社のモデルって……あの写真、見たのか?」

「はい! SNSで拡散されていましたよ。ほら!」



 諏訪部さんがSNSを開く。

 そこにはなんと、会社公式アカウントが例の写真をアップし、大々的に宣伝しているものだった。


 夏休み中に投稿されたのにも関わらず、120万最高、90万拡散という脅威の数字を叩きだし、リプライにはこんな書き込みが。



『何この幸せそうなカップル!』

『女の子可愛すぎる!』

『この男の人、かっこいいです!』

『結婚したくなった』

『尊い……!』

『無限に見てられる』

『こんなに相性の良さそうなカップルが存在するのか』

『浄化される』

『ああああああああぁぁぁ(語彙力)』

『この2人って「運命の赤い糸」で結ばれてるのかな』

『結ばれてるって考えた方が自然だよな』

『こんなにお似合いで結ばれてない方がおかしい!』

『おめでとう!』

『おめでとう!!』

『おめでとうございます!』

『祝』

『おめでとう!!!』

『この会社使わせてもらいます!』

『なんかご利益ありそう!』



 日本語以外にも英語、ロシア語、タイ語、フランス語、中国語、韓国語等々、海外からもリプライが無限に来ている。



「これを見て確信しました。お2人は『運命の赤い糸』で結ばれていると! この写真は、結婚の予行練習なのだと!」

「ま、待て。それは違うぞっ。これは梨蘭の頼みで、思い出にウェディング体験しただけで……! な、そうだよな?」



 梨蘭に同意を求める。

 が。



「…………」

「おいコラこっち見ろ」



 こいつ、予行練習の為に理由をでっち上げやがったのか。なんて奴だ。俺も楽しかったから許すけど。



「では、赤い糸で結ばれているのは事実ということですね!? 教室で仲悪いふりをしていたのは、そのカモフラージュだったのですね!?」



 す、鋭い。いやこれだけ状況証拠が揃ってたら、気付くのも当たり前か。



「はぁ……まあ、そんな感じだ」

「やはり! ふふふ、私の推理は当たっていました! これからは名探偵を名乗るのもいいかもしれません!」



 世の中の名探偵に謝れ。


 って、これだけ騒がれてたら、教室でイジられると思うんだが……夏休み明けてから数日、何も言われてないな。



「あぁ、それは私の方で色々と根回しをしまして」



 根回しで噂話すら聞かなくなるって、どんな根回しをしたんだ……。



「えーっと……まあそこはわかった。いや実際よくわかってないけど。それで、その新居ってのは……」

「文字通り、ご結婚されるお2人の愛の巣です!」

「愛の巣って言葉やめような」

「愛の巣……私と暁斗の、愛の巣……!?」

「梨蘭、愛の巣を連呼するな」



 梨蘭は楽しい妄想に浸ってるのか、頬どころか耳や首筋、デコルテまで真っ赤にした。



「だ、ダメよ暁斗っ。今ご飯作ってるのに……もう、だめっ、えっちなんだから……っ」



 まずい、まずいぞ。なんか梨蘭も超乗り気だ。

 あと本音がガッツリ漏れてるぞ。


 この場にいる正常な判断を下せるのは俺のみ。

 ここは俺がしっかりしないと……!

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