第132話

 次にやって来たのはたこ焼きの店。

 その隣にわたあめの店もあるし、まとめて買えるな。


 最初にたこ焼き屋。

 ノーマルのものから明太マヨ、ネギぽんなどなど。実に6種類の味がある。


 これが6個入りで400円なんだから、これもリーズナブルだ。



「乃亜、どれにする?」

「ノーマルがいいです!」

「はいよ。すみません、ノーマルのたこ焼き1つください」



 たこ焼き屋のおっちゃんに声を掛ける。

 と、渋い顔で無言で頷きパックに詰めてくれた。

 ここのたこ焼き屋のおっちゃん、いつも渋い顔で無言なんだよな。


 そのせいで怖い人って勘違いされてるけど、俺のような常連は知っている。


 人見知りで恥ずかしがり屋。

 しかも女性相手となるとそれが顕著になる。

 もうこの祭りでは、一種の名物おっちゃんとして有名だ。



「はいよ、乃亜」

「わあぁー! ありがとうございますっ」



 華やかな笑顔を、俺とおっちゃんに向ける。

 俺でもドキッとくる笑顔だ。おっちゃんは……。



「……………………ど、ど、ども……」



 顔を真っ赤にしてめっちゃどもってしまっている。

 まあ、いつも通りの反応だ。強く生きろよ、おっちゃん。


 たこ焼き屋から離れて、爪楊枝でたこ焼きの1つを突き刺す。

 若干ふにゃっとしていて、丸の原型を留めていない。

 重力に引かれて今にも落ちそうだ。



「これこれっ、屋台のたこ焼きと言ったらこれですよ……!」



 その気持ち、わかる。


 乃亜は嬉しそうな顔でたこ焼きを半分だけかじる。

 一瞬熱そうにしたが、うまそうに咀嚼し、飲み込んだ。



「んっっっまぁ……! やっぱりたこ焼きはサイコーですねぇ」

「乃亜、そんなにたこ焼き好きだったっけ?」

「はいっ。なんなら毎週タコパする勢いで好きです!」



 毎週タコパって、どんだけ好きなんだ……。


 と、今度はわたあめ屋に向かった。


 こっちはシンプルなわたあめだ。

 お姉さんにお金を渡し、わたあめ機でくるくると作っていく。

 くーるくる、くーるくる。

 そうして完成したわたあめ。でかい。俺の顔の倍はある。



「はい、お兄さんかっこいいから、ちょっとサービスね♪」

「ど、ども……」



 今度は俺がどもる番だった。

 なんか今日は調子狂う。


 みんなの待つ離れた場所に向かうと、梨蘭が目を輝かせて待っていた。



「わたあめっ、わたあめっ……! ありがと、暁斗……!」

「おう。ほれ」

「ほあぁ……!」



 あぁ、可愛いなぁ。癒される。

 梨蘭は「いただきますっ」と小さく言い、わたあめにかじりついた。



「あむあむ。んーっ、あまぁ……!」



 なんか、幼児退行してません?

 俺の目の錯覚かな。見た目年齢までちょっと下がった気がする。



「暁斗も食べる? はい」

「おー、ありが──」

「ちょっと待ってください!」



 わたあめを食べようとすると、乃亜からストップがかかった。



「わたあめはデザートです。なら、先にしょっぱいものから食べるべきです。センパイ、私のたこ焼きを先にどうぞっ。あーん、です」

「あ、ああ。じゃあ──」

「待ちなさい」



 今度は梨蘭が止めに入った。



「さっき暁斗はから揚げ食べたでしょ? なら、甘いとしょっぱいは交互に食べるべき。私のわたあめが先よ」

「は? 何言ってるんですか? 普通甘いものは最後ですよ。梨蘭先輩は大人しく、私がセンパイにあーんをしてるのを指をくわえて眺めてればいいんです」

「むぐぐぐぐぐっ……!」

「ぐむむむむむっ……!」



 あの、どっちでもいいんですが。



「暁斗!」

「センパイ!」

「「どっち!?」」



 美人が凄むと圧が強い……。


 差し出されたたこ焼きとわたあめを見る。

 うーん、これどっちを先に食ってもケンカになりそうだなぁ……仕方ない。


 ため息をつきつつ、片手でわたあめをちぎり。

 片手で爪楊枝に刺さったたこ焼きを受け取り。


 同時に食った、、、、、、



「暁斗!?」

「えっ、センパイ!?」

「お兄何してんの!?」



 みんな、驚いた顔で見てきた。

 まあそんな反応になるよな。


 もしゃもしゃ。もぐもぐ。ごくん。


 うーむ。



「まずい」

「「「でしょうね!?」」」



 総ツッコミを食らった。


 たこ焼きのとろとろ感に弾力のあるタコ。

 マヨネーズとたこ焼きソースの酸味の中に混ざる、わたあめの異物的甘さ。


 まずい。まずすぎる。驚異的なまずさだ。



「いいか、2人とも。仲良くしろとは言わない。でも、2人がいがみ合ってたら、俺は哀しい。わかるか?」

「ぅ……ご、ごめん、暁斗……」

「ごめんなさいです……」

「謝るのは俺じゃないでしょ。めっ」



 2人のデコを指で弾く。

 すると、怒られて反省したのかしゅんとしてしまった。



「……乃亜ちゃん、ごめんね」

「わ、私の方こそ……ごめんなさいです」



 まだ気まずさはあるものの、素直に謝る2人。

 全く、この子らは……。



「せっかくの祭りなんだ。今日はめいっぱい楽しもうぜ」



 3人の頭を撫でる。

 むず痒そうな顔をしたが、おずおずと頷いた。



「じゃ、今度は俺の食いたいものを食うぞ。この辺に美味い串焼きの屋台があるんだ」



 炭火焼きで香ばしく、程よく脂も落ちてタンパク質も取れる。

 ここに来たら必ず食べるものの1つだ。


 俺は3人を伴い、馴染みのある串焼きの屋台へと足を運んだのだった。

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