第105話
◆
「あー、びっくりした……」
「琴乃ちゃんって、本当に暁斗とは正反対の性格よね。どっちかって言うと、倉敷や寧夏に近いかしら」
確かに。俺はあんなことしないからな。
琴乃に叩き起され、俺と梨蘭は散歩も兼ねて駅前にやって来ていた。
太陽が肌をチリチリと焼く。
けど、俺はこの暑さが好きだ。
さすがに梨蘭は肌を焼きたくないからか、日傘を差して涼を取っていた。
「それにしても、暑いわねぇ。こんな日は自然に囲まれたい気分だわ」
「そ……うだな……」
白いワンピースに、白い日傘。
小さめのショルダーバッグを斜めがけにし、チェーンのストラップが胸を強調している。
例えるなら『〇/〇』こんな感じ。エロい。目に毒過ぎる。
白いワンピースは長袖だが透け感があり、全体的にふわっとしている。
見た目は完全にどこかの令嬢。
もし梨蘭がこの格好で大草原や河原にいたら、映えるだろうな……。
「ところで梨蘭。なんで俺のベッドに──」
「あー! な、なんだかタピオカ飲みたい気分ー! あっ、ああああ暁斗、奢ってあげるわよ!」
「え? お、おう」
まだ生き残ってるタピオカ屋に入り、タピオカを奢ってもらった。
タピオカ、流行った頃に琴乃に連れてこられたなぁ。
その時以来だけど、結構うまいな。もちもち。
「んーっ、うまぁ」
「うん、うまい。……で、話を戻すが」
「戻すんじゃないわよ! タピオカ奢ったんだからスルーしなさいよ! ふんっ」
口止め料にしては安すぎやしませんかね。
さっきのことは相当恥ずかしいことだったのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
まあ、あれは思い出すだけで俺の精神も削られるからな……あれは胸の奥にしまっておこう。
「じゃ、これからどうする? 駅前には来たけど、改めて何するって訳でもないし」
「そうねぇ……あ、映画とかどう?」
「映画か」
確かに、梨蘭と映画を見に行ったことはないな。
最近は映画館にも行ってないし……。
「いいぞ。何か見たいものとかあるか?」
「ないけど、とりあえず映画館に行きましょう。いいものがあれば見ればいいわ」
「だな」
ショッピングモールに入り、その中の映画館フロアに来た。
さすがに夏休みと言うだけあり、中高生や親子連れが多いな。
でも。
「やっぱり、カップルは少ないわね」
梨蘭も同じことを思ったのか、ぼそっと呟いた。
「仕方ないさ。『運命の赤い糸』が見えてからは、カップルって概念が少し変わったって言われてるし」
昔は好きな相手に告白して、付き合って、別れて……これを繰り返していたらしいけど。
今の場合、赤い糸で結ばれている本人同士での結婚が主流だ。
その為、中高大学生のカップルらしいカップルは、目に見えて減少したんだとか。
まあ、赤い糸で運命の人を知ってるのに、わざわざ別の人と付き合うほど無意味なことはないしな。
と言っても、少ないだけでよく探せば数組のカップルはいる。
誰もこれも、幸せそうなカップルだ。
だけど、カップルと言うのが物珍しいからか、かなり注目を浴びていた。
「まるで見世物だな」
「私達もその一組だけどね」
「そうでした」
よく見ると、他のカップル以上に俺達の方が注目を集めていた。
それもそうか。梨蘭とか、普通に街を歩いてても注目を集めるほどの、超が10個くらい付く美少女だ。
そんな美少女がカップルだなんて、注目を集めるに決まってる。
「言っておくけど、アンタもだからね」
「え?」
「女の子、結構アンタのこと見てるから」
ははは、そんな馬鹿な。
大方、美少女と一緒に歩いてる男がどんな奴なのか見てるだけだろ。
「……誰にも渡さないんだから……」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くぞ」
「あっ、待ってー」
チケット販売機の前に移動し、今上映してる映画一覧を見る。
うーん……特に見たいものはないかなぁ。
アニメも子供向けのだし、最近話題になってる映画もない。
「梨蘭、どうする?」
「そうね……あっ。この洋画とかどうかしら?」
「ん? 『The Lover』か……恋愛ものかな」
「多分。R15指定されてるし」
ふーん……これ字幕版しかないのか。
……いいか。たまにはそういうのも。
「……あっ、もう5分で始まるぞっ。早く行こう!」
「ええ」
チケットとジュースとポップコーンを買い、館内に入る。
どうやら俺と梨蘭以外だと、女子大生のグループと一組のカップルしかいない。ほとんど貸切だ。
急いで席に座る。その直後、映画前のコマーシャルが終わり、映画が始まった。
そして──。
『〜〜〜〜♡♡ ──♡』
『……♡』
「「ッッッ!?!?」」
い、いきなりっ、濡れ場……!?
しかもかなり……いや、結構がっつりとした……!
チラッと梨蘭を見る。
と、手で目を隠しているが、指の隙間から見ていた。
暗い館内でも分かるくらい顔を真っ赤にし、口元をあわあわさせている。
そこから3時間のラブストーリーのうち、かなり高頻度で濡れ場を見せられ……終わったあと、俺と梨蘭の間にはなんとも言えない空気が漂った。
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