鯨と少女
古狸杢兵衛
鯨と少女
「馬が魚でないのと同様に、鯨も魚ではない。
A whale is no more a
fish than a horse Is」
先生が英語の例文を読み上げます。
「A whale is no more a fish than a horse Is」
生徒たちが繰り返します。
「これは大事な表現なので、覚えておきましょう」
と先生が言いました。みんなはテキストの例文に線を引きました。
「こんな例文、いつどこで使うって言うのよ」
となりの席の友達がこそっと言ったので、少女もそうだね、と小声で答えました。
学校の帰り道、海沿いの道を歩いていた少女は、一頭の鯨に出会いました。鯨は何やら悩んでいるように見えました
「鯨さん、どうしたの?」
少女が尋ねました。すると、鯨の背中にとまっていたカモメが答えました。
「コイツは自分が魚なのか哺乳類なのか分からなくて悩んでいるのさ」
そう言うとカモメは小馬鹿にした様に笑いました。
「笑うなんてひどいわ。鯨さんの身にもなってあげなさいよ」
と少女は言いました。
実際鯨は、サメやシャチに相談しても相手にされず、ずっとひとりで悩んでいたのでした。
その時少女はある事を思いつき、カバンから急いで英語のテキストを取り出しました。そして、きょう習った例文を大きな声で読み上げました。
「A whale is no more a fish than a horse Is.馬が魚でないのと同様に、鯨も魚でない。A whale is no more a fish than a horse Is!」
鯨は目をパチクリさせました。そして何度も肯きました。そう、馬が魚でないのと同様に、鯨も魚でない!
鯨が興奮して潮を吹いたので、カモメはあわてて逃げました。
ありがとう、と言う様に少女を見つめると鯨はザブンと海に潜り、ずっと沖へと泳いで行きました。
鯨と少女 古狸杢兵衛 @1735
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