SATSU-BATSU YURI -2nd Season-
黒岡衛星
2021/03/21 BGM
運が悪かった。
一言でまとめるとそういうことになる。
近所のヤクザの事務所が壊滅した。いや、正確にはさせた。
わたしが。
みなごろし、だ。
ひとりを除いて、全部ころした。
中には何にも悪くないやつだっていただろう。ヤクザ者だから、と切って捨てるのは、まあ実際は切って捨てたんだけど置いといて、人間生きてんだから良いも悪いもないよなっていう。
だから、要は、わたしをキレさせたのが悪いと、そういうことなのだ。
昔ながらのレコード屋を預かっている。
友人は海外での買い付けに忙しく、ジッとしていられないというような人であり、じゃあレコード屋なんてやるなよと思わなくもないのだが、まああるのだろう、色々。
そんなわけで鍵を預かることになったのだが、わたしの方としても荒事に疲れていたこともあり、田舎のレコード屋で店番をする日々というのもなかなかに悪くなかった。
わりと気に入っていた。
酔っ払った近くのヤクザが悪い絡み方をしてきた。ひとしきり暴れた後にチャカで飾ってあったレコードを撃ち抜いた。
それはわたしと店主にとって思い出の品で、それが見えるところに飾ってあったからこの店番を引き受けた。というのもいくらかある、というぐらいには友情の証でもあった。
そのヤクザがどうなったか、というのは想像に任せるとして、とにかくわたしはキレた。それはもうキレた。
事務所まで乗り込んで片付け以外のすべてが終わったとき、もうひとりの自分がその凄惨な光景に『この世の終わり』だとつぶやいていた。
そういう、常識的な理性を司るもうひとりの自分はスタバにドリンクを飲みに行って黙らせた。文字通りの甘い汁だ。
一度落ち着いて、今後について考える。
といっても、このままレコード屋の店番を続けるだけなのだが。
たとえば蚊取り線香のように、厄介な客だけ来なくなるお香とかないもんかなあ、って思う。これがゲームとかだったらありそうだけど、現実で怪しい香りがしていたらむしろ変な客しか来なくなりそうだ。
頼んだドリンクはあまりにも甘く、仕方が無いので飲み終えてからもう一度、今度はコーヒーを頼んでテイクアウトする。
飲みながら帰る。
「寛いでんじゃねーわよ」
ひとけの無い通りで現れたのは、拳銃をかまえた女子高生。
事務所で唯一放置しておいた子だ。
「これ、いる」
「バカにしてんの」
ぱん。
差し出したスタバのカップはみごとに撃ち抜かれる。
ぺしゃ、と広がるコーヒーが泥水のようにわたしを汚す。
復讐は何も生まない、とよく言われる。
そうだろうか。
復讐が生むもの、それは新しい復讐だ。
復讐を決する者が居れば、復讐される相手にも次の復讐者候補が居る、というわけだ。
「殺してやる」
「うん、見ればわかる」
素直に殺されてやる義理もないけど。
ていうか、センスないな。
ちょっと後悔。
気まぐれで生かしておいたけど、どうしよっか。
なんかちょっと泣いてるし。
ああでも、泣き顔はかわいいな。適当に楽しんで売るか。
まるで盗賊か何かみたいな己れの思考に苦笑する。まあでも、拳銃まで向けられたら何してもいいよな、とも思う。
「何がおかしいの」
「いや、どうしようかなと思って」
「あんたはどうしようもないわよ。ここで死ぬんだから」
「そうだなあ」
どれだけこちらに向ける敵意が膨れようと手元が動かない。
素質はあるんだよなあ。
「とりあえず、クリーニングとコーヒー代くらいは出してもらおっかな」
第三者が見れば器用に、と表現するだろう。いや、まず捉えられないかもしれない。手刀で向こうが構えている拳銃だけをはたき落とす。
「つっ」
手首のしびれに顔をしかめる。崩れた顔もかわいい、ってのは得だな。
「財布だしな」
わざとチンピラぶる自分がおかしい。
目の前の女子高生は観念したのか、スカートのポケットに手を入れる。
「おかしな真似はすんなよ」
「わかってるわよ」
で、まあ、こういう時に飛び出してくるのはお約束のナイフ。
遅いんだ。
さっきと同じようにはたき落とすと、転がってる拳銃で両脚を撃ち抜く。
ぱん、ぱん。
乾いたいい音がする。
「学校でビーチフラッグでもやって鍛えとくんだったね」
この痛みで悲鳴を上げないのはちょっとすごいかもしれない。何か特殊な訓練でも受けてるのだろうか。
「じゃ、これからあなたはわたしの所有物ということで」
何か言いたそうな顔をしているので、きちんと説明してやる。
「たとえば棒に手足を縛られて丸焼きにされても文句言えないんだよ。拳銃を人に向けるってそういうこと」
女子高生の口の中に指を突っ込む。別に吐かせたいわけではなく、舌を噛ませないためだ。
「ほら、あーん」
目線が痛い。思わず笑顔になる。
「よし、じゃあ帰るよ」
ふと目線を上にやる。
梅の花が散りそうだ。
歩けなくなった女子高生を抱え、わたしは帰り路を歩き始めた。
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