灰と透明な花束

渋谷青

第1話 母と山羊


 目の前には燃え盛る炎。ひそひそと囁く人々。

 そして十字架に張り付けられている愛する家族。

 何処で、何処で何を間違えた?

 何故こんなことになったのか、考えても理由が見つからない。


「リ、リー......逃げ...なさい、早く遠くに」


 母は頭から血を流し掌には十字架に固定するための釘が撃ち込まれていながらも私の心配をしている。私は声が出なかった。ただ目の前の光景が現実だと受け入れるのに精一杯だった。


「大丈夫...よ......あ、なたは運動神経が良いもの...お父さんに似たのかしら、さぁ、走りなさい」


 母はぶつぶつと何か唱えると私の足は勝手に動き走り出した。

 母の貼り付けを傍観する人混みとは逆の方へ足は勝手に進んだ。

 私が走り出す直前、母は何か私に伝えようとしていたが飛び交う声にかき消され聞き取ることができなかった。


「_________」


 私はただがむしゃらに走り続けた。振り返らず、深い森に突き進み、涙が出なくなるまで走り続けた。体力は当に尽きていて気力だけで立っていた体はついに倒れた。

 ここがどこなのかもわからない、深い深い森の奥。勿論、獣だっているのだろう。

 霞んでいく視界には遠くからこちらを見つめる山羊がいた。私は思わず笑ってしまった。死に際に見るものが山羊なら、それはきっと私にお似合いだ。

 今はどうかこのまま眠らせてほしいと、瞼を閉じた。

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