リザレクション

猫町大五

第0話

 ――ドライゼ。君が居なくなってから、もう五年になる。元気にしているだろうか。そうであることを切に願っている。

 本当なら此処で切っても良いのだろうが、それがどうしても出来ない事態に陥ってしまった。他でも無い君に、どうしても頼みたいことがある。


 ・・・アリス・ローランの事を覚えているかい?


 そうだ。君の事だ、忘れる訳は無いだろう。かつて私の家に居た、あのメイドのことだ。

 そして、もう一つ思い出して欲しい。その娘の事だ。名をクロエと言うのだが、その子が今、誘拐されるという憂き目に遭っている。


 アリスが不慮の事故で亡くなってから、彼女はこの私が面倒を見てきた。そこに慢心が生まれたのだろうな。この私、リコリス・クラインの周りにあって、その様な事は起こり得ないと。

 だが現に、事件は起こってしまった。全ての責任は私にある。普通なら私が直接出向き交渉なり殲滅なりする所だが、間の悪い事にしょうもない野暮用のせいで、すぐに動くことが出来ない。


 ・・・君の事情も、私は良く理解している。当然だ、こうなったのは私のせいなのだから。そして君にこの様な事を頼む事は最大限の無礼であり、君の事を傷つけ踏みにじることだと重々承知はしている。だがしかし、今の私に採れる手段はこれしかない。

 責めてくれて構わない。だがもし、君の助力を得られるのであれば、それは大いなる力となる。


 封筒内に、ツェントラール行きの切符を用意した。願わくは――

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