停滞の定め
「くそ、くそッ……!」
肩と腹に包帯を巻いた男が、悪態をついている。天幕をかきわけ、全身鎧に身を包んだ大男が入ってくる。狭いテントに満月のあかりが差す。
「ハイヌルフ……いいや、トビアス。
お前に手柄をやろうとした私が甘かったようだ。詫びよう」
「ふざっ、ふざけるな! ち、ちくしょう、くそっ……。
おれ、おれは、認めてもらうんだ。姫に再び、親衛隊として!」
悔しさに涙をいっぱいためて、トビアスと呼ばれた男はぼやいていた。三十になろうかという男がめそめそと泣く姿は、あまりにも不釣りあいだった。
黄銅の騎士はトビアスから目をそらし、テントの外に目をやった。トビアスは憐れまれているように感じ、それがなおのこと腹立たしかった。
「そうまでして、我らが王の寵愛がほしいというのか」
「当然だ! ――なんで、なんでなんだよ。マルガレーテぇ……。あんなに愛してくれたじゃないか……」
黄銅の騎士はやにわに歩み寄るや、魔剣をその足元に突き刺した。
ひっ、とトビアスは凍りつく。
「ならば、無茶をするな。
戦死でもしようものならその魂、永遠の責苦に落とされようぞ」
トビアスはぱくぱくと文句を言おうとして、ふと理解に至った。彼も、愚直ではあっても愚かではない。自分が厄介者あつかいされていることは理解している。
だから、迂遠にも真実を口にしなかったのは、“伏竜将”を率いる者としての気遣いに他ならない。黄銅の騎士は自分を、仲間として扱ってくれている。
「……わかったよ、ボス。バカなおれにもできる仕事をくれ。必ずおれたちの王の望みを叶える」
黄銅の騎士は、トビアスに手を差しのべた。
「無論だ。期待しているとも」
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