大いなる時
色褪せた景色。視界の端が焼けてゆく。
そう、燃えている。私の――私達の森が。
思い出す。この頃、私達はほんの数人だ。たった三人で森を――大地と竜国を、見守っている。私は私達の最後のひとりで、そのひとりも
けれど、特筆すべき出来事だとは思わない。その運命は、私達の意識が生まれる時から定まっているものだから。
しかし、運命とはままならぬもの。
豪炎のなかから、ひとりの男が飛び出す。
彼は私の体を担ぎあげると、その冥獄の火炎をものともせず走りだす。
彼の名は、グラニッツ。
そうだ。まだ岩より生まれし者どももふたりしかいない。そのつがいの片割れ。荒岩の面構えながら、己から飛びだす感情に素直な、まさに苔むした岩のような男だ。
景色が色を取り戻す。
月のない夜。火災の火が、小川のあぶくのような空の雲を照らしだす。
彼は私が見つめていると、にっこりと笑う。
「よかったな」
そうか、と私は悟る。
私達が根を張るべきは、森ではないのだ――
私達、たった三人が永劫を生きるべきではないのだ、と。
その日、分岐した運命が私に告げる。
「私達は、あなたにこの身を捧げましょう。私の永劫を引き裂いて、新たな私達を芽吹かせましょう。あの森の草の数に、土粒の数をかけただけ芽吹かせましょう。そしてどうか、すべての新芽を、あなたの肩の上に根づかせてください」
「――なぜだ。それだけのことでもなかろう」
「私達は“大いなる時”に命じられています。森と竜をみつめ、過ちをただせと」
「なんと――! ではひとふりの枝とは、汝のことか!
……もう、あきらめかけておった。そうか。そうか、ああ――」
彼は私を抱きしめる。その肌にこすられると、私が傷つくのも構わずに。
知っている出来事なのに、ふと胸が温かくなる。
「いいだろう。汝にそれだけの覚悟があるというのなら、我もその意志にこたえなければなるまい。我らも今はたったふたつの岩に過ぎんが、今に十に、二十に、百に増やそう。その上に五百を五百回をかけた汝らを養おう」
かくして、私達の運命はともにある。
ようやくわたしは理解する。理解がわたしを覚醒させる。
わたしの幼年期はおわり、私は私達となる。
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