英雄の影
暗いテントのなか。天幕の切れ目から光が差す。
差した陽光は砂ぼこりにのって姿を現し、刃となる。
その光を受け、かの鎧は黄金色に輝いていた。大の大人ですら見上げるような巨躯を折り曲げ、黄銅の騎士は座していた。その手には巨大な剣が鞘におさまり、両手で支えられて垂直に突きたてられている。中身ががらんどうだと言われても信じかねないほど、彼は身動きひとつしなかった。
「へーいへいへい、ここにいなすったか。黄銅の」
天幕を押しのけて男が顔を覗かせ、その姿を認めるや軽い口調で話しかける。彼は肩ほどの髪を後ろでまとめ、前髪で右目を隠している。ごく薄い皮の鎧しか装備しておらず、見せびらかすようにいくつものナイフがベルトに収まっている。
「調整は間にあいそうか」
鎧のなかで何度も反射した声が、残響して消える。
「何とかな。とはいえ秘術師長もカツカツだ。あんまり酷使すると、敵方みたいに背中から刺されるぜ」
鎧の男は首を振る。
「無理を通そうとしているのは我々なのだ。陛下もそれをわかった上での命令だ」
「そうかい。ま、おれの知ったことじゃねえか。それで、おれの次の仕事は?」
「ない」
人間の男は、怪訝そうにその兜をにらんだ。
「じっとしていろ、ハイヌルフ。貴殿は
此度、伏竜将として与える仕事は、学びだ。必ずや貴殿の血となり肉となる」
ハイヌルフと呼ばれた男は、不愉快極まりない様子で舌打ちする。
「マルガレーテより話が分かると思ったんだがな、おまえは」
「宝石箱にしまいこむことに反対しているだけだ。功を
「おれはおまえとは違う」
ハイヌルフは、右目をあらわにした。
その側頭部には、七つ角の星が蒼く輝いていた。
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