赤いリンゴは食べるな!!!!

兎人

第1話 特殊麻薬取締官!

「今日から君はここに行ってください」

そう言われ手渡された異動の書類。そこには聞いたことの無い部署の名前が記されていた。


「.....特殊麻薬捜査部?」

突然の事態に困惑しつつも、二条にじょうは異動させられる訳を冷静に分析してみた。思い当たる節が一つあった。



あれは確か先週の土曜日。雨の日の朝だ。


二条は厚生労働省の下にある麻薬取締部、通称「マトリ」の取締官として働き始めたばかりだ。その時はまだ新入社員で、初々しさの残る好青年といった印象だった。

そしてもう一人、二条と同い年で、同時期にマトリに配属された青年、比留川ひるかわがいた。比留川とはよく飲みに行ったりする仲で、互いに相棒と呼び合うような関係だった。


マトリで働き始めて一年ほど経った頃だった。比留川が突然、別人のようになってしまった。どこか集中力が欠けていて、会議中は話を聞いていなかったり、対人訓練の時もすぐに息切れを起こし、練習から抜け出したりと散々だ。

そのうち、比留川が薬物を使用しているという噂まで出始めた。


当然ながら二条はその噂は信じていなかった。今思えばただ信じたくなかったのかもしれない。


そんなある日、マトリは比留川のマークを始めるという話を耳にした。

二条はどうすればいいのか分からなかった。

出勤すれば比留川が危ない。そう思った二条は、大雨の中、比留川の自宅まで車を飛ばした。


比留川の自宅マンションの下に到着し、傘も差さずに車を降りる。比留川の部屋のある五階まで階段を駆け上がる。そして彼の部屋の前に立ち、ふぅっと息を吐いてからチャイムを押した。

応答はない。


何度も押した。


応答はない。


ドアノブを回してみる。鍵は空いていた。


「おい、入るぞ」

そう言って二条は部屋に入った。人の気配はない。

ベランダの窓が開いていることに気づいた。

まさかと思った。

急いでベランダに出る。


隣のマンションとの間にある隙間を覗く。


すると、下には血だらけの比留川がいた。


「比留川!」


その後の記憶はほとんど無い。




比留川は死んでいた。彼の体からは薬物反応が出たらしい。噂は本当だった。


―――なんであいつが.....薬なんか............




それ以降彼は薬物がより一層嫌いになった。




そんなことを思いだしながら、新たな所属先である[特殊麻薬取締部]に到着した。厚労省の部署の中では群を抜いてボロボロな部屋にその部署はあった。


天井には所々穴が空いていて、配線がむき出しになっている。部屋の割には綺麗なデスクが6つあり、奥には薬品関係のものが大量に置かれている。


ただ.....


「なんで誰もいないんだ」

二条はぼそりと呟く。そして近くの机をおもいっきり叩いた。しかし、ここ最近起こった出来事に対するストレスが、この一発で発散される事はなかった。


「あ!物は大切に扱ってよ!」

二条の背後から突如声がした。振り返ると、二条より年上と思われるショートヘアーの女性が後ろに立っていた。背も高く、モデルをやっていてもおかしくないほどのスタイルの良さ。一見すると男性に見えるほどクールな印象だが、声の感じから女性だと分かった。そして手には吸いかけのたばこを持っていた。


「失礼致しました。本日からお世話になります二条です」

二条は抑揚の無い声で挨拶をした。挨拶なんかしたい気分ではないというのに。


「あぁ、こんにちは。ようこそ特殊麻薬取締部へ」

その女性は、女性の割には低い声で、話し始めた。


「あんた、大変だったみたいだな」

女性は二条の方に近づき、すぐそばの机に寄り掛かる。


「あの、それよりt...」

「あぁ、机の事?気にしないで。そこあなたの席だから」

女性はポケットからスマートフォンを取り出しながら答える。

「はぁ.....」

「はいこれ」

女性はスマートフォンの画面を二条に見せた。どうやらメールの画面だ。

そのメールの相手からは長文が送られていた。二条は急いで目を通す。どうやらこの特殊麻薬取締部に対する案件らしい。


「早速だけど、これ行ってきて」

女性は再びスマートフォンの画面を見始める。すると、二条のスマホにメールが届いた。どこかの住所だ。


「あの.....この場所は?」

二条はまだ何がなんだかわからない状態だったが、行くしかなさそうだなと察した。


「ここの部の管轄の事件。そこにお仲間もいると思うから、仲良くしろよ。それじゃ」

そう言うとその女性はどこかに行ってしまった。


「あ、ちょっと!」

追いかけてみたが、探してもその女性の姿はなかった。

一体あの女性は何者なのだろうか。


状況は依然として分からないが、とりあえずこの住所に行くしかないようだ。


「一体この部署は.....」

二条はぐちゃぐちゃになってる頭を抱えながらボロボロの建物を後にした。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



その住所までは電車を使って30分程で到着した。都内某所にある雑居ビルの最上階、10階がその現場らしい。

1階の入口には警察が何人か立っていた。二条は自分が''特殊麻薬取締官''と名乗って、相手に通じるのか不安に思ったが、

「そうですか」と、意外と問題なく通してくれた。

エレベーターを使って10階に到着すると、奥の部屋に警察官らしき人間が何人か立っていたので、そこに向かった。

すると


「なんだとこら!!てめぇの管轄じゃねえって言ってんだろこのハゲ野郎!」


「誰がハゲだって?あぁあ!?てめぇらみたいなよくわかんねえガキどもが警察の邪魔してんじゃねえよ!」


なんらかの事務所らしき部屋。

そのど真ん中で自分と同い年くらいのボサボサ頭の青年が、ハゲ頭のおじさんとものすごい剣幕で罵り合っていた。周りに人間が5、6人いたが、2人からは距離を置いていて、誰も止めに入ろうとはしていないようだ。

誰も止めないなら自分が止めようと考えた二条は、刑事たちの間をすり抜けて、止めに入ろうとしたその時、


「おしまーい!」

二条の後ろからどこかで聞いたことのある声がした。

振り替えると、さっき二条にここへ行くように指示した女性が立っていた。片方の手にはたばこを一本持っている。周りを見てみると、例の2人は大人しくなっていた。


うつぼ.....」

「部長!」


はげたおじさんはこの女性のことを睨み付け、青年の方は尊敬の眼差しで彼女のことを見つめていた。


そして二条は、この部屋の中央にあったとてつもなく気色の悪い物を見つける。


頭部が無い体が、床に転がっていたのだ。



















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