50 また一緒に

 ノルウェーのオスロでは、観光バスに乗って、フログネル公園やホルメンコーレンジャンプ競技場を観た。

 道が石畳なので、ヴァイキング博物館へ行くまでに車酔いしてしまった。

 ヴァイキング博物館で慌ててお手洗いへ駆け込む。お手洗いの外で、とても心配そうに征士くんが待っていた。


「大丈夫ですか?」

「うん……。何とか。酔い止めを飲めば、大丈夫だと思う……」

「少し顔色が悪いですね。ここでは休んでいきましょう」


 折角のヴァイキング博物館なのに、大きな船が見られなかった。その代わり元気を取り戻して、国立美術館へは酔わずに行けた。


「ここの美術館すごいですね。有名な作品がたくさんあるのに、警備が甘い感じです」

「それだけ治安がいいってことね」


 美術館の後では待望のノルウェー料理だ。前菜のサラダの上に、大量のエビが乗せられている。


「……月乃さんが言った通り、こんなに美味しいエビ、初めて食べました。量が多いのは、さすが外国ですね」

「そうでしょう、美味しいでしょう。だけど私はこんなに食べ切れないわ。エビのサラダとノルウェーサーモンだけにする……」


 征士くんは男の子なだけあって、大量の料理を全て食べていた。

 オスロからは、またバスに乗って山岳地まで行く。山岳地のホテルへ泊まって、明日はフィヨルド観光だ。

 途中休憩で、甘いアイスクリームを食べる。外国産だけあってとても甘い。一人で食べ切れずに征士くんと食べていると、老夫婦が写真を撮ってくれた。


「二人で仲良く食べている姿が微笑ましくて、つい撮ってしまったよ」

「あ、ありがとう、ございます……」


 バカップル姿を撮られてしまった。とても恥ずかしいけれど、征士くんは嬉しそうにデジカメを覗き込んでいた。征士くんが嬉しいならば、私もいいとしよう。

 ホテルへ泊まって、また一緒のベッドで眠る。新婚旅行っぽい。


 翌日はフィヨルド観光。日本と比べて寒い。気温を訊いたら九度だった。

 船が出発するとますます寒い。甲板では凍えそうだ。しかし野生のあざらしが見られるというので、中へ入る訳にはいかない。征士くんは自分のコートの中へ、私を包み込んでくれた。


「ほら、あざらしがいますよ」

「え、どこ? あ、本当にいる。夫婦かしら。可愛いわね」


 征士くんと一緒に笑い合う。また、老夫婦が写真を撮ってくれた。

 フィヨルドを抜けてベルゲンへ向かい、そこからスウェーデンの首都、ストックホルムへ飛行機で行く。ストックホルムでのホテルは、何故かものすごくピンク色で統一されていた。


「何で、こんなにピンクなの……?」

「新婚旅行らしくて、いいじゃないですか」

「でも普通のホテルのはずなのに」


 また一緒のベッドで眠る。ピンク色をどうしても意識してしまった。

 ストックホルムは北欧最大の都市。水の都といわれ、更には北欧のヴェネツィアとも評される美しい都市だ。生憎の曇り空で綺麗に川が見えない。

 いくら治安がいいとされる北欧の中でも、最大の都市だけあって、他より犯罪は多いそうだ。旧市街へ行ったときは、痛い程征士くんに手を握られた。

 大聖堂を観た後に、王様が働いているというお城を観た。添乗員さんが説明してくれる。


「ここには毎日、王様が働きに通って来ています」


 征士くんと顔を見合わせる。


「王様も通って働くなんて、会社員みたいですね」

「そうね。通勤の王様ね」


 その後、市庁舎でノーベル賞授賞式の間を観た後、自由行動になった。

 自由行動では征士くんと手を繋いで、ドラマ劇場を観たり、デパートに入ってみたりした。時間が来たので、また集まって飛行機に乗る。最後の目的地、フィンランドの首都、ヘルシンキへ向かった。


 ヘルシンキでのホテルは、スタイリッシュな北欧建築だった。フィンランド発祥のサウナもついているらしい。綺麗な薄青のストライプのベッドで、征士くんと眠る。一緒に眠るのが当然になってしまった。

 ヘルシンキでシベリウス公園を見学した後、寺院や教会を回る。自由行動のときにお土産のスナフキン人形を抱えたまま、私は叫んだ。


「洋食もいいけど、ごはんが食べたい! お味噌汁! 醤油ラーメン!」

「はいはい。日本食が恋しくなったんですね。少し歩いたところに日本料理のお店があるみたいですから、行きましょう」


 地図を見ながら、日本料理店へ行った。私は、かつ丼を頼み、征士くんはお寿司を注文した。


「かつ丼、美味しいー! でも、風景に合わない食べ物ね」

「そうですね、由緒あるヘルシンキの街並みですからね。でも美味しいですね」


 征士くんは上品にお寿司を食べながら言った。

 お土産も色々買い込み、帰路につく。デンマークで買ったマグカップのセットは、北欧デザインで可愛かった。玲子ちゃんと石田さんにあげよう。


「もう帰りなんて、寂しいですね」

「そうね。また来て今度は、ムーミン谷やオーロラやサンタの村が観たいわ」

「それもありますけど。月乃さん働いているから、長期の休暇なんて、なかなか取れないじゃないですか。また月乃さんと、二人で旅行したいです」


 私は微笑んだ。


「これからは一緒に暮らすんじゃない。いくらだって二人でいられるわ」

「……そうですね。でも、月乃さんと新婚旅行へ行けて良かったです。ずっと一緒にいて、また旅行しましょうね」

「旅行、いいわね。今度はカナダへ行って、赤毛のアンの縁の場所が観たいわ」


 飛行機の肘掛けの上で、征士くんは私の手にそっと触れた。


「いつかきっと、カナダへ一緒に行きましょうね」

「うん。征士くんは行きたい場所ないの?」

「月乃さんと一緒ならば、どこへだって行きます」


 その答えに、私は征士くんの手をぎゅっと握った。

 そうして新婚旅行は終わった。

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