47 結婚式と披露宴
私は大学を無事卒業した。
卒業の随分前に、皆に結婚式や披露宴、二次会の招待状を出していた。皆はほとんど出席してくれるらしい。
♦ ♦ ♦
四月二日、征士くんの十八歳の誕生日になった。朝早く征士くんと役所へ行って婚姻届を提出した。おめでとうございますと言われ、お祝いにお花をもらった。
それから急いで式場へ向かう。征士くんは着替えて軽く髪をセットするくらいだが、私は違う。ブライダルインナーでボディラインを整え、上半身から腰にかけてぴったりとしたウェディングドレスを着せてもらう。スカート部分はふわっとしたドレスだ。
別人になった気分のメイクをしてもらい、髪はアップにして、頭にティアラとヴェールを被る。前髪は下ろして、少しでも若く見えるようにする。ネックレスやイヤリングや手袋をして、ひとまず完成だ。
控室に征士くんが入ってきた。真っ白なタキシード姿だ。
「……綺麗すぎます、月乃さん。こんなに胸元が開いたドレスなんて……、誰にも見せたくありません。僕が攫ってしまいましょう」
「大袈裟ね。征士くんの方が格好良いわよ」
前髪を上げてセットした征士くんは、大人っぽくて格好良い。私達は家族達が控えている部屋へ行った。
「綺麗になったな、月乃」
「本当に綺麗よ、月乃さん」
父と征士くんのお母様に褒められた。聖士さんは悪戯っぽく言った。
「式の最中に花嫁を連れて逃げるって話、時々聞くよな」
「そんなことをしたら、兄弟の縁をぶった切るよ。兄さん」
やがて、チャペル脇の小部屋へ連れられて、結婚式の順序を係りの人に教わる。征士くんは先に祭壇へ行った。私は父と腕を組み、ヴァージンロードを歩いた。
征士くんに迎えてもらい、裾を踏まないよう気遣ってもらいながら祭壇の前まで来た。
賛美歌を歌って神父さんの話を聞く。神父さんに「永遠に愛し続けますか?」と問われ、征士くんは大きな声で返事をした。私は小声で「はい」と答えた。
手袋をはずして、結婚指輪の交換を行う。征士くんが囁いてきた。
「次の誓いのキスでは、皆がよく写真を撮れるように、長めにしましょうね」
下ろしていたヴェールを上げて、征士くんは綺麗な顔を近寄せて、本当に長く口付けてきた。皆がたくさん写真を撮っているのがわかった。
神父さんに結婚成立を宣言され、結婚証明書へ署名した。
征士くんとヴァージンロードを腕を組んで戻る。皆が席から紫の花を投げてきた。
チャペルから出ると、外は快晴だ。皆で代わる代わる写真を撮る。
私はブーケトスで、皆から後ろを向いて、紫色のブーケを投げた。振り返って見てみると、ブーケは弥生さんの手に収まっていた。
「嬉しい。次の花嫁は私ね」
「弥生さん、私が欲しかったです。早く石田玲子になりたいですもん」
披露宴には職場の皆も呼んでいた。店長と宮西さんも来てくれた。店長には後で祝辞をいただく予定だ。他にも、お世話になった大学教授や、お手伝いさんの豊永さん、弁護士の椎名さんも招待していた。
私達が入場する前、既に皆は披露宴の席についていた。入場すると、満場の拍手で迎え入れられた。
仲人さんは立てていないので、司会者さんが私達の略歴や馴れ初めを話す。馴れ初めといっても、そもそもの切っかけの予知夢のことは話せないので、父親関係のお見合いということにしていた。
「本当は、大恋愛の末の結婚なのにね」
「二人とも、お見合いにしては甘々だよ」
会場の至るところから、そんな台詞が聞こえてきた。
祝辞は私は店長に頼んでいたけれど、征士くんは私の父に頼んでいた。父は花嫁の父親にもかかわらず、虹川グループ会長として、長々と祝辞を述べていた。
乾杯して、征士くんとケーキ入刀をした。ケーキは私の手作りだ。皆が写真を撮りに来て、ケーキを食べさせ合う私達をデジカメなどで撮りまくった。一生分、写真を撮られた気分だ。
お色直しに別室へ下がる。薄紅色のショール付きのドレスに着替えた。
征士くんは光るグレーのタキシードだ。美形さんなので輝いて見える。
「薄紅色のドレスですか。色白なので、とてもお似合いです」
「ありがとう。──征士くんの方が綺麗だわ」
再び入場すると、皆は歓談を中止してこちらを見た。これから征士くんとキャンドルサービスだ。
炎を持ってテーブルを回る。友達が話しかけてきた。
「私達、お色直しのドレスの色、賭けていたよ」
「圧倒的に紫色が人気だったね。月乃の好きな、美苑カラーだもんね」
スピーチは玲子ちゃんと深見くんがしてくれた。紆余曲折あったけれど、お互い幸せそうで良かったと話してくれた。
歓談中には、椎名さんは即席法律相談、豊永さんはハウスキーピング講座を開いていた。宮西さんはお酒を飲みすぎたらしく真っ赤になっている。
歓談後、征士くんが皆に挨拶をした。
「本日はお忙しい中を、私達二人の為にお集まりいただきましてありがとうございました。我々は未熟ではございますが、二人で助け合って虹川グループを守っていきたいと思っています。どうか末永くお引き立ての程をよろしくお願い申し上げます。 本日は誠にありがとうございました」
それからそれぞれ両親へ、花束を渡した。
「征士くん。家庭でも月乃を守ってくれ」
「それが最優先事項です。必ず、幸せな家庭を築きます」
その言葉を聞いて、皆が楽しそうに笑った。
「そうだよなあ、昔から虹川先輩一筋だもんなあ」
「月乃はすごく愛されているよね。石田さんとの試合、忘れられないよ」
最後に征士くんのお父様が挨拶をして、私達は退場することになった。退場してからも、出入り口で皆に小さな紫のミニブーケを配った。
こうして、結婚式と披露宴は終わった。
♦ ♦ ♦
「お料理、折角セレクトしたのに、ちっとも食べられなかったわ」
「まあ、それが披露宴の主役ですしね」
「それでもメイン料理くらい、少しは手を付けたかったわよ」
征士くんは宥めるように、私へ軽くキスした。
この日、瀬戸征士くんは、虹川征士くんになった。
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