14 デート?
征士くんの提案で、家から結構離れた、海沿いの大きな水族館へ行くことになった。
自宅の車を出そうかと言ったら、たまには特急電車に乗りましょうと言われた。電車に乗るのは久しぶりだ。
そういえば征士くんと遠出をするのは初めてだ。早い時間に待ち合わせなので、更に早起きしてお弁当を作った。
少し服装に悩む。若い感じの格好をした方がいいだろうか。豊永さんに相談すると、早速コーディネートしてくれた。
「折角のデートですからね。おめかししないと」
「デっ……」
デート、なのだろうか。確かに婚約者同士、遠出するということであれば、デートなのかもしれない。考え込んでいるのをよそに、豊永さんはドレッサーに私を座らせた。
「軽くお化粧しましょうね。月乃さんは色が白いから、アイシャドウや口紅はピンクベースで……。征士さんが格好良いので、アイメイクは濃くして目力を出しましょう」
そう言いながら手際よく下地を塗り、ファンデーションをはたいた。薄くピンクのアイシャドウをグラデーションにし、宣言通りアイラインを強めに引いた後、マスカラを塗る。後は、ぱぱっとチークと口紅を施されて終了。
「わー、目がすごく大きく見える……」
「一応ウォータープルーフの落ちにくいマスカラですからね。化粧直しをポーチに入れますので、崩れたら直してください」
「こんなに綺麗に直せませんよ」
目は強調されたけれど、全体的には薄化粧に見える。コーディネートしてくれたアンサンブルのニットと短めのピンクベージュのキュロットが、歳より若く見える装いに感じられた。
プレゼントしてもらった十字架のネックレスを着けて、トートバッグにお弁当やポーチ、日除けの帽子などを仕舞って準備完了。
豊永さんにお似合いですよとお世辞を言われてから、私は待ち合わせの駅へ車を出してもらった。
待ち合わせの改札には、先に征士くんが来ていた。襟ぐりの空いたグレーのシャツにざっくりとしたショールカーディガン、黒のジーンズがとても似合っている。
「月乃さん」
彼は私に気付いて近寄ってきた。少し頬を染めて微笑む。
「今日は特に可愛いですね。ネックレスしてきてくれたんですね。ありがとうございます。荷物、持ちましょう」
「あ、大丈夫よ」
「僕は手ぶらだからそれくらい持たせてください。電車の乗り換えもありますし、ちょっと遠いですからね」
「……ありがとう」
征士くんがトートバッグを持ってくれた。切符を買って電車に乗る。
「行くのに結構かかる?」
「そうですね、二時間半くらいでしょうか。遠いですけど、広くてたくさんショーをやっているらしいですよ」
やがてターミナル駅に着いて、特急電車に乗り換えた。大分乗るということで、征士くんは小さめのトランプを用意してきてくれていた。二人で何を勝負出来るかを話して、結局ポーカーをやることにした。
「……ツーペア」
「僕はフルハウスです」
「わーん、私もフルハウス狙いだったのに! もう一回勝負して!」
何故か何回勝負しても負けてしまう。フォーカードを出したときは勝てたと思ったのに、あっさりストレートフラッシュを出されてしまった。
「征士くん、強いわね……」
「月乃さんが顔に出すぎなんです。……少し、休憩にしましょう。お手洗いに行ってきますね」
征士くんが席を立ったのでトランプを片付けていると、隣の座席の若夫婦らしき人達から声をかけられた。夫婦らしいと思ったのは、二人とも薬指に真新しい銀の指輪をしていたからだ。
「綺麗な弟さんだね。姉弟でどこまで行くのかな?」
「え?」
私は呆気にとられた。姉弟? ……確かに、傍から見たらそう見えるのかもしれない。しかし、行きずりの人にいちいち婚約者と説明するのも恥ずかしい。私は曖昧に笑みを浮かべた。
「え、ええ……。水族館までです」
「私達も水族館までよ。仲の良い姉弟さんね。男の子なんて、年頃になったら、お姉さんと出かけるなんて嫌がりそうよね」
「はあ……」
答えようもなく生返事をした。そこに、征士くんが帰ってきた。
若夫婦はそれ以上話しかけてくることもなく、自分達の会話に戻っていった。
「どうしました? 変な顔をしていますよ」
「変な顔なんてしていないわよ……。あ、これトランプ。今度は絶対負けないんだから」
「それはどうでしょうね」
くすくす笑われてしまった。私はむっとした。
しかし考えてみると、私は何が征士くんより勝っているだろう。勉強もそこそこだし、テニスも下手。ポーカーも全敗だ。上なのは年齢くらいか。
「帰りはブラックジャックで勝負よ」
「はいはい、わかりました。ほら、ほんの少しだけ海が見えますよ」
車窓を指差されて私も外を見る。トンネルが多いが、隙間で確かに海が見えた。朝の光に波間がきらきら光っている。
「わあ、綺麗ね。久しぶりに海を見たわ」
「ご機嫌が直ったようで何よりです」
何だか征士くんの手のひらで転がされている気がする。唯一の優位点の年齢すら、勝てていないような気がした。
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