6 テニスサークルの新歓パーティ
大学へ入学した。
朝に一人で通学するのは少し寂しい。今思うと征士くんとの登校は面白かった。
もう朝から、昨日読んだ漫画について語り合うことは出来ないし、部活の様子も聞けない。
しかし、中等部と大学のキャンパスは多少離れているのだ。時間も合わない。
溜息をついてシラバスを眺める。
受講したい科目がいっぱいだ。少し気分が上昇した。
サークル勧誘も熱心だ。折角の大学生活だ。今までよりも時間に余裕がある。何か私にも出来そうな簡単で、でも真面目そうなサークルを探す。中には飲み会ばかりがメインとなっているサークルもあるそうで、そういうのは除外だ。
私は一つのテーブルの前で足を止めた。
「『テニスサークル』 初心者にも丁寧に教えます?」
看板を読み上げる。テーブルにいた、ショートカットの綺麗な女性の先輩がこちらを見た。立ち上がってテーブルから回り込んできた。
「こんにちは。新入生かな? テニスに興味ある?」
「はあ、まあ……」
「テニス上手な人もいるけど、初心者も大歓迎だよ。基本から丁寧に教えるからね。経験者?」
私は首を横に振った。先輩はそれを見て、更に熱心に勧誘してきた。
「女子が多いから、合宿とか楽しいよ。練習も週三日程度だし、仮入部なんてどうかな」
女子が多いのか……お友達がたくさん出来そう。先輩も真面目そうな感じだし、週三日ならいいかもしれない。
「じゃあ仮入部します。本当に初心者なので、お手柔らかにお願いしますね」
「やったー、新入部員ゲット! これに新歓パーティのことが書いてあるから、是非来てね。雰囲気とかもわかると思うから」
仮入部の届け出に名前と学部を書く。
「虹川月乃……。月乃ちゃんだね。私は三年の
「はい。え、と、弥生さん。よろしくお願いします」
新歓パーティは三日後のようだ。どきどきする。緊張しなくていいから、と弥生さんに肩を叩かれた。
♦ ♦ ♦
新歓パーティは、大学の近くの小さなレストランを貸し切って行われていた。
本当にこぢんまりとした建物で、からんからんとベルが鳴る扉を開けると、すぐに弥生さんが気が付いてくれた。
「来てくれてありがとう、月乃ちゃん。こっちにおいで」
店の奥まで案内してくれる。立食形式で、人数は大体二十人前後だろうか。女子が多いが、ちらほらと男子学生の姿も見える。
「ほらこっち。この子も一年生だよ。しかも文学部だって」
紹介されたのは、肩まである髪の、目が二重で長いまつ毛が印象的な儚げな感じの女の子だった。弥生さんが凛とした美人なら、この子ははっきり美少女だ。何だか私だけ見劣りしているような気がしてならない。
「こんにちは、
「こんにちは、虹川月乃です。同じく文学部一年です。坂上教授のゼミが希望です」
「こらこら、二人とも固いよー。玲子ちゃんも月乃ちゃんも、一年同士なんだから名前で呼ぶこと。でも、月乃ちゃんは坂上ゼミ希望なんだ?」
弥生さんの問いに頷く。
中世日本文学なら、坂上ゼミが一番詳しいと評判だし、人気も高い。
「はい。『源氏物語』も好きなんですけど、『平家物語』や能楽に興味があって」
「ふうん、倍率高いよー。何を隠そう私は坂上ゼミ。専門は『方丈記』。玲子ちゃんは希望のゼミとかあるの?」
「はい。私も坂上ゼミを……。『徒然草』を研究したくて」
偶然にも三人とも同じ中世文学が希望のようだ。しばらく文学談義で盛り上がっているうちに、すっかり玲子ちゃんと仲良くなった。
彼女もテニスは初心者らしい。体力をつける為に入ったのだとか。一緒に話していると、不意に大声が響いた。
「新入部員紹介ー!」
玲子ちゃんと顔を見合わせる。弥生さんが、私達をお店の中心へ誘った。
「私はサークルの部長、四年の
中心に集まったのは、部長の関さんと私や玲子ちゃん含む女子五人と男子一人。
戸惑ったが、明るい性格なのか、男子が先陣を切って口を開いた。
「はーい。初めまして、俺は法学部の一年、
何と大胆な……。私と玲子ちゃんは呆気にとられた。
それでも順々に挨拶をする。若竹くん以外の五人の女子は、皆初心者だった。
皆、明るくて雰囲気も良く、いいお友達になれそうだった。皆でメアドを交換し合って、弥生さんや関さんとも交換した。
「じゃあ次の練習は、大学の第二テニスコートが予約取れたから、金曜日に集合。初心者の人は何も持ってこなくていいから、動きやすい服で来てね」
「はーい」
関さんの言葉に元気よく返事をする。
そのままパーティはお開きとなった。
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