第6話

 湊が入社して一ヶ月が経った。一ヶ月も経つと湊はベテラン秘書のように動き回った。


「倉敷さん、仕事早いねぇ。光のようだ」


「光は、大袈裟です。朝日社長の為ですから。雇われたからには、精一杯頑張ります」


「君を雇って良かったよ」


朝日はとても嬉しそうにしている。


 社員に対しても湊は好感を持たれていた。


「新しく入った倉敷さん、可愛いすぎますよね」


「彼氏いるのかなー? 狙っちゃおうかな」


なんていう会話があちこちで聞こえる。


湊は、社員に対して聞き込みを開始した。


「朝日社長って、自分で起業して、ここまで大きくしたんですよね? 凄くないですか?」


「そうなんですよ、倉敷さん。朝日社長は尊敬に値します」


「何か成功したものがあったんでしょうか」


「噂なんだけどね、ここだけの話、朝日社長は政府と繋がっているという話があるんだ。政府から大量のお金をもらっているとか。しかもね、今政府が怪しい計画を立てているらしいのさ」


「怪しい計画?」


「内容は分からないんだが、とにかくやばいやつらしい。秘書さんも、あの社長には気をつけた方がいいよ。もし何か怪しい行動をしたら前の秘書みたいに、どっか飛ばされるか、もしくは」


社員の男は、首をちょん切る手振りをした。


湊の任務。それは、政府の新しい計画を知るということだった。怪しい計画。益々あの男が黒に近づいてきた。





「朝日社長、今日の分の仕事、全て終わりました」


「ごくろうさま。倉敷さんがいてくれて助かるよ。じゃ、今日はここで退勤していいよ」


「では、失礼します」


湊がそう言った瞬間、湊がつまづき、湊の体が朝日の体の方に倒れた。そして……朝日社長と湊の唇が重なった。朝日は、湊の下敷きになった。湊は動揺していた。


「ご、ごめんなさい!」


すぐさま、湊は朝日から離れた。


「けがなかった? 大丈夫?」


「大丈夫です! では、また明日!」


湊は急いでエレベーターに乗って下まで降りる。


朝日は一人、体を少し起こして驚きながら、湊を目で見送った。


「え、いま、わたし……」


誰もいないエレベーターの中で一人呟く。実は湊にとっては、さっきのがファーストキスだったのだ。湊は容姿端麗で、モテることはたくさんあるのだが、付き合ったことがなかった。手を繋いだことすらない。


「スパイの私がこんな事で動揺するはずないよね」


湊は自分に言い聞かせながらも、動揺していた。


湊の頬っぺたが少し赤くなった。唇を指で触る。さっきの口づけを確認するかのように。

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