012 イジプの暴神
「前方に浮遊物体?」
「視認できる位置にか?」
各艦艇の艦橋。
突如として人型の浮遊物体が出現したとのこと。同じ内容の報告が各艦で相次いでおり、見間違いではなさそうだ。
「はっ。先ほどまでは何もなく、突如として現れた模様」
双眼鏡を構えたまま答える航海員。見たモノを航海長や船務長に伝え、その言葉はそのまま
「……右手を振っています。やはり人かと」
――映画の撮影な訳ないよな……。
彼らは自らの任務である情報伝達へ従事すると共に、連続する不可解な事態に頭を悩ませる。
『次はくるりっ』
{〈ようてい〉CICより司令部、対象はヒトの形を成している様子。宙に浮きながら手を振り……身体を回転させている}
各艦艇より受ける報告の内容と、映像にあるアテナの言動は完全に同じだ。
カメラなど撮影機材も無しに自らの言動を映像化し、それをビデオ会議に投影させている。
明らかに現実離れした所業であり、やはりこの自称神達は何らかの特別な能力を有している事は間違いないようだ。
『そろそろお邪魔しますよ――』
「――海将補……」
「これは、いよいよ信じるしか無いのか」
あたご型護衛艦〈ようてい〉司令公室。
長テーブル越しに顔を見合わせる、三土海将補と宮里2等海佐。現実離れした現実を目の当たりにしたため、互いに当惑の眉をひそめる。
「ふふ、お困りのようですね」
この場には担当官である三土をはじめ、〈ようてい〉艦長の宮里、および数名の同艦幹部が会議に参加中だ。
あとは給仕係の隊員くらいしか居ないはずだったが、突如として金髪の青年、ヘルメスがこの場へ同席するように腰掛けている。
彼は「まあ、話し合いましょうよ」などと軽々しく発言をしているが、周囲の幹部連中は戸惑いの色を隠せない。
三土と宮里は共に項垂れる。
――やっぱりここに来やがった――。
艦隊行動に影響するレベルの話し合いならば、司令官およびそれに準ずる人物への直接交渉を行うのが当然だ。
そして相応の権限を持つ人物といえば、余程の事がない限りは三土かマクドナルドしか居ない。アテナはマクドナルドの所へ行き、同じような事をしているのだろう。
「……神ねえ」
「神……ですか」
もはや疑うだけ時間の無駄かもしれない。人智の及ばない不可解な行動を取り続ける2人は神なのだろう。厳密には他の定義があったとしても、あえてすり合わせる必要は無い。
「単なる若造にしか見えん」
「うむ……」
まじまじとヘルメスを見つめる幹部自衛官達。
ビデオ会議からいきなり退席したと思いきや、長テーブル沿いの座席へ自分達と同じように腰掛けている。ちょうど隣の席に座っている幹部自衛官は緊張のあまり絶句し、眼球だけを動かして彼を視界に入れるのがやっとだ。
「ともあれ、いつまでも驚いていても仕方がありませんよ。そうだ、コーヒーを頂けませんか」
涼しい顔でコーヒーを要求するヘルメス。三土が給仕係の隊員を睨みつけ、応じるよう顎で合図をする。
「は……はっ!」
隊員は手際良くコーヒーを淹れ、ヘルメスの手前に置いた。
「――で、ここは異世界だというのはどういう事かな?」
「うーん、おいしい! 流石自衛隊の給仕。なかなか良い腕してますね、アナタ」
「……あ、ありがとうございます」
三土の質問を気にも留めず、ヘルメスは晴れ渡るように爽やかな表情で礼を言う。
そして涼しい表情に戻り、三土に目を合わせて語り出した。
「はい、ここは異世界です。よくあるじゃないですか、現実世界の人間がファンタジーの世界に転生したり転移したりするという物語が。まさにソレですよ」
「……はぁ」
息子や孫がよく観ているアニメにありがちな展開だ。三土は若干呆れ気味に受け応える。
「この世界は、我々神々が各地を創造し、ほとんど手を加えずに細々と見守ってきたモノです」
ヘルメスは左手に持ったコーヒーを口へ含みつつ、空いた右の肘をテーブルに押し付け周囲を見渡す。
「ふふ」
そのまま軽く右拳を握り、上機嫌そうに人差し指と親指を擦らせながら淡々と語り続けて行く。
「人間を創造すれば、彼らは文明を築き、発展させ、争い合う。そこは中々面白い」
時折、コーヒーの入ったマグカップを見つめるヘルメス。何気ない動作にも気品があり、やはりどこか高貴な印象が見て取れる。
「しかし正直なところ、そういったものは既にあなた方の世界で見尽くした。そのため、こちらの世界には少しばかり捻りが欲しいと、各地の創造主たる神々は思い始めたのです」
相変わらずの爽やかな表情で交互に三土達の顔を眺め、時折視線を重ねて行く。
「とはいえ、神々が自由にあれこれやってしまってはすぐに世界が滅んでしまいます。そのため、自分達が創造した世界においてオーバーテクノロジーとなり得るモノの召喚は禁忌とし、時代の流れを阻害しないよう見守るという神同士の協定がありました」
ヘルメスはパッチンと指を鳴らし、人差し指を突き上げながら三土へ目を合わせた。
「戦争はお好きですか?」
「愚問だな」
即答する三土。目を閉じ涼しい顔で答えたものの、次第に苛立っているような形相となる。
「おやおや……フフッ」
そんな三土を一瞥し、ヘルメスは薄らと気味の悪い笑みを浮かべながらマグカップをテーブルに置いた。
「さあて」
口元に両手を寄せて顎を乗せ、寄りかかるように両肘をテーブルに立てる。再びぐるりと幹部自衛官達を見渡し、最後に三土を見つめながら言葉を投げかける。
「それはどういう事でしょうか」
白々しい質問が続く。
「ッ!」
普段は温厚な三土だが、流石にこのような状況では心中穏やかで居られない。
先程から挑発的な態度を繰り返す若造の態度に、ついに堪忍袋の緒が切れてしまう。
「解りきった事を! 戦争は少なからず大切な命を奪う。そして国民への経済的負担も大きい! そんなモノが好きな訳が無いだろうが」
憤然とした態度をあらわにする三土。周囲の幹部自衛官達が凍り付く中、ヘルメスを睨み付けながら強い口調で反論する。
本演習へ参加するにあたって、「戦争」というワードは極めてシビアに取り扱っていた事項の1つだ。
大規模な戦争を彷彿とさせる本演習では、言動1つが国民感情を揺さぶりかねない。自ら発する言葉どころか息遣いにさえ気を配るような、針穴に糸を通し続けるような思いで過ごして来たのだ。
それなのに、目の前の若造は軽々しく自分へ向けて「戦争」などと発言した。彼の一連の言動は何とも不愉快極まりないモノがある。
「戦争はお嫌いですか……では、なぜあなた方はこのように強大な戦力を保有しているのでしょうね?」
「――い、いい加減にしろ! ……。ふぅ、貴様、わざと怒らせに来ているな。くだらんわ、何が目的だ」
ヘルメスの質問はあまりにも白々しすぎた。
わざと怒らせ、三土の反応を楽しもうとしていたのだろう。
ここで怒り散らしてはこの若造の思う壺。担当官として参加している以上、いかなる場合でも我を保たなければ艦隊をまとめる事は出来ない。
自身の感情が昂っている事を察知した三土は、無理やり押し殺すようにして気持ちを鎮める。
「――目的……ですか。先程お伝えしたはずなんですがね」
「先程の矛として盾として、というヤツか……だからその真意が知りたいのだかね。……まあいいさ、抑止力だ。我々に侵攻の概念は無い。しかし、攻め込もうとする連中は必ず痛い目を見ると対外的に示すために他ならんさ」
「そうですね、抑止力。それこそあなた方の真骨頂とも言える」
目を閉じ、軽く頷きながら同意するヘルメス。そしてすぐに目を開け、なおも語り続ける。
「……その抑止力は、あなた方の実力を知っている相手にこそ効果を発揮します」
健やかな笑顔で居座るヘルメス。含むような話し方に身振り手振りも交え、楽しげな雰囲気も醸し出している。
「無知な覇権主義国家ならば、あなた方に牙を剥く可能性だって大いにあり得るでしょう」
「ふん。無知にも程があると思うがな」
すっかり平静を取り戻した三土。先程まで組んでいた両腕をほどき、テーブルに片肘を乗せてヘルメスの話に乗り始める。正直なところ、まんざら嫌いな話題でも無かった。
「さて、とある神は禁忌を破りました」
「っほう、お前達か?」
自分たちが何故ここに居るのか。そしてこれからどうすれば良いのかを判断しなければならないのは事実だ。
三土は、真剣な様子で敵か味方かも判らない
「いいえ、別の地の神ですよ。彼女のせいでこの世界は目茶苦茶に……いえ、随分と面白くなってしまいました」
両手を肩幅ほどに広げ、ヘルメスはやや困ったような、それでいて楽しそうな表情を交えて語る。
「この世界で言えば5年ほど前になります。おかげで各地の力関係のつりあいが崩れ、我々の統べる〈グリスの地〉に対して、甚大な影響を与え兼ねない事態となったのです」
「……待て。この世界で言えば? 元居た世界とは時間の流れが違うという事か?」
三土の返答へ頷くように目を合わせ、ヘルメスは再びマグカップを手にする。そのまま残っているコーヒーを見つめ、相変わらずの涼しい表情で語り続けた。
「うーん……違うというか、バラバラです。まあ、1年の長さならば365日ですから体感としては全く同じですね」
「よくわからん。つまりどういう事だ」
眉間をつまみながら困惑する三土。
互いの世界は時の流れがバラバラでありながら、体感は変わらないという。全くもって何を言っているのか理解に苦しむ話だ。
「まあまあ、そこまで話すと日が暮れてしまいます。話を進めさせてくださいよ。……5年前、その神が原因で、人類史上希に見る酷い海戦が繰り広げられたのです――」
――
――〈グリスの地〉、南部のメソス海に浮かぶ海洋国家〈ダナエ王国〉。
大陸の覇権国家〈カロネイディア帝国〉の最南端に属する小国であり、地政学上の重要拠点として扱われていた。
同国は南方の大国〈ナール連邦〉とも近しい距離にあり、覇権主義を掲げる両国に挟まれるようにして幾度となく戦火に晒されていたのである。
帝国と連邦は互いに優れた工業力も有しており、攻防は一進一退。ダナエ王国へは帝国から兵力・資金が大量に供給され続け、南方の海域で続く不毛な海戦の橋掛かりとして扱われ続けた。
「――な、なんだ、アレは」
いつものように不毛な争いが続いていたある日の事。メソス海の情勢へ一石を投じる出来事が起こる。
「なんと巨大な船だ。カロネイディア帝国が造り出したモノなのか?」
ナール連邦の船団付近に現れた巨大な鉄製の軍艦。
「帆が無いのに航行しているな……」
ほとんどの国家が保有する軍艦といえば、帆船であった。そんな中、突如として巨大な砲を搭載した鉄製の軍艦が戦線へ投入されたのだ。いわゆる”戦艦”である。
帆船技術しか持ち得ない時代に戦艦が登場した――。
これは、単なる技術進歩では説明し難い異常事態であった。
「――不可解なのも当然。これはとある神の仕業でした」
解説を交えながら淡々と語り続けるヘルメス。
ナール連邦はメソス海南方の〈イジプの地〉に属しており、管轄しているのは”イジプの神々”だ。
その中の1柱が、当時禁忌とされていた”時代にそぐわないオーバーテクノロジーの召喚”を実施したのである。
「――その神の名はセクメト。短気で、キレると面倒臭いらしいですよ。会ったこと無いんでよく知りませんが」
――
『苛立たしい……。我はもう飽きたぞ。どちらも弱すぎる』
数十年に及び、一進一退を繰り返しているメソス海の情勢に痺れを切らした1柱の神。
彼女は手前勝手に決断する。このまま見守るだけでは面白くもない。世界の1つくらいはハチャメチャに引っ掻き回しても良いだろうと――。
『荒らせ。〈イジプの地〉を統べる〈メンフィス三柱神〉が1柱、セクメトの名のもとに命ずる。生きたくば敵を滅ぼせ! さもなくば貴様らに待っているのは”死”のみである』
とある別世界、とある帝国の旗艦として活動中だった戦艦の甲板。突如としてセクメトと名乗る女が立っており、意味の解らない事を叫んでいる。
「……長官。あれは一体……」
「わからねえな。しかし甲板に居るはずなのにやたらと声が聴こえるもんだ」
一瞬、目の前が真っ白になった。
瞬きをするよりも短い閃光。――眩暈? いや、今はそんなことは気にしていられないだろう。
「――! 敵艦見ゆ! 周囲に無数の艦影! その数……少なくとも300以上……数え切れません!」
「うん……なんだと?」
『ふぁははは! 足掻け! 殲滅せよ! そして生き延びて見せよ――』
先程の女の声が響く。赤い装束に獅子の仮面。人間のようだが恐らく違う。
艦橋から姿を追ってはいるが、やがて彼女は浮遊し、間もなく消え去ってしまったのだ。
「……チッ。僚艦はどこだ?」
「い、一切見当たりません……木造の帆船だらけです。こんなことが?」
戸惑う艦橋。
味方の戦艦が音もなく忽然と姿を消した。そして、周囲には無数の帆船が浮かんでいる。
まるで大昔の大海戦だ。
2種類の紋章を掲げた船が入り乱れ、砲撃や白兵戦の応酬をしている。さらに、いくつかの艦隊はこちらに向かって航行し始めて来た。
「……囲まれました。近いモノは3海里にも満たないかと」
数隻の帆船が旋回し、横腹を見せる。
40門程の大砲、そして帆を開いた3本の大きなマスト。見た目はまさしく、大昔に活躍していた”ガレオン船”だ。
砲門が次々と開き、同時に砲煙が見え始めた。ひと呼吸あけるくらいの時間差で無数の鉄球が降り注いで来る。
そして分厚い装甲にぶつかる砲弾がガンガンと心地よくない音をたて、艦中に響き渡って行く。
「……なんだ、戦える船なのか。……艦長、合戦準備!」
「承知。合戦準備! 両舷砲戦。……俯角1度、甲板の退避急げ」
「――合戦準備! 両舷砲戦。……俯角1度、甲板の退避急げ」
艦長より出された指示を伝令が復唱。瞬く間に甲板作業員の退避が完了し、数門の巨大な主砲が火を吹いた。
「……効いているな」
周囲を囲んでいるガレオン船……。恐らくは砲撃戦特化の”3装甲式ガレオン船”だろうが、砲撃力の次元が違う。
戦艦より水平射撃された時限信管付きの対空砲弾。炸裂と同時に、ガレオン船を紙のように容易く貫き轟沈させて行く。
「むう、撤退はしないのか」
圧倒的な火力差を目の当たりにし、2種類のうち片方の紋章を掲げた船団は撤退し始めた。だが、もう片方は果敢にも接近してくるようだ。
帆船相手ならば風上に逃げれば追ってこれないのだろうが、既に完全に囲まれてしまった。
両舷を全速で回し脱出を図るも、ぶつかる航行不能船や残骸のせいで推力がかき乱されてしまう。
「不味いぞ。装填急げ」
数が多すぎて主砲の装填が追いつかない。
やがて数百メートルの距離まで接近され、ガレオン船は先程より口径が大きいであろう大砲に切り替えた様子。更に激しい集中砲火を喰らうようになってしまった。
戦艦といえど流石の装甲にも変形が見られる。一部浸水している箇所も出ており、機動力の低下も顕著に現れてきた。
これほどの至近距離となってしまっては、もはや主砲弾での殲滅は効率が悪い。
要員を甲板へ出し、副砲や対空兵装を船団へ向けて殲滅を図って行く――。
「――だいぶ、減ったか」
「はい……粗方片付いたかと」
数日間の激しい砲撃戦が続いた。
とても醜い海戦だ。大破したガレオン船が大量に押し寄せ、一部は沈みながらも戦艦へ砲撃を繰り返す。
戦艦もまた、沈み行く藻屑となったガレオン船に追い討ちをかけるように砲撃や射撃を浴びせ続けた。
恐らく、1国の海軍を殲滅したと言える程のガレオン船を沈没させただろう。
中には白兵戦のため接舷を仕掛けようとしてくる船もあったが、
「――修繕が必要です」
「そうだな」
圧倒的な戦闘力を見せつけた戦艦だが、無数に浴びた砲撃により痛手を負った。依然航行は可能であるものの、放置しておけば浸水の悪化が懸念される状態だ。
「……長距離航行は無理だな。……むう。敵地への寄港を試みるしか無いのか――」
――
「――それで、〈グリスの地〉側の海軍が手薄になったから我々を召喚したと?」
「ご名答! まあ正確には帝国の海軍がですね。〈グリスの地〉にも国家は複数ありますので」
戦艦の参戦によってカロネイディア帝国の海軍はほぼ壊滅。
ナール連邦も途中から撤退判断を下していたとはいえ、戦艦による容赦ない砲撃によって多数の軍艦を失う事となった。
「あれから5年。ナール連邦が軍備を整え、再び侵攻を開始するのは時間の問題。対するカロネイディア帝国は海上戦力の消耗が激しく、周囲を海に囲まれているダナエ王国を守り抜く余力が無い。……そのまま捨てる算段です」
「……セクメトは禁忌を侵したのだろう。神々からそれなりの報いを受ける事はないのか?」
三土の疑問は至極当然である。協定に反したのであれば、何らかの制裁が下ってもおかしくはない。
「いえ、特に罰則は定めていません。むしろこの世界は本当につまらなかったので、良い機会となりました。神々は協定を改め、各々1回ずつくらいは好きなモノを召喚できるよう制限を緩和する事にしたのです。まあ、ノルドの最高神なんかは特殊な方法を用いて協定をすり抜けているとも聞きますがね……」
「……なんて軽い協定なんだろう……」
呆れ顔で呟く宮里。周囲の幹部も同様の表情だ。
「しかし、この規模になると神とて1人だけでは召喚できません。だから私とアテナで力を合わせ、あなた方をお呼びした訳です」
「それで、我々に〈グリスの地〉を守れという事か」
カロネイディア帝国の海軍は壊滅し、5年経過してもなお原状回復には至っていない。ナール連邦が再び攻め込めば、ダナエ王国もろともメソス海の覇権を奪われるのは必至だろう。やがては領土をも脅かす存在になり兼ねない。
「うーん、半分正解といったところでしょうか。正直なところ、〈グリスの地〉にいる人類が滅びたところで我々にデメリットはありません」
「……では、何故我々は呼ばれたのか?」
しかしヘルメスは、帝国を守る事が目的ではないと言う。
「ダナエ王国です。この国は我が父ゼウスが入れ込んでおりまして、滅ぼす訳には行かない。帝国が撤退して危機が迫っているこの小国を守るため、ゼウスの命により我々があなた方を召喚致しました」
『――ここまではよろしいですか、マクドナルド中将』
『フンっ。話が長い。貴様が話している間にチキンブリトーでも用意しようかと思っていた所だ』
ブルー・リッジ級揚陸指揮艦〈グレート・スモーキー〉。ヘルメスと同じく神を名乗る少女、アテナがマクドナルド達へ同様の話をしている。
『まあまあ、落ち着きましょう。ここに居る皆さんにしっかり伝わった方が、全体への周知もしやすいでしょう?』
『ぬかせ。ここの最高司令官は私だ。私さえ知っていれば全ての情報は伝えられる』
透き通るような美しい顔の少女、アテナ。
丸太のような両腕を組みながらふんぞり返るマクドナルドを
しかし、彼女はすぐに楽しそうな表情へ戻り、再び口を開く。
『……最高司令官。――ふふっ。最高司令官ねぇ』
人差し指で自分の唇に触れ、まるでマクドナルドの発言が詭弁であるかのように、アテナは含みのある笑みを浮かべる。
そんな彼女の言動を目の当たりにしたマクドナルドは、見る見るうちに表情を曇らせた。
『……貴様。この私を馬鹿にでもしているのかね』
『いえいえ、そんな事はありませんよ。ただ、真面目な方だなぁ~と思っただけです』
見るもの全ての熱量を奪いそうな、冷酷かつ鋭い目つきとなったマクドナルド。やはり何度見ても恐ろしい――周囲の幹部連中は再び背筋が凍りつくのであった。
『さて、進路はそのままでお願いします。もうすぐ陸地を視認できるはずですよ』
『……フン、我々が停泊できる規模の港があれば良いがな』
――ワ・レ・キ・コ・ウ・ヲ・モ・ト・ム
港へ接近を試みる、あさひ型汎用護守艦〈うすづき〉。発光信号を用いて現地人とコンタクトを図る。
「――どうだ? 反応はありそうか?」
艦長の福島1等海佐。心配そうに逐一部下へ状況を確認する。
「うーん、どうでしょうね……」
「ううむ、ここが本当に異世界であるのならば、そもそもモールスの概念があるかも怪し――」
ワ・レ・カ・ン・ゲ・イ・ス・キ・コ・ウ・セ・ヨ
「うおお、”我歓迎ス、寄港セヨ”!」
「よしっ、司令部へ伝えろ!」
――港が近づく。
艦橋より双眼鏡で視認すると、ところどころにある望楼に見張り兵らしき人物が立っているのが判る。見た目は完全に東洋人であり、白色の軍服のようなモノを着ている。
「――! あれはっ」
「おぉっ、日章旗」
港の数カ所にはためく小さな日章旗。派手な紋章の旗と共に飾られており、いくつかは軍艦旗も飾られている。
ヨ・ウ・コ・ソ
〈うすづき〉が入港すると、望楼の兵が手巻発電式の発光信号機を用いて歓迎の意を伝えて来た。
「日本人なのか?」
「ここはまだ異世界じゃなくて日本なんじゃないか?」
艦橋で話し合う航海員達。その場に居る幹部も交え、見慣れぬ港に居る日本人のような風貌の人々への好奇心が隠しきれない。
「――着いた」
巨大な港だ。演習艦隊の全艦艇が難なく停泊できるだろう。
しかし、いきなり全艦で寄航するのは無防備というもの。まずは視察も兼ねて〈うすづき〉が単独で寄航することになったのだ。
「ふうっ、午前中に出航したばかりだが、なんだか陸地が久々な気がするぜ」
「そうか? 俺はまだまだ海に居たかったな」
たわいない会話をしながら〈うすづき〉乗組員が下船して行く。
そこへ馬車が駆け寄り、白色の軍服を来た兵が降りて来た。
そして自衛隊員達へ声を掛ける――。
「あ、あの。あなた方は……大日本帝国連合艦隊の、増援……なのでしょうか――?」
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