制服を捨てて夜を歩く
とある中学生(わたなべ)
第1話 『檻の中で、秩序警察が牙を剥く』
Ep.1 『檻の中で、秩序警察が牙を剥く』
いつもの教室。いつもの日常。
「今日、転校生が来るらしいよ」
「えー、男子かな?」
「男目当てじゃん〜笑」
いつもの女子。
「なんか転校生が来るんだって」
「かわいい女の子がいいな〜」
「お前ほんと面食いだよな」
いつもの男子。
私はひとり自分の席で顔を伏せながら、耳に入ってくる会話を聞いていた。すると、何度聞いたかもわからない朝のチャイムが鳴り、各々が自分の席へと散らばっていく。それと同時に、教室のドアが開いた。
「おはようございます。えっとね、今日は転校生が来てますんで……」
少し荒い息を抑えながら、担任の先生、新井信之がそう言った。
「じゃあ、入ってきて」
私は何を思う訳でもなく、机の上にあるシャーペンをぼーっと見ていた。だけど、ドアが閉まる音がして、何となく顔を上げた。
教卓の前に立っているのは、女の子だった。
ショートヘアで、薄茶色の髪の毛で、背の高い、女の子。
前髪から覗かせている瞳は泳いでいて、緊張しているのが伝わってきた。私があの子の立場だったらパニックになってるかもなー、なんて考える。
静寂が訪れたのも束の間。少し俯き加減のその子に、先生は「自己紹介をお願いします」と遠慮気味に声をかけた。
その女の子は軽く頷いて、口を開いた。
「……森ヶ丘高校から転校してきました、九堂飛鳥です。よろしくお願いします」
すると、一人の生徒が拍手をして、それに続くように皆も拍手をした。……それにしても、森ヶ丘高校って……。
記憶を辿っている内に、その子は既に後ろの方の席に着いていた。
でも、一人転校してきたくらいで私には何の変化もないしなぁ。
「1限目は──。」
私は、変態臭が漂っている先生の話なんて聞かずに、小さく「死ね」と刻まれている机に突っ伏した。
──
「──い、……おい西宮、何回言わせるんだ。お前が寝てたら、周りの生徒に影響するだろうが」
ゆっくり顔を上げると、目の前には新井が立っていた。1限目は新井の授業なのかよ、と思いながらため息をこぼすと、新井は持っていた教材で机を叩いた。
その瞬間に斜め前の人の肩が跳ね上がり、少し頬が緩んだ。
それでも何とか気を取り直して机の上に教科書やノート、筆箱を出したが、新井は動かないままだ。
「……何ですか」
「何ですかじゃないだろ。お前のせいで授業が止まってるんだよ」
「じゃあ、教室から出ればいいんですか」
「そうは言ってないだろ」
「名前が新井ってだけに、性格も荒いんですね」
「私は、教師として正しいことを言っているんだ。……それに西宮。お前がそんな態度をとるんだったら、私は親御さんに電話をする」
「……っ、言いましたよね。先生が電話したら、私は自殺するって」
「お前のどこにそんな勇気があるんだ」
「……………………」
「良いか?ここはお前の家じゃない。……お前はな、集団生活をしているんだ。それなのにお前みたいな輩がいると、全てが乱れる。……どうしてそうも協調性がないんだ」
ほら、やっぱりだ。
新井は何にもわかってない。何にも知らない。
「黙ってないで何とか言ったらどうだ?……ったく、これだから最近の若者は嫌なんだよ。少し物申しただけで被害者ぶるんだからな。私が子どもの頃はもっと素直で、純粋で、それから、──」
「……もういいです!……今日は授業受けませんから」
目頭が熱くなったのを合図に、私は教室を飛び出した。
情けない。弱虫だ。私は一体、何のために。
そんなことを思いながら、廊下を走った。
その途中、頭の中で新井の言葉が繰り返される。
’’お前は逃げてばかりの根性無しだ!!’’
最後に聞こえた新井の声は、私に対する皮肉で包まれていた。
制服を捨てて夜を歩く とある中学生(わたなべ) @Watanabe07
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