私と毒者と仲魔たち
下垣
※このエピソードはフィクションです
俺の名前は、
俺には腐れ縁の幼馴染がいる。
それに対して、俺は平々凡々そのものである。成績も悪くはないが、良くもない。運動神経もサッカー部でレギュラー入りを果たすも、市の大会ですら勝ち上がれない程度。顔も至って普通で、女子からは嫌われることもなければ、好かれることもない。
同じ幼馴染なのに随分と差がついたものだ。菜々美はもっと上の高校に行けたはずなのに、俺でも入れる平凡な高校に入学している。中学の時の担任に随分と驚かれていたらしい。
俺も疑問に思ったので、そのことをそれとなく菜々美に訊いてみた。しかし、菜々美は俺の質問には答えずに「鈍感」とだけ呟いて去ってしまった。俺は彼女の真意がわからないまま、もやもやとした気持ちを抱えていた。
そして、事件は起きた。
「入学した時から鈴木君のことが好きでした。私と付き合ってください」
女子に全くモテなかった俺が、同じクラスの女子に告白されたのだ。そのことを菜々美に報告するも、彼女は面白くなさそうな顔をして、俺の膝に蹴りを入れてきた。
全くなんなんだよアイツ。幼馴染の幸せを素直に喜べないのかよと俺は心の中で悪態をついた。
この時、俺はまだ菜々美の気持ちに気づいてやれなかったのだ。
◇
よーし。今日も新作の小説を書いたぞ。早速投稿しよう。と意気込んでいる俺はウェブ小説家だ。
最近はラブコメ人気が高まっているので思い切って挑戦することにした。読者の反応はどんなものだろうか。それを想像するだけでワクワクした気持ちが止まらない。
しかし、そんな俺のワクワクした気持ちをあざ笑うかのような読者のコメントがつきまくっていた。
『どこにでもいる普通の男子高校生は、自分のことをどこにでもいると評さない定期』
『鈴木にわざわざルビを振るとかバカにしてんのか?』
『鈴木三四郎がどこにでもいる? 鈴木はともかく、三四郎って名前のやつに会ったことないんだが?(´・ω・`)』
『なんで一行目でいきなり自己紹介してんのこいつ。誰に向けて? ちょっと頭おかしくない?』
『既に指摘している人もいるかもだけど。心理学では、人間は同程度の集団に属している時は自分を平均以上の実力があると思い込むらしい。つまり、自分を普通だと思っているやつは普通じゃない。異常者だ』
『↑じゃあ、自分を異常者だと思っているやつは?』
『↑それは普通に異常者だろ』
『↑草』
『これ、普通に異常者のパラドックスで一本話かけるんじゃね?』
『自分を普通だと思っているやつは心理学的には異常。異常だと思っているやつも異常。つまり、人間は異常者しかいないじゃないか』
『全員異常だったら、それが正常だってことになるんじゃないのかな?』
『まーたパラドックスが発生しておられる』
なんで、こいつら一行目の感想しかしてないんだ。ってか、感想欄で小説の内容に関係ない話すんな!
折角ついたコメントを削除するのも忍びないけれど、これはあまりにもひどすぎる。一行目にしかコメントが付かないとか遠回しにお前の小説は一行程度しか読む価値がないって言っているようなものじゃないか。
こんな毒者コメントは修正してやる。削除! 削除! 削除! はっは。ざまあみろ。ウェブ小説は作者権限でコメントを削除できんだよ! 思い知ったか!
でも、全くコメントが付かないというのも寂しい。こうなったら、仲間たちに頼んで肯定的なコメントをしてもらおう。俺にはこういう時のために頼れる仲間がいるんだ。俺の人脈の凄さを見せてやる!
『主人公の名字が鈴木なのが親近感があっていい。グッド』
『一行目の導入からワクワクさせてくれますね』
『自分のことをどこにでもいると謙虚な姿勢が好感がモテる主人公です。ぜひ応援したいですね』
『いい小説っていうのは一行目からオーラが出てるもんだなあ』
『セガサターンしろ』
なんでこいつらも一行目にしか言及しないんだよ。そんなに反応されるような一文は書いてねえ! 二行目以降も読め! 後、せがた三四郎は関係ないだろ!
結局、仲間に頼ったところでロクなことにはならない。小説家は孤独な職業だ。己の想像の世界を構築する。それは、誰にとって代われることもないけれど、その分誰の援護も受けることができない。仲間に頼ろうとした俺が愚かだったんだ。
つまり、自分で自分の感想を書けばいいんだ! そう思って、俺は複数のアカウントを取得した。
『とても面白いお話で感動しました。菜々美の気持ちに主人公が気づかないのももどかしいですね。これからの展開が楽しみです』
後日、俺は複垢の容疑でアカウントが消されてしまった。複垢、ダメ絶対!
私と毒者と仲魔たち 下垣 @vasita
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