不死身の心

へーたん

旅の果てに

『さってと?生きてるかなぁ、不死身チャ~ン?キャハハ!』

「ぐぎ……!?」

 渓谷に落とされた。あまりに急で脈絡もない暴挙。響く彼女の声。背骨が砕け、肺と胃が爆ぜた。声が出せない。

『これでも生きてるのねぇ!おっそろしい~!』

 なんで?解らない。私がこうなる理由はないはず。彼女は私を受け入れてくれたのだから。

『ヘイヘイヘ~イ?なんか言ってよ~?』

 軋む身体。痛い。痛い。彼女の遠い声が、やけに耳に響く。とにかく修復をしなきゃ。

『うわ、きっしょ~!キモいお前にプレゼント~♪』

「──!?」

 潰れた肉体に、砂礫されきが降り注ぐ。砂が傷口に毒となり、尖った石は突き刺さる。

 つまり。

「い、いだいっ!イダイダイダイィィ!?」

 痛覚が暴走する。思考が霧散する。信頼が崩壊する。

「なんで……?ナンデ!?」

 彼女はそんな人間ひとじゃない。絶対にありえない。あんなに優しかったんだ。おかしい。なんで。

 私と彼女は愛しあってたのに。相思相愛だったのに。

『なんでぇ?普通にわかるだろ、不死身ちゃん。いや、〈バケモノ〉さぁ』

 バケモノ?なにを言っているんだろう、彼女は?

 私が?バケモノ?なんでそんなこと言うの?

「私ハただ、不老不死なダケでしょ……?」


『──あぁそうだねぇバケモノさんよぉ!お前があたしを騙してなけりゃ!あたしはお前を拒んでた!不死身の化け物といちゃつく趣味はないから!あたしはテメエの〈内側〉全て受け入れてやるとは言ったけどさぁ!〈外側〉がバケモノは話が違う!──地獄に墜ちろ!』


「…………ハ?」

 なにを言ってイルのだ彼女は?ダマした?ワタシが?

 ──アリエナイアリエナイアリエナイ。

 ワタシは彼女を愛してたジャナイ。ドウシテ私が拒まレルノ?


 ワタシガコンナニアイシテルノニ。

 シンジテタクサンアイシテルノニ。


 アア、ソウカ。


「ワタシノ〈アイ〉ガ、タリナインダネ?」


『ま、待って?嘘でしょ?まだ動けるの?マジでバケモノじゃんコイツ!』

 アイシテル。

『え?待って待って!登って来ないで!き、気持ち悪い!』

 アイシテル。アイシテル。

『落ちろ!落ちろぉ!なんで!?早く落ちてよ!』

 アイシテル。アイシテル。アイシテル。

『やめっ!やめろぉ!来るな!来ないで!あ、あ、あ……!ホントにやめて!謝る!謝るからぁ!近づかないで!』

 アイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテルアイシテル──。

「ひっ……!?や、め──ギャァアアアアァァ!?」

 ──ワタシハアナタヲアイシテル。


「──コレデ、オナジバケモノダネ?」

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不死身の心 へーたん @heytan

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