ナチュラル・サンクス
星埜銀杏
#01
…――僕は思うんだ。
強く、こう思うんだ。
主人公になれるような人物は、この世に二人といないってさ。
この世での主人公、それは悲しいかな間違いなく僕じゃない。
だから、
探すんだ、主人公を。
主人公と友達になって平凡に生きてきた僕自身を変えるんだ。
そして、
友達になってくれたら、そして、僕の人生が劇的になったら。
こう感謝したいんだ。
ありがとうって、さ。
さあッ!
主人公を探し始めようか。輝く明日の為。
街角に出て、人混みの中で、ひときわ目立つ輝きを放つ人物はいないかと目を光らせる。主人公になれるような人はいないかってさ。主人公は、自分を平凡で一般的なんて言う。けど実は個性的で、人混みの中でも、ひと目で分かる。それが主人公。
ああ、そうだ、先に断っておくけどもさ。
僕も平凡に生きてきたなんて言ったからフラグじゃないかと勘違いされても困る。
僕が、お話の中へと放り込まれたら間違いなくモブになるね。
まあ、世の中にはモブが主人公のお話もあるから、モブになるようなやつが主人公になれないなんて事はない。けどね。もし、モブが主人公のお話が在って、僕が主人公だったら……、朝起きて学校に行って、学校から帰って、夜になったら寝る。
そんな、
日常が延々と繰り返されるようなどうにもつまらないお話になってしまうだろう。
伏線もなくオチもなく笑える場面も泣けるシーンもなにもない平坦なお話になる。
言っちゃえば、一般人の日記とも言えるようなものだろうか。
有名人でもなければ面白い事も言えない単なる高校生の散文なる3分クッキング。
しかも、短文なやつ。
それは、間違いない。
だからこそ僕は主人公を探しているんだ。
繰り返しになるけど、
そんな、お話にもならないようなものの主人公にしかなれない僕を変えたいのだ。だから主人公と友達になりたい。……などと考えながら、町中をくまなく探索していると、目の前から、褐色の肌を持ち、銀髪な、デカおさげの女子が歩いてくる。
「よっ!」
面識もない僕に右手をあげ挨拶する女子。
女の子としゃべった事が、数えるほどしかないから、ドキドキして焦ってしまう。
手に汗を握ってしまい、思わずうつむく。
顔が赤いのバレてないかな。ドキドキだ。
「元気? 死にそうな顔してるぞ、男の子」
てかさ。
……馴れ馴れしいぞ。
この子。
なんて恥ずかし紛れにも憎まれ口的な思いを浮かべてしまう。
女の子は、意にも介さずに二の句を繋ぐ。
「あたしは三珠イタコだわさ。青森県恐山で霊媒師してるッス」
うおお。
てかさ。
いきなり、当たりを引いたか。恐山の霊媒師って口寄せのイタコってやつだよな?
イタコをやる女の子の名がイタコ。名は体を表すってやつだ。
めっちゃ分かりやすくて、主人公っぽい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます