情操教育

足玉煮穴

ある英雄のお話

昔々あるところに、とても強くて優しい男がいました。

彼はその力を惜しみなく、皆のために使いました。

その戦う力で侵略者や魔物から国の皆を守り、

また、その癒しの力でどんな重傷の者も病気の者も完治させ、

国中の民から感謝され、「英雄」と呼ばれていました。


彼のおかげで国は豊かになり、どんどん大きくなっていきます。

彼に助けられた者も大勢おり、

子供は皆彼に憧れ、彼のようになりたいと思いました。



しかし、彼は急に何もしなくなりました。



彼のおかげで回っていた国防や魔物の駆除、医療などが、

すっかり滞るようになってしまいました。


困った皆は再三の説得を試みます。

何千、何万という人が詰めかけ訴えましたが、

彼が頷くことはなく、

王様からの呼び出しにも応じることはありませんでした。


ついに国は軍を出し、長い戦いの末、

何千人という犠牲者を出しながら、彼は倒されました。

「英雄」と呼ばれた彼は、「大罪人」として、

歴史に刻まれることになったのです。




◇ ◇ ◇




「だから、大きな力は皆の幸せのために使わないと駄目なのよ。」


「ウチの子は才能有るから、英雄になっちまうかもなぁ。ハハハ。」


「ふーん。でも僕、英雄になんかなりたくない。」


「え…どうしてだい?」




「だって英雄は誰にも幸せにしてもらえないんでしょ?」




◇ ◇ ◇




そうして、英雄の卵はその才能を開花させることのないまま、

末永く幸せに暮らしたのでした。







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情操教育 足玉煮穴 @ashitamaniana

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