キャットフィッシュ

@makiful777

第1話

キャットフィッシュ。

英語圏の国で使われているスラングだ。

インターネット上で別人になりすます人のことを指す。

僕は、キャットフィッシュだ。


そもそもの始まりはSNSだった。

自分のままじゃ、フォローもイイネも増えない。

それで、別人の写真を使った。

名前も変えた。

だけど言っておこう、中身は完全に僕のままだ。

素直に正直に、全てを曝け出している.

作られたのは名前、そして写真だけだ。

単なる入れ物が、少し、少しだけ違っているだけだ。


いろいろな人と文字だけで会話をしてきた。

その中に、ひとりだけメールや電話をするような仲になった子がいる、

頭の回転が速く、優しく、そのくせ少し抜けているところがある、かわいい子だ。

見た目も声もとても愛らしい。

彼女に恋をしてしまった。


幸いなことに彼女も自分に好意を抱いてくれている。

本来なら手放しで喜べる状況だが、僕はキャットフィッシュだ。

いつ切り出すべきか悩んでいるうちに、半年が過ぎていた。


日課になった彼女との通話の中で、会いたい、会って時間を共有したいと言い合った。

毎回盛り上がるものの、なかなか実現しない。

もちろん僕が理由をつけてうまくやり過ごしているからだ。

だけどいよいよ、言い訳も尽きてしまった。

どうしてた会わなければならなくなった日、彼女に急用ができ、延期になった。


首の皮1枚でつながった。

だけどもうこれ以上はごまかせない。

本当のことを伝えるべきだと決意した。

いや、そもそも嘘なんかついてはいない。

僕のままで全てを話してきた。

入れ物は違えど、そんなことで彼女は僕を判断しないだろう。

だって、中身は僕なんだから。

彼女はよく言ってたじゃないか、こんなに合う人と出会えて幸せだと。

これまで好きになった人も、みんな見た目ではなく性格に惹かれたと。


少し肌寒いなと思いながら待ち合わせ場所に向かった。

時間にきっちりしているはずの彼女が、20分過ぎても来ない。

待ち合わせをしているのかなと思う人は何人かいるものの、彼女の姿は見えない。


そのときスマホが震え、出てみると彼女だった。

着いてるよ、どこにいるの?!

2人の声が重なった。

まわりを見回すと、同じような仕草をしている子と目があった。


誰だ?

向こうも自分を訝しげに見ている。

通話したまま歩き出すと、彼女も同じように歩いてくる。


そうか、彼女もキャットフィッシュだったのだ。

その彼女も驚いた顔をしている。

通話をやめ、彼女と対面した。

話したいことは山ほどあるが、それが倍くらいになってしまった。


カフェに入り、なんでこんなことしたのかを聞き合った。

僕とまったく同じ理由だった。

そして、同じことを言った。

嘘をついていたわけじゃない、違うのは見た目と名前だけ、中身は全部自分だったと。

外見は気にしない、性格が全てと言っていたから、不安だったけど会うことにした、と。


僕と彼女は思った以上に似たもの同士だった。

まるで自分を見ているかのようだった。

こんなにも共通点がある人にはもう出会えないかもしれないとも思った。


だけど僕はどうしても彼女を受け入れられなかった。

どうやら彼女も同じようだった。

外見なんて入れ物で、中身が大事とあれだけ言い合っていたというのに。

お互いにダブルスタンダードだったということか。


訂正しよう。

入れ物も、それなりに大事だ。

入れ物と中身のバランスが、人を強く惹きつけることにつながるんだ。

それを知った18の秋。

まさに、青春のリアル。

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